勝者の権利 1
モニターに表示される。DEFEATの文字。
それは、俺が今回の試合で負けた事を意味したのだった。
「・・・はぁ」
ーーー58分。
この試合を終えるために、かかった時間だ。
やっている最中は気にも留めなかったけど、かなりの長期戦だったことには変わりない。
こんなに戦って、得たものといえばLPの損失のみ。全くもって虚しくなる。
「・・・あと、ちょっとなのになぁ」
映し出された自分のランクを見て、悲しくなる。昇格戦は悉く、敗北してしまっていて、もう一つ上のランクへは、いまだに行けないでいた
「飛鳥くん〜」
椅子に背を預けて呆ける、敗北者の俺を呼ぶ義姉の声。
ノックをせず、俺を呼ぶところが実に奏さんらしい。
「はい〜」
「ゲームやろー!」
快活な声。あどけない少女の要望は、いつだって唐突だ。
敗北したばっかの男の事情なんて知りもしないだろう。
「いいですよ、今行きます」
「うんー!準備してるねー」
けれども、傷心した俺の心を癒せるのは、やっぱりこの人だった。
「何やります?」
「スマブラとマリカ、どっちがいい?」
どちらを選んでも俺は結局勝てる訳ない。
わざわざこちらに選ばせる辺り、この義姉は良い性格をしている。
「マリカで」
「おっけ、スマブラやろう」
「・・・俺が選んだ意味」
「あは」
・・・本当、良い性格してる。
「惜しかったね。飛鳥くん」
「ハハ、ソウデスネー」
・・・どこがだろう?いくら瞬きしたって、ストックの差は歴然だった。
「う〜ん、俺ってカービィ下手だな」
「合わない?」
「ちょっと他のキャラ使おうかな」
ある程度使えると思っていたピンク色の悪魔だったが、ここまで負け続けだったことを考えると。
どうにも、自分に合ってないような気がした。
「誰使うの?」
「・・・う〜ん」
「おまかせにすれば?」
「それも、そうですね」
両者、おまかせを選んで戦闘開始。
RPGの鉄則のひとつとして、レベルというものがある。
経験値を積んで、己の基本ステータスをあげる。
お金を積み、装備を更新し続けるのはダメだ。
いや、中にはそれだけでクリアできる人はいるのだろう。
レベル1で、魔王を倒せる勇者がいるだろうか?
・・・否、いるわけない。いたとしても、それは勇者ではない。何かだ
つまるところ、何が言いたいかというと。
「よわ〜」
「ほっといて」
合う合わない以前に、そもそもこのゲームの経験値が足りない様な気がしてならない。
なんでだ、奏さんも使ったことないって言ってたキャラなのに。
クッパがパックンフラワーにボコされる絵面は
目を背けたい程に、悲惨だった。
・・・クッパは俺だから、俺が悪いけれども
「ごめん・・・クッパ」
部下にボコされるとかどんな気持ちなの・・・
「へただなあ飛鳥くん。へたっぴさ」
「班長・・・」
ピンポーン。
奏さんの適当な物真似後、こちらを呼び出す
インターホンが鳴った。
特に、宅配等は頼んだ覚えはない。
健吾さんが帰ってくるにはまだ速い。
「はーい?」
「誰だろ?」
奏さんをソファに残して、俺の足は玄関へと
赴く。奏さんの呟きから察するに、本当に急な来客だ。
「お待たせしまし・・・た」
「こんばんは」
インターホンを鳴らしたのはお隣さんである
木ノ下白奈だった。
「こんばんは、どうした?何か用事?」
「用事って程じゃないけど、暇だったから」
どうやら、この子にとって鳥海家というのは
一種の暇を潰せる場所と判定されたらしい。
服装も、ついさっき見慣れた制服とは変わって
スウェットに半ズボンと随分とラフな格好だ。
「そういうことか。どうぞ」
「お邪魔しま〜す」
