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転生を希望する魂と天使との会話

作者: ful-fil

 神様から転生のチャンスを与えられた魂が集う場所。

 誰が呼んだか『転生ハロワ』。

 ここに集まる魂たちはそれぞれに転生先への希望や譲れない条件を持っている。

 それを聴き取り、相応しい転生先へとマッチングするのがハロワ天使の仕事である。

 

 今日もハロワ天使の前には魂が転生を待っている。


「異世界に転生させてください。ただ、科学が進んだ所は嫌です。地球で言うと、古代から中世くらいがいいです」


 天使は手元のタブレットに『未来社会除外 現代社会除外 近世社会除外』と入力した。


「それは前世の知識を活用するためですか?」

 いわゆる知識チートを希望する魂は最近増加傾向にある。

 特定分野の専門知識を有する魂なら、求められていなくもない。

「いえ、個人的な好みです」

「好み、ですか?」

「卜占とか、シャーマニズムや、錬金術なんかを大真面目にやる感じが好きなんです」

「なるほど」


 天使は『神秘思想有り』と入力した。


「他に希望はありますか?」

「当然ですが人間がいいです。欲を言えば知力と魔力は人並み以上でありたいです」


 天使は『ホモ・サピエンス種 知力UP 魔力UP』と入力した。


「特定の能力を良くする場合、その他が悪くなりますが、よろしいですか?」

「仕方がありません、受け入れます」

「ではすぐに応募できるのはこの3件です」

 天使は条件に合う募集を見せた。


・古代中国に似た竜人帝国で貧しい農奴の子ども


・古代エジプトに似た獣人王国で生贄として育てられる被支配民族の子ども


・中世ヨーロッパに似た吸血貴族社会で家畜とされる下層階級の子ども


「どれも酷いですね」

「そうでもないですよ」

「でもこれガチャで言うとハズレなのでは?」

「逆境に置かれてこその魔力プラス補正覚醒です」

「…覚醒」

「生ぬるい環境にいては才能が伸びませんよ。絞り尽くしてもう何も出ないと思った所から更に絞り出す、それが覚醒です。覚醒に至れば凡人には及ばない領域に届きます」

「凡人には及ばない領域…」


 その魂は僅かに躊躇った後、吸血貴族社会を選んだ。

 決め手は『浪漫』とのこと。


「次の方どうぞ」

「遠い世界に行きたいです。それと食べ物に困らない所がいいです」

「前世で生活苦でしたか?」

 不遇の人生を送った魂にはその分、特典が付くことがある。

「いえ、お金には困らなかったのですが。食事制限を課されていたので。持病のために」

「なるほど」

「美味しいものが世の中に満ち溢れているのに、我慢の連続でした。死んでもいいから好きな物を好きなだけ食べたいと常に思っていました。今度の人生では我慢せずにお腹いっぱい食べたいです。病院通いで寿命を引き延ばすだけの人生はいやです。太く短く、QOLを大事にしたいです。なので、医療はさほど発達していなくて、美味しいものが豊富な世界を希望します!」


 はて、QOLとはそういう意味だっただろうか?

 ともあれ、特典を与えられる程ではないが、少しは同情の余地がありそうだ。

 『施餓鬼供養に準ずる案件』と天使は入力した。


「お勧めはこちらの3件です」


・古代中国に似た竜人帝国で貧しい農奴の子ども


・古代エジプトに似た獣人王国で生贄として育てられる被支配民族の子ども


・中世ヨーロッパに似た吸血貴族社会で家畜とされる下層階級の子ども


「…どれもお腹いっぱい食べられそうな感じがしないですけど」

「一見飢えそうに見えますが、実はそうではないんです。

 竜人帝国は放っておいても芋やらフルーツやらがわんさか生える豊かな国なので、農奴でも十二分に飽食できます。

 獣人王国は焼肉食べ放題、生贄を儀式の直前まで丸々と太らせます。

 吸血鬼は言わずもがな、家畜は財産ですから、食事はしっかり与えますし、ソースの味にもこだわります」

「はあ…」


 魂は少し迷った末に、焼肉食べ放題に惹かれて獣人王国を選んだ。


「次の方、どうぞ」

「なんか冒険できそうな所に行きたいです。あと、あんまり勉強しなくてもよさそうな所がいいです」

「これらがお勧めです」


・古代中国に似た竜人帝国で貧しい農奴の子ども


・古代エジプトに似た獣人王国で生贄として育てられる被支配民族の子ども


・中世ヨーロッパに似た吸血貴族社会で家畜とされる下層階級の子ども


「いまいち冒険風味が薄くないですか? ダンジョン攻略とかモンスター狩りとかがやりたいんですけど」

「できますよ、冒険。たとえば竜人帝国、ドラゴンいますよ」

「おお!」

「なんなら乗れるし、戦えますよ、ドラゴンと」

「なるほど!」

「獣人王国、人狼兵団相手に生贄からの脱出と仲間を集めての反乱、革命軍できますよ」

「有りですね!」

「吸血鬼なんか王道ですよ」

「バンパイアハンターですね! 萌える!」


 その魂はドラゴンライダーになりたいということで竜人帝国を選んだ。


 終業時間になると、ハロワ天使は職場の灯りを消す。

 戸締まりを確認しながら独り言を呟く。

「どんな世界も住めば都。望んで赴く彼らに神様のお恵みがありますように」

 わざわざ異世界からの魂を募集するような不人気案件でも。

 大体、転生者を募集している世界なんてどこもブラックまたはグレーだけれど。

 彼らは幸せを求めてそこに行く。

 掴めるといいね、幸せを。

 ハロワ天使は明日もまたこうして迷える魂を来世へと導く。

 転生した魂がどうなったか、それは天使と神様だけの秘密。


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