鳥海さんと、飛鳥くん。
両親が死んだ。
事故だった。信号を待っている時にトラックがいきなり突っ込んできた、理不尽な事故。俺は、何が起こったのかなんて理解できなかった。
ただ、目の前に転がる父さんと母さんだった者の手を握って、生気の感じない瞳を見つめるしかできなかった。
あぁ、俺の両親は死んでしまったのか。
そう実感が湧いたのは、喪服に身を包んでいる最中のことであった。それと同時に、父さんと母さんとの、温かい思い出が脳裏に浮かび、泣き出したのも覚えている。
「・・・可哀想ね。事故ですって」
「一人っ子らしいよ・・・。誰があの子のことを引き取るのかしら」
親戚の、他人事のような言葉が苦しかった。
憐れむような視線が鬱陶しかった。
「飛鳥くん」
「・・・はい?」
背は父さんよりも高くて、鼻の下から生えた
髭は、とても威厳があった。
いきなり、そんな人に話しかけられて、少し怖かった。
「うちに来ないか?」
視線を合わせ、肩に手を置かれて言われた一言。その表情は、とても穏やかで、優しい。
「え・・・けど・・・」
「君のお父さんには、とても世話になっていたんだ」
「・・・」
「僕が君を引き取りたい。飛鳥くんがよければだけどね」
その優しい笑みに、俺は気づいたら。首を縦に動かしていた。
そんな日から、数ヵ月が経って。
「健吾さん」
「ん?あぁ、もう学校に行くのかい」
「はい」
新聞紙を広げながら、煙草を吸う鳥海健吾。
どうやらこれが朝のルーティンらしく。
数ヶ月住まわせて貰った身としては、最早
見慣れた光景だ。
「いってらっしゃい」
「いってきます」
「頑張ってね」
そう言われ、笑顔で見送られる。
あの日の傷が癒えたわけではないが、健吾さんに引き取られて数ヶ月を費やし、俺はやっと笑えるようになり、今日のように学校にも行けるようになった。
「はぁ・・・。奏も、飛鳥くんを見習ってほしいよ」
「あ、あはは・・・。帰ったら、俺がご飯
作っときますね」
「いつも悪いね。っと、遅刻しちゃうよ」
「あ!はい、行ってきます」
健吾さんは開く頻度の少ない扉をチラ見した後、暗い顔を浮かべた。けれどもすぐさま
表情を切り替えた。
奏
そう書かれたネームプレートをチラ見して
俺は玄関へと向かった。
「・・・行ってきますね」
聞こえるわけないが、奏さんにも伝える。こういうのは気持ちが大事なのだ。
「うっ・・・さむ」
開けたドアからの冷風は、サッと俺の頬を
撫でたのだった。
「・・・よし、決めた」
ネームプレートの住人も、1人でそう呟いていた。誰にも聞こえない。決心を