膝から崩れ落ちたことってある?
『第60回全日本錦鯉品評会』
日時:2030年3月20日(土)・21日(日)
会場:岩手県天空城市国際体育館
住所:岩手県天空城市新国芽5-3
主催:(一社)全日本錦鯉昂進団体
-泳ぐ宝石、錦鯉の魅力を世界へ-
◇◇◇(開催前日)
冷や汗か脂汗か、汗を指し示す言葉は数しれないが、ともかく私が発汗していることに間違い無い。
そこに敢えて国語的な正解を求めるのであれば、恐らく『冷や汗』が無難。
しかし、次の瞬間、私は身体の芯から震え上がることになる。
明日の品評会へウチから出品される筈の大正三色。
明日という日に向け、我が家は一つの目標を胸に一丸となり粉骨砕身努めて来た。
昨年度の錦鯉品評会、惜しくも準優勝に甘んじた我ら家族は、この1年を賭け”世界一を狙える鯉”を仕上げてきたのだ。
水温は1ヶ月前までの20度から14度にまで冷え込ませ、肌を引き締めた。
10種類以上に及ぶ餌も時期毎に最適解を導き出した。
全ての想いがこの一匹の錦鯉へ集約され、その100cm余りの肉体に宿っている。
知り合いの養鯉場から生後3ヶ月そこそこの錦鯉を引き取り、縁担ぎに私が『勝則』と名付けた大正三色……
今日、ウチはこの会場へは560余りの錦鯉を搬入したが、勝則だけは賭けた愛が!労力が!覚悟が違うッ!───
その……ッ!
そんな、期待と信念と未来を背負う優勝候補が……ッッッ!!
私の勝則が……ッッッ!!!
───白目を剥いて水面に浮かんでいた。