「ご飯は?食べた?」
「食べたよ」
なら、適当にお菓子でも用意しよう。木ノ下を
リビングへと案内して、俺はキッチンの方へと向かった。
「あ、木ノ下ちゃん〜。こんばんは」
「こんばんは奏さん。・・・スマブラやってたの?」
「そうだよー。木ノ下ちゃんもやる?」
「やりたいっ」
微笑ましい。
互いのやり取りは本当の姉妹の様に見える。
・・・見た目と中身のギャップはあれだが。
けれど木ノ下も、奏さん相手だと・・・どこか子供っぽく見える。
「木ノ下手洗った?」
「え、そんな長く外にいないよ」
「洗いなさい」
「はぁい」
手洗いは基本だ。人の家にお邪魔するなら、絶対に気をつけなければならない。
「ごめんね、飛鳥くん細かいでしょ」
「あははっ」
悪かったね。
「うおっ、どうした?」
「細かい男は嫌われるよ〜」
いきなりぶつかってきたかと思えば、そう煽られる。下校中の話でも気にしての発言だろうか
「はいはい、嫌われて結構。ほら、手を洗ったら、奏さんの相手をしてやって」
「あれ?鳥海さんやんないの?」
「俺はいいよ。2人とやっても、どうせ負けるだろうし」
ゲームセンス抜群の2人と戦ったって、勝てるわけない。いないも同然だろう、試合の展開に対して支障は現れない。
・・・言ってて、悲しくなってきた。
「じゃあ見てて〜」
「あ、おい。引っ張るな」
腕を組まれて、無理矢理引っ張られる。意外にも、木ノ下の力は強かった。そういえば、いつぞやの時も、胸ぐらを掴まれたっけ。
「あらあら、おふたりとも仲がよろしくて」
「そ、そんなんじゃないよ。ね」
「うん」
テーブルにお菓子を置いて、木ノ下の隣に座らせられる。
ーーーなんか、近くない?
「誰使おうかな」
「木ノ下ちゃんって、ピックの幅広いの?」
「結構使えますよ」
「羨ましいなぁ・・・。私なんて、狭すぎて狭すぎて」
「あはは、でも意外と触ってみると出来るもんですよ」
これ俺がいる意味あるだろうか?
なんか、2人で盛り上がってるし。
そっと、席を立とうとすると
「ねぇ、ダメっ」
何がダメやねん
怒ってる表情でも作ってるつもりなのか、片頬に空気が溜まっている。
それで怖がる人はいるのだろうか?
「・・・あらぁ〜」
「その面白そうなものを見る目をやめて下さい」
ニマニマと、反対側に寝転がっている奏さんの
視線がむず痒い。
「いた、痛いって。わかったわかった・・・。
どこも行かないから」
「・・・わかればいい」
歳下だよな。こいつ・・・?
なんだろうか、いつのまにか懐かれてたみたいだ。
「あ!そうだ、良いこと思いついた」
なんか、嫌な予感がする。
「これで勝った方は飛鳥くんに甘えれる。って、どうかな」
「ーーー!!」
「なんです、それ・・・」
奏さんの急な提案。はたして一体、それに乗っかるやつなんてこの世にいるのだろうか
「・・・」
「あ、木ノ下ちゃんの本気はピカチュウなんだね」
「んな、ち、違いますから。これは今、練習中ですから。と、鳥海さんの事とか興味ないし」
「ふふ〜ん?そっかそっか〜」
楽しそうだな、この人。
「甘えるって、具体的に何をするんです?」
「え?んー、私だったら・・・ハグ?」
「は、ははは、ハグっ!?」
それは・・・いつもやってないか?
「他には?」
「うーんと・・・添い寝」
「ーーーー」
添い寝はダメな気がするけど・・・。
「あ、キャラ変える?」
「・・・」
「んふっ・・・木ノ下ちゃん可愛いね。ふふ」
「も、もう!!とりあえず!!さっさとやりましょう!?」
「はいはい〜」
ピカチュウから、ホムラへと変わり。
2人の熱い戦いが始まった。




