表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/97

【4-14】決着

体はボロボロで痛いけれど幸いな事に眷属達がやっている事を見ている以外に私がやる事は何も無い。

目の前では同じくぼろい木製の小屋が私の眷属達に文字通り袋叩きにあっています。

一方的にこちらが攻撃を加えていて相手の反撃は今の所一切許していません。


だけれど…そろそろ数十分は攻撃をし続けているはずなのですが、あんなに壊れやすそうな小屋がまだ壊れないのは予想外でした。

ぼろい見た目でしたのですぐに終わると思っていたのですけれど…とんでもなく堅牢です。

一度始めた以上は止めるわけにもいかないのでずっとこの光景を眺めているのですけど…不謹慎ですが疲れも溜まっているせいかだんだんと眠くなってきました。

ですがここは敵地の目前であり何が起こるかわかりませんので休むわけにもいきませんので、ずっと注視しています。

私の側には頑張ろうと思っていたけれど手伝う事が無くてトボトボ帰って来た子供も座っています。

ここで子供に裏切られて私が襲われたらとも考えましたが…そんな空気を微塵も感じさせないですし疲れていたのもあってもういいやと考えを放棄してしまいました。


「あ、あの…質問してもよろしいでしょうか?」


うーん…疲れてはいますけど私は今手持ち無沙汰で…一言で言うと暇をしています。

やる事は見ているだけですし、ここで面倒がって断っても子供の好感度が下がるだけでいい事は無いでしょうし答えておきましょう。


「あの小屋…ご主人様と同じ物ですよね?壊せるのでしょうか?」


「壊せます。時間はかかっていますが大丈夫ですよ」


私は確信をもって子供に返事をします。

まあ私の予想なのですけれど、この考えはほぼ間違いは無いと考えています。

なぜならあの性格の悪い連中が提供した小屋だからです。

あいつ等は私達のやっている事を見て娯楽として楽しんでいるはずです…そんな腐った連中が籠っていれば安全な住居を私達に提供するでしょうか?


答えは絶対にありえないです。


そう…そんな緊張感のない退屈な見世物になるような事にするはずが無いのです。

…確かにこう考えるのでしたら、ある程度あの小屋に耐久性があるのも納得できますね。

きっと中で混乱して怯えたりパニックになっている所を見たり…外から攻撃していい気になっている所を見たりしてバラエティ番組のように楽しんでいるのでしょう。


そんな考え事をしていると相手の小屋の正面に陣取っていたスノーシルフが氷魔法を詠唱し小屋へと放ちました。

どうやら閉じこもっていてもジリ貧になるとわかったようなので隙を見て外に出ようとしたのでしょう。

ですがそれだけは問屋が卸しません。

ヒポグリフのような大型の眷属に対抗させようとするならそれ相応に大型の眷属を召喚するか、複数の眷属を召喚するしかありません。

そして小屋の中にそんなスペースがあるわけがありません。

大型の眷属は特に小屋から出る事もできませんからね…ですからこの状況を打開するためには外に出て召喚をする必要があります。

その手は打たせないぞというこちらの考えは今の氷魔法で伝わったでしょう。

これで小型の眷属を召喚して小屋から出撃させても扉を開けた途端に殺されると分かったはずなので…これで封殺できるはずです。


…そしてこれは私にも当てはまります。

私もいざという時のためにマナを溜めて、必要な時に召喚をすればいいと考えていましたけれど…周囲が制圧されてしまって小屋に押し込まれてしまったらそれもできませんね。

こんな詰みのような状況にならないように立ち回らないといけない…それが学べただけでも今回の攻撃は無駄ではなかったでしょう。


更に待つ事数分…一際大きい悲鳴のように木のきしむ音が周囲に鳴り響きます。

とうとう小屋がいびつに割れ始め、ゆっくりと斜めに傾いていっています。

そしてすぐに訪れる建物の倒壊から逃れるためか男が扉から外へ転がり出てきました。

その男にスノーシルフが命令通りに狙いを定めて氷魔法を放とうとしますが、少し待つように指示を出します。

別にとどめをためらっているのではありません。

ただ確認したい事がありましたのでその確認の間だけ待ってもらう必要があるからです。


「くそアマがぁ!好き放題やりやがって!舐めた真似のツケを…」


男はそう言いながら「管理者の本」を使って何かしようとしていますが、その途中「管理者の本」は男の手元からシュンと消え去ってしまいました。


「へ?」


男は何が起こったのかわかっていないようですが、男の背で小屋が倒壊したのを確認した所でこうなるのではないかと予想はしていました。


『はい、管理者である貴方の本拠点の情報が表示されましたね。この本拠点が破壊されますと「管理者の書」は使用できなくなり、管理者の力は一切使えなくなるので注意してくださいね』


いけ好かない女が確かこう説明していたような気がします。

それが本当だったと目の前で証明されたので…だからどうしたというような気もしますが不確定な要素が一つ消えた事はよかったと思います。


さて…後はこの男をどうするかですね。

もうこの男は「管理者」というチート能力は使えません。

よく見たら先ほど殺したコボルトも泡となって消滅していますので…この男にはもう何も無いのでしょう。

私が男をつまらなそうに見ると…。


「ひ、ひぃ!?」


短い悲鳴を上げて後ろへと後ずさりしています。

うーん…この男を残しておく価値はあるでしょうか?

