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木ノ下白奈の戸惑い 3

もしかしたら、仲が良いと思っていたのは俺だけだったのかもしれない。


「・・・」


帰路についていたら、見知った銀髪が目の前を歩いていたのだ。声をかけた。

・・・うん、かけるまではよかった。


「えっと、雪が降るなんてな。今年はもう降らないかと」

「・・・」

「さ、寒くて参っちゃうな」


喋らない。そう、喋らないのだ。


気まずすぎる。

一緒に帰ろうと言った時、無言で頷くだけだった時点で察するべきだった。


「鳥海さんは、雪・・・嫌い?」

「え?」


喋ったと思えば、今度は表情ひとつ動かす事なく。そう言われた。


意図はわからないが、とりあえず。自分の思った事を口にするのが良いだろう。


「好きかな。深い理由はないけど、雪が積もるとテンションが上がる」

「子供みたいだね」

「はは、まだ中学生だし。俺」


世間一般では子供と言われる歳だ。だからこそ、雪が積もってテンション上がるのは、なんら悪い事ではない。


「私も、好き」

「そっか。じゃあ、木ノ下も子供だ」

「うん」


またも沈黙。なんだ。間違えたか?

今朝とは明らかに違う木ノ下の様子に戸惑う。


「好きってなんだと思います?」

「は?」


なんだ急に。表情は真剣そのものだから、ふざけてはいないのだろう。


「こ、好ましい感情?」

「それを聞いてるんだけど」

「勘弁してくれ。えっと、じゃあ・・・木ノ下はなんで雪が好きなんだ?」

「んー、綺麗で、特別だからかな」


確かに、雪が降ったらその日は、いつもと違う

ちょっとした特別な日になる。わからんでもない


「そういう・・・ことじゃない?好きって」


言ってみても、木ノ下の表情は変わらなかった。


「・・・今日、告白された。好きですって言われた」


突然の報告、それに俺はなんて答えればよいのか。けれどこれで、様子がおかしい理由がわかった。


「よかったな」

「今までにもあったけど、今日のは・・・色々と考えるとこがあって」

「おモテで羨ましいこと」


そう言ってみると、木ノ下は目を丸くしてこちらを見つめてきた。


「鳥海さんって、モテないんだ」

「嫌味か。まぁ、その通り。生まれてから告白とかされたことない」

「そう、なんだ」


・・・笑われた。


羨ましいとか、微塵も思ってはいないけど。それを笑われるのは釈然としない。

ま、俺自身に魅力がないのは十分承知しているので、これについてはもう触れない。


「で、何を悩んでんの?」

「え?あ、その・・・」


気まずそうに、肩へと垂らしたサイドテールを忙しなく撫で始める。かと思えば、俺の表情を窺う様にチラ見を数回し、目が合ったかと思えば逸らされる。


「私、好きとか・・・。告白されるのは嬉しいけど、そう言われてどうしたらいいのか」

「あぁ・・・。なんか、わかるよ。それ」

「告白、されたことないのに?」


放っておいてほしい。


「ないけど・・・わかるよ。どうしていいのか

わからなくなるよな」

「そう、かも」


また俯いてしまった。今の自分の表情を見せたくないのか、前髪を何回も整えている。


「それで・・・悩んでました。好きってなんだろうって」

「そっか」


多分、誰もが一度は考えるであろう、好きの境界線。どこまでが友達で、どこからが恋なのか


「んー、木ノ下はさ。雪が好きって言った時、特別って言ったよな」

「うん」

「特別だと思ったら、少なからず、好きだなって・・・こと、なんじゃない?」


なんて、曖昧な解答だと思う。きっと木ノ下の頭の中は余計にこんがらがって、また深く色々と考えてしまうだろう。


「特別・・・。わかんない、友達だって特別だもん」

「そうだな。特別な人って沢山いる」

「適当言って・・・私は真剣なのに」


許してほしい。俺だって恋愛経験が豊富な訳じゃない。むしろ、無いに等しい。


それっぽいことを言って、曖昧なニュアンスで納得してもらおうと思った俺の思考は読まれてしまっていた。


「っくしゅ」

「風邪?」

「ううん、風に当たりすぎただけ」


木ノ下は鞄を漁り、何かを取り出そうとしたけど、その動作をやめて。再び両手をぶらつかせる。


「はー・・・」


息を吐いて、悴んでいるであろう両手を暖めている様は、妙に絵になっている。


「なに?」

「・・・ううん。別に」


怪訝な表情で見つめ返され、慌てて目を逸らす。釣り上がった眼は、やはり強さを感じさせた。


「雪は好きだけど、冬に降ると寒くて嫌だな。夏とかに降ったら嬉しいのに」

「夏に降る雪とか怖すぎだろう」


異常気象極まれり。でも確かに、夏に雪が降ったら面白いかもしれない。


「木ノ下」

「・・・なに?その手」

「寒いだろ?だから、はい」


右手を差し出す。もっぱら体温が高いとよく言われるので、奏さんから湯たんぽ代わりにされることはある。

俺は、誰かを暖めることには自信を持っているのだ。


「・・・なんか、他の人にもやってそう」


そう言いながらも、木ノ下は慎ましく俺の手に自分の手を重ねてきた。チョン、と触れ合う指先からは確かな冷たさを感じる。


「冷た」

「でしょ、鳥海さんはあったかいね」

「まぁね」


人肌をもっと感じたいのか、木ノ下の握る手が強くなる。それに合わせて、俺も強く。しっかりと握る。


「・・・まだ、答えは出さない方がいいかな」


そもそも答えを出すものなのだろうか?

どうしたって感情の話だから、いくら答えを探したって意味ない気もする。


「そのうち分かるよ。多分」

「・・・多分、か」


繋いだ手が離れることがないまま、お互いは沈黙を繰り返しながら同じ帰路を歩く。


結局、少女の答えは出ないままだった。



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