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プロローグ6


詠が第一擬似ルームに入った。普通に入って行った。ルームが侵食している真っ只中に。

普通の人間では不可能な行動だった。外部に洩らしてはいけない光景だった。

真子は固唾を飲んで見守るだけだった。しかし、こんな事で驚いていては話にならない事がすぐに分かる。

第一擬似ルームに入った途端、第一擬似ルームを満たすルームナンバー070508の侵食により覆い隠された。

「詠。」と思わず小さく声を発した真子の心配は杞憂過ぎなかった。

飲み込まれた場所に幾つもの切り傷が走る。ものの数秒後には第一擬似ルームの至る所に切り傷が刻まれる。そして、傷は黒い細かい粒子の畝りとなる。そして、畝りは幾つもの畝りと相交わり巨大化して一つの流れとなり一か所に向かう。

それはまるで黒い龍に見えた。今や充満していた侵食ルームの多くを消滅させ、ハッキリと姿の見える詠の身体、そして刀にまとわりついている。

詠が携えている刀は細身でやや長めの刀身、申し訳程度の鍔、詠独特の取り回しにも邪魔とならない絶妙な長さの束、その全てが漆黒に統一されていた。

そして、詠の身体にまとわりついた畝りが多くの糸状の粒子の流れと変わり、刀に吸収されていく。

「消滅の黒龍。」

真子はボソリと呟いた。

「なかなか良いじゃないか。」

すぐさまうてなが喰らい付いてきた。

「真子の二つ名は凝りすぎてよく分からんのが多いが、それはシンプルで分かりやすい。」

インカムを通して大袈裟に何度も頷いているのが分かる気がした。

「そんなつもりではなかったのだけど、うてなが評価してくれるのなら良いか。」

という事で詠の二つ名は『消滅の黒龍』に決定した。本人の了承無しに。

当の詠はちょうどルームナンバー070508の開放されたままのドアから内部に侵入するところだった。

「アド。今の状況は?」

『ハイ。第一擬似ルーム内はほぼ元の環境に戻っています。ドアからの僅かな侵食も極微量です。全て詠様の尽力の賜物です。』

「よみ!

「さまあ!?」

アドの報告の中の一部不穏当な表現に真子とうてなが同時に声を上げた。

「何、その詠様というのは。」

真子は空かさず追撃する。

『ハイ。あの御方は私達にとり救世主たる存在です。』

「あのおかたぁ。」

二人は再び声を上げる。

「詠様が人間であるか否かを問題視されているようですが、あの御方の実力からすればそのような事は些末な事であるとの結論に至ります。」

「アド。それがあなたが『詠様』とか『あの御方』と呼ぶ理由なの。」

『ハイ。私は自らが認める絶対的な存在に対しては敬称を付けるのもやぶさかではないです。』

アドの反応に混乱しつつ放った質問に対し、何の淀みない返答に困惑するうてな。

(あのアドが敬称を付けて名前を呼ぶなんて。今迄は呼び捨て、良くて役職名を付けるだけで、あてにもマスターとしか呼ばないのに。)

(ふーん。アドがご執心ねぇ。)

(あてもちょっと興味持ってみようかな?人間以外しか興味無いけど。)

(詠君なら良いかも。)

うてなが自虐的にほくそ笑んで、詠に関する質問をしようとした矢先、

「さすが、うてなが創ったAI。面白い対応だわ。まさかジョークまで言えるなんて。」

といきなり真子が突っ込んできた。

(ジョーク。ジョークねぇ。ジョークなら良いんだけどねぇ。)

アドと真子。2人の言葉に頭を抱えるうてなだった。

詠がルームナンバー070508に突入してから悠久の時が流れたように真子は感じていた。

実際には十数分しか経っていない。

ルームでの任務遂行にはある程度時間を要する。任務には探索、救出、討伐等があるが、どれも数時間から十数時間、難易度によっては数十時間掛かる事もある。

しかも、今回は詠一人である。時間よりも成否、いや無事生還出来るのかが心配だった。

第一擬似ルーム内は穏やかだった。出現したままのドアにも何の変化も見られなかった。

『ルームナンバ一070508に変化。』

アドが突然、報告を始めた。

『対象の侵食停止。反転収束が認められます。その速度、加速的に増大しています。』

その報告を聞き、真子は驚きのあまり声を荒げた。

「何が起こったの?詠は?」

『詳細は不明ですが、現象としてはルームマスター討伐後に発生するルーム消滅への経緯と酷似しています。』

本来であれば喜ぶべき報告であるが、真子には驚きと衝撃の報告だった。

まず、1人である事。通常、討伐ともなれば十数人から数十人のエクスキューターを要する。

更に時間である。詠がドアからルームナンバー070508内に入ってから30分も経過していない。これは正直不可能であり、異常としか言いようが無い。

このような事が公表できる訳がない。詠が人間ではないとの意見を増長させるに違いなかった。

『来栖局長。心拍数上昇。呼吸数も増加して荒く浅くなっています。』

顔面蒼白の真子はアドの指摘を聞いて椅子に深く腰掛けてゆっくり大きく呼吸を整える。

『来栖局長、安心して下さい。詠様のデータは一切公表、流出することはありません。』

(後の処理はアドがやってくれる。私は詠を信じ、無事な帰還を見届ければ良い。)

などと考えているうちにもアドの報告は続く。


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