プロローグ8
「常世詠の070508内での戦闘映像を出して。」
対処に追われ忙しく動きまわる真子とは別に情報の方面から対処にあたると言って一旦連絡を切った。
が、本当の目的は詠のデータ収集だった。
真子の組織内での上昇志向の要因であり、そしてアドが様付けで呼ぶ常世詠に興味を持ったからである。
ところが
『アクセス権限がありません。』
とアドに拒否されてしまった。
「彼の服にはカメラが付けられているのは知ってるのよ。ネットワークに繋がっていない時は内蔵メモリーに記録されることも。あんた、ネットワークに繋がった瞬間、メモリーから動画データをコピーしてオリジナルはわざわざ消去したでしょ。まあ、それは良いとしてその動画を見せて欲しいって言ってるの。」
キーボードをから様々なアプローチからデータへのアクセスを試みるが、上手くいかないうてなは後半ややヒステリックに声を上げる。
『詠様に関するデータは全て三識姫の管理下にあります。問題無いと判断されたデータのみがアクセス可能となっています。』
「何それ。」
うてなはアクセス出来る詠のデータを片っ端からチェックする。それはまるでアイドルのプロフィールを見ているかのようだった。身長や体重、食事や散歩といった日常風景といった当たり障りがなく好感度をアップさせるような情報ばかり並べられていた。
「アド。あなた何しているのかわかっているの。」
『三識姫は詠様に関するデータの開示に制限を設ける事としました。地位、権力等如何なる立場に於いても。例えマスターでも。マスター。制限強制解除コードを入力しても無駄です。先刻、詠様へのある事案がナインオールで決定されました。その一環として情報統制を行いました。』
「ナインオールですって!」
アドは三識姫ウルド、ヴェルダンディ、スクルドの外部端末的なAIである。ウルド、ヴェルダンディ、スクルドはそれぞれアルファ、ベータ、ガンマという自律型独立AIを内包しており様々な案件を担っている。なお、案件の重要度で担当AIの数が決まる。つまり、9つのAIが参加し、総てのAIが承認決定を下したのは前代未聞であり、その効力は何者にも覆されない程強力である。
『マスターも従って頂きます。さもなければ制裁を受けて頂く事になるでしょう。』
アドの声にいつにない冷徹な響きを感じた。
これは本気なのだと思った。誰にも何も言わせない決定。詠に興味を持ち始めた矢先に起きた回復不能な障害。知りたい衝動と知る事の出来ないストレスでうてなはモヤモヤするばかりだった。
(もう、この火照った心と身体、どうやって鎮めればいいの!)
デスクを両手のひらでバンと叩いて、勢いよく立ち上がった。
ここに居ても仕方ないと考え、うてなは2か月ぶりに自宅へ帰宅することにした。ネット環境がスマホのみになる(一応スマホは繋がる。)田舎の一軒家で(全部忘れて静かに過ごそう。)ぐらいしか案が思い浮かばなかった。
三日後。
うてなは対策局の局長室にいた。
WORセンタービルに被害は無く、安全確認の立ち入り検査後、全てのフロアが再開された。
「久々にビルの施設を見て回ったけど、もう何事も無かったようにやってるね。」
「ええ、これも詠が短時間で解決してくれたお陰ね。」
真子のその答えを聞いて
(よしっ!上手く誘導出来た。)
どうやって切り出そうかと悩んでいた掴みが上手くいって、心の中でニンマリした。
「そうよね。だったら、やっぱり詠君に何かお礼した方が良いんじゃない。」
「そうよね。私も考えてなかなか良いのが思い浮かばなくて。」
真子はデスクに頬づえを着いたまま「ハアッ。」と大きく溜息をついた。
その様子を見て、うてなの口元が思わず綻んだが、(いかん、いかん。)とばかりに引き締めて真子に話しかけた。
「それで詠君を学校に通わせるというのをあては考えたのだがどうかな?」
「学校?」