勝者の権利 2
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これを覚えました、これからどんどん使っていきたいですね、まる。
熾烈を極めた2人の戦いは、ギリギリ木ノ下の勝利で終わった。
「あぁ!負けたっ!!」
「勝てたっ」
静かに勝利を噛み締める木ノ下。余程、奏さんに勝てて嬉しいのか、見たこともないぐらい
嬉しそうな顔をこちらに向けてきた。
「ぐぬ、仕方ない。今回の優勝賞品は木ノ下ちゃんにあげよう」
「人を賞品にしないでください」
包を剥がして、チョコレートをひとつ口に含む。程よい甘さと、しっとりした口触りがグッド。もう1個食べようと、手を伸ばす。
「ん」
「あぁ、ありがとう・・・」
「食べさせて」
「俺のじゃないんかい」
手渡してきたと思えば、それは俺のためのチョコレートではなく、自分が食べる用だったらしい。とても紛らわしい、てか自分で食べてよ。
「自分で食べたらいいんじゃない?」
「いや、私勝ったから」
「・・・本当に適応されるの?それ」
木ノ下越しの奏さんに視線を向ける。
どこかつまんなそうに、両腕を頭に後ろに組んでいる。
「うんー、私負けちゃったしね。すまない、飛鳥くん」
「・・・まぁ、奏さんがそう言うなら」
渡されたチョコレートの包みを剥がして、木ノ下の口に近づける。すると雛鳥よろしく、小さい口を開けてチョコレートをつまんだ
「あのさ、気になったんだけど。なんで奏さんって、さんを付けてるの?」
「ああ、俺この家に引き取られたから」
「え」
あまりに呆気なく俺がそう言うと、木ノ下はピタッと身体が動かなくなった。
ーーまぁ、そういう反応になるか。
「えと、ごめんなさい。知らなくて」
「気にしないで〜、木ノ下ちゃん!飛鳥くんは
強い子なんだから!」
「奏さんのおかげですよ」
「えへ、照れる〜」
両手で顔を隠し、うにょうにょと身体をくねらせる。
蛇みたい。
「じゃあ、血は・・・繋がってない?本当の姉弟じゃないってこと?」
少し強く服の裾を摘まれる。
視線はどこか、信じられないものを見る時の目。・・・そう見られるのは、あまり好きじゃない。
「繋がってなくても、俺と奏さんは正真正銘の姉弟だよ。血なんて関係ない」
「・・・そうだけど。でもさ、それでも他人じゃん。何か間違えでもあったら──」
「あるわけないだろ、木ノ下。俺、そういう話好きじゃないんだけど」
少しだけ冷たく当たってしまったと、言ってすぐに気づいた。
俺の一言で、木ノ下の表情が落ち込んでいる。
「えっと、奏さんを心配しての一言なんだよな。ごめん、ちゃんと分かってるよ。流石に今の言い方はキツかった」
すかさずフォローする。それでも、木ノ下の表情は曇ったままだった。
「大丈夫、間違えなんて起こるはずないだろ?」
「あー!私に魅力がないってこと!?」
「話がややこしくなるんで、少し静かに」
「そうだよねぇ、飛鳥くんって胸が大きくて
髪が長い人が好きなんだもんね」
「え!」
いきなり何を言い出すんだ?この人は・・・
そして何故、木ノ下の表情が明るくなるのか。
「そ、そうなの?」
「違う。奏さんが適当言ったんだよ」
「うっそだぁ」
「・・・まぁ、髪長い人は好きですけど」
綺麗な黒髪ロングは大層好きです。
街中で見かけると、少しだけ魅入ってしまうぐらいには
「どれくらい?こ、このくらい?」
髪を解いて、肩まで伸びた髪を見せてくる。
これは、あれだろうか?セミロングというやつか。あまり、女子の髪の長さとかわからん
「もうちょっと長い。これくらい」
「──そうなんだ」
どこか、噛み締める様に呟かれる。
実際気になってはいたんだけど、腰までの長さになるまで、どれくらいの時間を費やすんだろうか?
「もう正直、伸ばす気起きないんだよなぁ。
私の髪が長かったら、似合う?」
「似合うと思いますよ」
髪が伸びた奏さんを想像してみる。
少しだけ・・・大人っぽく見えるのだろうか?
