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プロローグ3


「凄いですよ。詠君。会話も一般常識も問題無いレベルに達していますし、学力も高校1、2年生レベルに達していますよ。ホント乾いたスポンジが水を吸収するみたいってこういう事を言うんでしょうね。」

言葉の勢いに圧倒される感はあるが、予定以上の成果を挙げているという事はわかった。

「そうか。それは良かった。で、今は何処に?」

久しぶりに話でもしようかと尋ねた。

「彼なら25階の擬似ルームフロアですよ。あそこ彼のお気に入りみたいですよ。時間あればしょっちゅう行ってますから。」

麗蘭はニコニコしながら豆情報を真子に伝える。

「そう。」

真子は早く詠に会いに行きたい気持ちを悟られないようにゆったりとした動きで席を立った。

「私も少し休憩にするわ。詳細はまたレポートで提出して。」

「はい。」

真子はそう麗蘭に告げるとメインフロアから25階に向かうため専用エレベーターに乗り込んだ。

(久しぶりに詠と会える。)

ここ暫く忙しくすれ違いの毎日だったので、僅かな休憩時間でも楽しみだった。

エレベーターを降りた真子はビルの中央に設置された擬似ルームを取り囲む廊下を詠の姿を探して足早に進む。

角を2回曲がった先の廊下のベンチに詠は腰掛けていた。その表情は何処か遠くを見ているかのようだった。

「詠。」

掛けられた声に反応して真子の方に振り返る。しかし、すぐに視線を擬似ルームに戻す。

真子は詠の隣に腰掛ける。

「調子はどう?」

間の抜けた会話だと思う。しかし、何を話したら良いのか思い浮かばなかった。今、彼女は来栖局長ではなく、唯の来栖真子になっていた。

「至って健康さ。」

「だいぶ現代社会に馴染んで来たって聞いてるわ。」

「文書や映像の知識は豊富になった。」

詠の視点は動かない。

「今度一緒に外出してみましょうか?」

「ホントか?」

詠の視線が真子に向けられる。

(私の幼馴染。彼は20年前と同じ顔。私は年を重ねてしまった。)

彼と相対すると同じ事をいつも考えてしまう。戸惑ってしまう。どう接すれば良いのか分からなくなってしまう。

(何より彼は私を覚えていない。)

正確には20年前の事を何も覚えていないのだか、真子にとっては自分の事はいう期待があった故、ショックは大きかった。

だから会うのを避けてたのも確かだった。でも、今日は会おうと考えていた。外出という絶好の話題があったから。

しかし、結局はいつもと変わらなかった。

「早速外出許可の手続きするわ。日にちは追って知らせるから。」

会話の流れで何とか言葉を紡ぎ出すのが精一杯だった。もっと他に言いたいことがあるのに。

その言葉も届いたのだろうか?

詠から反応は無く、ただ擬似ルームを凝視していた。そして、

「来る。」

と、一言呟いた。

「何?」

と、真子が訊いた瞬間強い衝撃がビルを襲った。

「オープンサイン!?」

現世と他のルームの往来にはドアが開いている必要がある。このドアは象徴としての名称ではなく、規模、形状はさまざまであるが、ドアであると視認できる存在だった。

ドアの開放には大きく2種類ある。現世への開放による影響が殆どない場合と問題が発生する場合である。

特に後者は看過出来ない程の影響が生じる場合がある。

中でもイータウェイと呼ばれる他のルームによる現世の侵食は早急に対処しなければ甚大且つ不可逆的な被害をもたらす。

20年前にはここWORセンタービルがある八和市涼畑区で現時点で規模、危険度共に最大のイータウェイが発生した。現在でも一部地域は未だ立ち入り禁止の管理地区に指定されている。

この場所に本部が設置されたのは、このような理由による。

話を戻そう。

オープンサインとは甚大な被害をもたらす恐れのあるイータウェイ発生の際に生じる衝撃波である。

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