にじゅうよんにち 3
沈み込むベッドの理由を考えれば、それが自分の体重であるなんて分かりきっている。
それでも。
何故だか、いつもより深く沈んでいっている様な気がしてならない。
意気消失した身体というのは、水が入ったビニール袋みたいに重たいものだった。
朝起きてからというもの、この身を動かす気力も湧かず、ただ身を丸めて鬱陶しい寒さに耐えるだけ。
「・・・はぁ」
ぐちゃぐちゃになった布団を一目見て、ため息をこぼす。
カバーの中身が丸まって、自分の身体に覆い被さっているのは布団のカバーのみ。
ぐちゃぐちゃなのは、私の心だけでいいのに。
思い出すのは、昨日の帰り道。
「明日かさ。明後日?その、あいてはいたり?」
緊張して、変な口調になってしまった。
「あ、ほら!そういう日じゃん。さっきもいったけど、クリスマスだし、ど、どうなの?」
生唾を飲み込んでしまう。
聞くだけなのにどうして、こんなにも彼の開口が気になってしまうのか。
鳥海さんは、申し訳無さそうに答えた。
「んー、実は最近できたんだ」
「・・・え」
頭が真っ白になる。彼は今、なんて言ったの?
「だから、明日明後日は予定あるんだよね。
24日は空いてたんだけど────25──、は──でさ──の、た──」
途切れ途切れになる鳥海さんの言葉達。
耳が言葉を受け取ってくれない。
いや、脳が拒否してるんだ。
これ以上、この人の言葉を聞いてしまったら
碌なことにならないと、だから聞いちゃダメだよって。
無意識のうちに、脳が拒否してくれてる。
「あ、あは。そ、そなんだ」
適当に相槌をうって、彼に言葉を返す。
「木ノ下?元気ないけど・・・」
心配げな鳥海さんの声。
「わ、私・・・先帰る」
それを無碍にするように、私は凄い勢いで立ち上がる。
「う、うん?」
鳥海さんの顔も見ないまま、私は逃げる様にその場を後にした。
引き留める言葉も、逃がさない様手を伸ばす事もせずに、私の背中を見送るだけの鳥海さんの視線が・・・
────私の心を引き裂いた。
嫌な事を思い出し、より一層。ベッドが底に沈む感覚。
実際にはそんなことなく、心だけが沈んでいる訳だが・・・。
「はぁ・・・」
昨日と合わせて、何度目のため息だろうか。
寂しさを紛らわせる様に、抱き枕を抱きしめて気分を紛らわせる。
「・・・っ」
気づけば、泣いていた。どこも痛いわけではない。いや、痛感はした。
「私、こんなに──」
そうだ、あぁそうだ。
・・・想像以上に鳥海飛鳥という人が好きなのだ。
やっと、私は自覚した。
その想いはすぐそばにいたというのに。
どうしてか、気づかないフリをしていた。
なんで?どうして?
終わったというのに、なんで今私はこの想いに気づいちゃったの?
・・・分かっている。
鳥海さんとの、距離感を大事にしたかったんだ
壊したくなかった。だって、心地よかったから
知りたくなかった。こんな恋心なんて。
「う、ぁぁ──。やだ・・・ぁ」
止まらない。涙が。
「鳥海・・・さん」
好き。
「鳥海・・・っ」
大好き。
「んっ、は・・・ふぁ──」
初めて、こんなにも誰かに惹かれてしまった。
心から繋がりたいと、求めた。
「すき・・・」
初恋。なんて可愛くて、綺麗な言葉だろう?
けど、それは仮の姿で、その正体は人々に苦痛をもたらす悪魔だ。
知らなかった、誰かを好きになることの苦しさ。
「だいすき、──ですっ」
寂しさ、喪失感。
「・・・あ、あすか──っ、んっ」
抱き枕をまた、強く抱きしめる。
身を襲う波に耐える様に、指で抑える。
「あ、あぁ・・・──。や・・・だ、あすかっ」
彼の優しい笑顔、柔らかな声色。優しい距離感。
「っ・・・んっ、あすか、あすかぁぁ」
甘い匂い、中性的な顔立ち、それでいて男らしい手。
溢れる。溢れる。止まらない。止められない。
全部があったかい。
「は、は、ぁ──ッ」
冷え性な私は、ただソレを大事にしたくて。
心の底から暖めてくれる、彼という蜜が大切で。
「あぁ・・・ッ、────んっ、ッッ!!」
好きという感情が溢れれば溢れるほど、涙が釣られて流れてしまう。呼吸がしづらい。
大好きな存在が他の存在に取られてしまうのが。
苦しい。
「う、うぅ!!あぁぁ!!ん、んっ!!」
抑えていた泣き声も、喉が壊れる事を知らずに大きくなる。
「あすか、あすか・・・あすか、すき、だいすき!!」
誰にも伝わらない、求愛の言葉。
「────ぁ」
つってしまうのではと危惧するほど伸びる足。
波に耐えた代償を得た指。
「ぅ────あ・・・ッ!」
ぐちゃぐちゃで、めちゃくちゃ。
「はぁ、はぁ・・・、最悪」
力が抜けていく感覚、今の自分の指先を見たくなかった。
「・・・なにやってんだろ、私」
優しく、枕を抱きしめる。
二重の意味が込められた言葉に自嘲しながら。
「すぅ・・・すぅ」
疲れた私は、ただ沈んだ意識の海の中で、深く。眠りについた。
深く、そう・・・深く。
<しーちゃん、どうだった?お父さんから許可貰えた?みさみさパパも色々と準備してくれるってよ!>
<明日、もし来れたら連絡ちょうだい〜>