いや、見えないな。この人はそういう人だ
「さ、てと。もう一戦やる?木ノ下ちゃん」
「もちろん、やりたいです」
この後も夢中になった2人は何戦もやり続けた。夜だというのに、いつまでも騒ぎ続けている。
このマンションが防音でよかったと、心底思った
けれども、楽しい時間というのはいつまでも
続くものでは無い。
「木ノ下ちゃん、時間大丈夫?」
「あ」
そう、気がつけば時計の短針が10を指そうとしていた。
「もうこんな時間経ってたのか。明日も学校でしょ?」
「・・・うんー」
「はは、嫌そうだね」
ぼーっと、いつまでも壁に掛けられた時計を
見つめる木ノ下。
そんなに見たって、時間が戻る訳ないのに
「泊まる?」
そう言ったのは奏さん。
この一言を聞いて、木ノ下の鋭い目が柔らかくなる。
「いいのっ!?」
「もちろん、飛鳥くんもいいでしょ?」
「まぁ、奏さんがいいなら」
この家の実質的な主人である奏さんがそう言うなら、俺から言えることはない。
「やった!着替え持ってくる!」
そう言うや否や、ソファから飛び降りて自分の
住処へと帰っていく木ノ下。尻尾があれば、扇風機みたいにブンブンと振り回してるだろう。
「嬉しそうですね」
「んね、可愛い」
心の中で同意する。
第一印象はクールな、それこそ狼のように鋭い印象があったけれど、今の木ノ下は狼というより完全に犬だった。
「犬みたいですね。じゃ、俺は部屋に──」
立ちあがろうとした途端。俺の右腕が掴まれる
他の誰でもない。奏さんに
「奏さん?」
「・・・ちょっとだけ」
見上げてくる奏さん。
お気に入りの玩具が取られた子供がする、少しだけ寂しそうな、可哀想な眼差し。
「・・・」
「ん、ふふ。優しい手つきだね」
「そんな寂しそうな顔されたら、誰だって優しくなりますよ」
「あはは〜、してたか」
ここぞとばかりに俺の肩に、ぐりぐりと頭を
擦られる。
・・・こっちも犬みたいだな。
いや、確か猫も自分の頭をぶつけてくるんだっけ?
「あの、さ。木ノ下ちゃんに告白されたら飛鳥くんは付き合うの?」
「え?」
いつもの揶揄う様な感じではない。
この人は真剣にそれを聞いてくる。
「いや、付き合わないですよ」
当たり前だ。
俺と木ノ下は会って間もないし、木ノ下の人となりを知れたとも思っていない。
じゃあ、長い時間を共有したら付き合うのか?
それも違う。
「・・・っ」
「奏さん?」
1人で勝手に思考に陥っていたら、掴まれていた腕が更にキツくなる。
血が止まってしまうぐらい、キツく。
「────よし、汗かいちゃったし。お風呂入ろっかな〜」
急に解放された俺の右腕。堰き止められていた血流が、一気に手元へと流れるのを感じる。
「木ノ下ちゃん来たらさ、一緒にお風呂入ろって言っといて」
「奏さん」
「ん?」
「安心してください。俺、どこも行きませんから。奏さんを独りにはしませんよ」
「・・・それって、どういうつもりで言ってるの?」
「もちろん、家族として」
きっと、奏さんは寂しかったんだろう。
それこそ、お気に入りの玩具が取られたら誰だって快く思わない。俺だって良い気はしない
だから、奏さんも。俺と同じで────。
「でも、私達は他人だよ」
「えっと、それは」
冷たくそう言い放たれて、言葉に詰まる。
「ごめんね。・・・今のなしっ!あまりに飛鳥くんがカッコいい事言うから〜。揶揄いたくなっちゃった」
いつもの奏さんだ。戻った。
「じゃ、お風呂行くよ。覗かないでね」
「覗きません」
それだけ言って、奏さんは自分の部屋へと
着替えを取りに行った。
「・・・怖いんだよなぁ」
たまにだけど、奏さんはどこか冷たくなる。
その一瞬がとても苦手だ。
俺が義姉へと抱える唯一苦手な所。
「vtuberになるんだし、どこか張り詰めてるのかもな」
それが理由なら力になってあげたい。
微力だろうけど、それでも。
俺は、鳥海奏という光を支えて行きたいのだ。
「俺がいますから・・・って言ったのに」
自室で1人、奏はそう呟く。
立ち鏡に映る自分を見つめて
「飛鳥くんの、馬鹿」
自分の髪を摘んでみる。
いくら引っ張っても伸びることなんてない。
・・・それでも、早く伸びてと。想いを込めて
気がつけばブクマの数が増えてて嬉しく思います!
見てくれるだけでも嬉しいのに〜!
頑張って更新頻度上げて行きますので、何卒。お付き合いしてもらえると嬉しいです




