にじゅうごにち 2
気がつけば、居酒屋の中はすっかり賑わっていた。
あちらこちらに目を回せば、皆んな笑顔で。
「──ぁ」
不意に、つい先程来た男子と目が合った。
橋下君。
地味な印象だったけど、どうやら色んな人から愛されているらしい。
彼の周りを色んな人が囲っていた。きっと、私の第一印象とは裏腹に、彼は愛され体質なんだろう。
印象って、話してみると変わるもんだよ。
「・・・」
──鳥海さんは、私の事どう思ってるのかな。
変な出会い方をして、後ろを歩いて。
待ち伏せして、一緒に長い階段を登って。
気づけば、お互いに敬語も無くなって。
合っていた視線を外して、適当に視線を彷徨わせる。その視線の行先は、ひとつのモニターに留まった。
「ここ、カラオケあんだ?」
「うん。あるよ、一応最新曲も色々入ってる」
美咲に聞いてみれば、そう答えてくれる。
「いいな、家にカラオケあんの。自由に歌えんじゃん」
「いやいや、毎回ここで歌わないとじゃん。お客さんに聞かれるわ」
なんて、美咲と会話してたら。女子陣に飲み込まれっていった小雪が帰ってきた。
「た、ただいま」
「おかえり。可愛がられてたね」
「はぁ、あぁぁ。勘弁してほしいぃ〜」
この子も、愛され体質だな。橋下君と同じ。
「そうだ、小雪」
「うんー?」
「白奈が小雪とカラオケ歌いたいらしいよ」
「は?」
それは、なんというか・・・豪速球のパスだった。
そんなこと一言も言ってないし、ましてや
なんで小雪と・・・?
「いいよ、何歌う?」
気づけばデンモクを持ってきていた。用意が速すぎる。
「え、なになに?カラオケ?」
「は?あんたらに聞かせる歌無いから出てって」
「ひどぉ!?」
鬼か?
とぼとぼと散っていく男子陣。その中には橋下君がいた。
「どれ歌う?履歴から決める?」
「なんでもいいよ」
「結構乗り気やん白奈」
マイクを持って小雪の頬を突く。やめて〜とか言っときながら、どこか嬉しそうだった。
「もうなんでもいいや、これにしよ」
履歴から適当に選んだのは、ゴリゴリの恋愛ソングだった。少しだけ頭を抱える。
「──そっか」
「あ、これ嫌だった?」
「ううん、丁度悩んでたから」
「え?」
「小雪・・・死にたいんだね」
「は、ちょ、待って!!そんな綺麗な笑顔で言わないで!?しーちゃん!!!怖い怖い!
助けてみさみさ!!」
「墓石は安めでいい?」
「や、やっぱ歌うのやめようかな」
持っていたマイクを置いて、歌うのを躊躇う小雪。
けれども、デンモクからはもう送信されているため、白奈はマイクを手放さない。歌う姿勢。
「あれ、歌うんだ」
「まぁね。折角だし」
曲名が表示され、イントロが流れる。
「頑張れー!木ノ下ー!」
「木ノ下さんー!」
クラスメイト達ははしゃいでるけど、私の心は波風ひとつない。落ち着いていた。
「すぅ・・・」
──ビックリするほど、この曲と私が重なった。
遅すぎた自覚、苦しみ。辛さ。幸福感。
それでもなお、好きでいてしまうジレンマ。
張り裂けてしまう程の、恋心。
私は今・・・どんな顔して、鳥海さんと向き合えばいいんだろう?
疑問を抱えたまま、歌い続ける。
好きを、愛を、恋を、謳い続ける。
音程はずっと安定してる。このまま歌いきれれば、かなりの高得点が出るはずだ。
「──ぇ」
視線を感じ、そこに瞳を動かしてみれば
橋下君がマイクを握っていた。
「お!おぉ!!いいぞ!!」
「橋下君、え、うたうまっ!?」
まさかの乱入に困惑する。そのせいか、初めて音程がずれてしまった。
──やべ、自己ベスト更新できないな。これ
呑気にそんな事を考えてしまう。
そして、最後のラスサビ。橋下君の声と私の声が重なって。曲はフェードアウトしていった
「──あ、あはは」
どこか照れ臭そうに、笑いかけられる。
反応に戸惑いながらも、私は小さくお辞儀をしてマイクを静かに置いた
ちょっした沈黙。
静寂を切り裂いたのは、隣に座っていた小雪だった。
「こらぁ!!しーちゃんの邪魔すんなよぉ!」
「ごめんごめん、一緒に歌いたくなっちゃって」
小雪が大声で抗議しても、男子達は楽しそうにはしゃいで、大騒ぎ。
「やっぱ2人ともそういう感じか!?」
「橋下、隠すなよ!!俺ら友達じゃん。ちゃんと教えろって」
「おい、やめろって!!まだそういう関係じゃないからな!?」
「まだ〜!?ええぇぇ!!?」
男達の盛り上がりは冷める事なく、私と、照れ臭そうに笑っている男子の話題で盛り上がっている。
・・・気づけば、男子だけでなく女子達も混ざり始めていた。
「は?何あいつら・・・。マイク貸して、私止めるわ」
「いや、いいよ。楽しんでるならいいじゃん」
「ハイパーボイスは当店禁止ですよ。小雪さん」
小雪が完全に怒っていた。
ブチ切れモードの小雪は私ですら怖い。頭を撫でて落ち着かせ、元の席に座らせる。
「おぉい、騒ぎすぎー!白奈はそんな気ないぞー」
熱気を冷まそうと美咲が声をあげるが──。
「いやいやいや!だって、ねぇ?」
「馬鹿!マジやめろってぇ!?嫌われたらどうすんだよ!」
「・・・ダメだこりゃ」
聞く耳持たず。
美咲も苦笑いである。
「木ノ下さん、無理しない方がいいよ・・・」
「嫌な感じっ」
救いがあるとすれば・・・。
私達とさっきまで話していた針山さんのグループは哀れみの眼を向けてくれた。
「んねっ!!小雪ちゃん!一言言ってやろ!」
「よしきた」
「大丈夫だって」
私が制せば、今にもカチコミに行きそうな2人は止まる。顔が本気すぎて怖い、クリスマスの空気が壊れるのは良くない。
「私は、大丈夫だから」
・・・なぜか、私の頭を優しく撫でてくれる美咲。
「折角のクリパなんだし、盛り上がってるなら全然いいよ」
「けど、うぅ、うぅん!!──はい、わかりました・・・」
良かった、落ち着いてくれた。
「んじゃ、次何歌う?今度こそは歌うよね、小雪?」
「あ、佐藤さんの歌聞きたい」
「いいよ〜、いっとくけど私上手いよ?」
何事も無かったように、デンモクをいじって次は何を歌おうかなと、別の話題で盛り上がっている。
「・・・」
俯いて、持っているマイクをコロコロと両手で弄ぶ。
周りの喧騒なんて聞こえず、感覚がシャットアウトされていく。
──会いたいな。
ポツリと呟いた声は、喧騒の中に消えていく。
不意に、足元の影が伸びてきて、顔を上げてみれば。
「木ノ下さん、次も一緒に歌わない?」
・・・会いたいよ、鳥海さん。
この熱気とは裏腹に、私の心は冷やされていった。