少なくとも私への恨みは盛大にあるはずなのでここで殺しておいた方が後腐れが無くていいのは間違いないのでしょうが…。

そう考えていると小屋の破壊という仕事を終えた眷属達が集まって男を取り囲むように近づいていきます。

このままそう命令した方がいいですよね?

そう考えていると包囲の輪の中から男の叫びが聞こえてきます。


「ま、ままま待ってくれ!俺の負けだ!降参!」


それはわかっています。

だからどうなのと思い…考えを変えるに至りません。


「冗談だよな!?殺さないよな!なあ、頼むよ!」


冗談で済ますなら最初から攻撃なんてしていません。

ではとどめを…。


「そ、そうだ。いい話があるんだ!最後に聞いてから判断してくれよ!」


そう言われると…どうなんでしょう?

最後に遺言ぐらいは聞いてあげるべきなのでしょうか?

…仕方ないですね、これが最後なのですから遺言ぐらいは聞いてあげましょう。

私が近づくと男はきょろきょろと見回して後ずさりするだけです。


「こんなに囲まれてたら怖くて話なんかできねえよ…頼むからこいつ等を下げてくれよ」


「それはできません。あ、話を聞くので全員待っていてください」


そう眷属達を見て行った直後…地面を蹴る音が聞こえて、私は首元を掴まれて地面に引きずり倒されてしまいました。


…え?

と思う間もなく背中には地面に叩き付けられる痛みが響き渡りそして…。


「ガッ?ハ!?」


すぐに乱暴に喉元を強く押さえられて…苦しい!?

混乱する私の目の前に必死の形相の男が顔を近づけてきます。


「よくもやってくれやがったな!だがお前が馬鹿で助かったぜ!まさか目の前でこいつ等の停止命令を出してくれるなんてよお!」


「ガハ…ゴホ!」


やらかしてしまった!

それも致命的にまずいのを!?


とにかく今は状況を打開しようとして何か言おうにも…首を強く締められており空気が漏れ出る音しかでません。

そしてこんなに私が苦しんでいるのに…周囲の眷属は動いてはいますが私を助けるために動き出しません。


…そう、待てという最新の命令を軽率にしてしまったせいで。


ここに来て絶対に優位であったのにそれに酔ってしまい致命的なミスをした事に気付き必死に慌てふためきます。

何とか抑えてる手を振りほどこうにも相手が男で力は上…しかも馬乗りに跨られていてびくともしません。


「ちくしょう…俺様のチートを台無しにしやがってよお!」


男がそう叫ぶと押さえている手とは逆の手で顔を腹を殴りつけてきます。


…く…苦しい!痛い!


殴られるたびに痛みで体が悲鳴を上げ、何度も口から苦痛の息が漏れ出ます。

何とか声さえ出せれば逆転はできるのですがそれすらもできそうにありません。


「ここで殺すのは簡単だがそれだと俺のチートが無くなったのは変わらねえ…ならお前を奴隷にして利用するしかない!仕方なく生かしておいてやるから死ぬほど感謝しろよ?じゃあ余計な事を言う前に気絶させ…」


だけど絶対的な優位に立ったはずの男はその後の言葉を止めてしまいました。

そして何故か首元にかかる男の腕の力が抜けていきます。


「ゲホ!…ゴホ!な、何が?」


ようやくまともに息が吸えるようになり男の方を慌てて見上げると…男は驚愕しながら私ではなく横を見ています。

その男の視線の先では…男の白いワイシャツが赤く染まっており、脇腹には銀製のナイフが…そしてそのナイフは子供が握っており力を入れて突き入れ続けています。


「こいつ刺しやがった!?あ、ち…血がぁ!?こいつ何で命令無しで動いてやがるんだ!」


そう言うと男は子供の顔を殴り払い飛ばします。

殴られた子供は地面を転がっていき、男は刺さったナイフを引き抜こうと慌てて手を動かします。

そしてこの訪れるはずがなかった好機を逃すほど、そこまで私は愚かではありません。


「この男を!今すぐ殺しなさい!」


「な!しま…」


直後男は止まっていた眷属達の攻撃を横から受けてすぐに吹き飛ばされ…短い断末魔の後にぐちゃっと肉が潰れる音がしてそのまま静かになりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