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【4-12】振り返りと決断

陽が沈み、しっかりと辺りも暗くなりきる頃になって、ようやく私達は小屋へと戻ってくる事ができました。

着いたのならここから夕飯を食べて今日得た情報を精査してこれからどうするかを決めるべきなのでしょう…なのですが、私の心はバキバキに折れ切っています。

何故かと言えばそれは…。


「きょ…今日の所は解散です。皆さん疲れたと思いますので休んでください」


小屋に到着するや否やそう宣言すると私は小屋の中に入り、そのまま床に倒れ込みました。

もう説明するまでもありませんね…はい、私の体力の限界です。


「足がパンパンで…ふくらはぎが痛いよぉ…」


運動不足の現代っ子が全く手入れのされていない道無き荒地を10キロメートル近くも歩けば…こうもなってしまいます。

情けない話ですけれど今日の所はもう動けそうにも無いですし、この調子ですと明日は筋肉痛になっているかもしれません。

そして体が疲れていて気だるいと考える事すらままなりません。

今日は意識が遠のくのに従ってこのまま寝てしまってもいいかもしれないと楽な方に流れていこうと考えていると扉を叩く音が耳に響いてきます。


…もう疲れていて反応もせずに寝てしまいたいですが何か要件があって扉を叩いているのでしょうし…仕方ありません。

床に突っ伏していた顔を上げて、マリオネットのようにカクカクとしか動かない体に鞭打ちながらよろよろと起き上がるともたれかかるように扉を開きます。

そして開くと目の前には、少しおどおどした子供が私を見上げています。


「あ、あの…簡単にですけど食事ができましたので…口に入れておいた方がいいのではないでしょうか?」







皿の上にはさばかれた塩で味付けた肉をバナナの皮で包んで焼いたものが置かれています。

口に運ぶとそれなりに美味しく食べる事ができ、死にかけていた先ほどと比べて少し元気が出てきます。


…焚火のそばに置かれたウサギの頭さえなければもっと元気がでたかもしれませんけれど贅沢は言えません。


それにしても…同じだけ歩いていた子供はまだ元気で私は疲れ果てているというのは…情けないぐらいに体力の差があるようですね、知りたくもない事実を知ってしまった気がします。

さてそのような目を背けたい事実はともかくとして、温かい物を口にしたお陰か頭が少し回り始めてきました。

本当なら疲れていようがいまいが自分の命がかかっている現状で明日に後回しにするなんて言語道断もいい所です。

では焚火で暖まりながら少し今日の事を考えてみましょう。


まずはあの男…管理者であるというほぼ確定の情報は得ました。

さらに第三者があの男を管理者に見せるようにごまかそうとしている可能性は極低確率であるのかもしれませんけれど、こちらに転移させられてからの日数、そしてそこまでして工作をする利点は無いと考えると…確定と見て間違いないでしょう。


そして人柄について。

ドワーフさん達の話と昨日直接話した感触からほぼ間違いないと思いますが…非常に自己中心的で暴力的でアクティブな人柄だと思います。

ですが、これ全て演技で油断を誘わせている可能性も捨てきれません。

…捨てきれないのですけれど…演技をする意味ってありますでしょうか?


ひょっとすると相手を無意識に過大評価しすぎている?

…そうですね仮定や憶測は無駄でしょうし、考えのノイズになるかもしれませんし…ひとまずは手元にある情報だけで精査していきましょう。


あの男の評価…


粗暴である…これはプラスマイナスゼロ、いえプラスよりでしょうか?

異世界に放り出されてここまで好き勝手行動できるのはある意味素晴らしいでしょう…おとなしいよりもマシと個人的に思います。


同様にアクティブさもプラス評価ですね。

行き当たりばったりな所はあるかもしれませんが盗賊とも伝手を持つ行動力はよいと思います。


交渉力は…どうなんでしょう?

盗賊と交渉を成立させる一方、ドワーフさん達を呆れさせているので…態度の使い分けができないのは不器用と言いますか、柔軟さが無いですね。

しかも相手の心情を全く考慮しないで話を進めようとしますしこれはマイナスでしょう。


他には、自分勝手な所…それを押し付けようとしてくるのは…最悪です。

そして押し付けられる先は私ですから他人事では無いのです。


…そうなるとあの男の下に入って手を組むか、それとも決裂して排除するか。

この2択のどちらになるでしょう。


手を組むとうまくいけばあの男の言っていた通りマナの運用効率は2倍以上になる事が期待できると思います。

ただしあちらが主導権を握るのを手放すことはありえなさそうなので、彼次第になりますが…少し…いえ大分不安になります。

ですが私と同じく教育は受けているでしょうし、私の持っていない知識を持っている可能性もあります。

それを消してしまうのは勿体ないでしょうか?


排除するとすれば、これからも私の思うように過ごせるようになるのが利点でしょうか?

周囲の問題が一つ片付いて、頭を悩ませる物が一つ無くなるというのもありがたいかもしれません。


ちなみにその中間策…スルーするなり断るなりするだけというのは無しです。

あの男の性格からその後、間違いなく激昂して敵対的になるのは火を見るよりも明らかです。

なのでどちらにするかなのですけれど…。


どうしましょうか?

うーん…ああ、そうですね。

せっかく同席していたのですから子供からの意見も聞いてみましょう。

何か参考になるかもしれません。

焚火の温かさにうつらうつらし始めている子供に問いかける事にします。


「一つ確認しますが、今日会った男をどう思います?」


「…へ?どうと言うのは?」


確かに質問の内容が大雑把すぎたかもしれません。

それに厳密な答えを聞きたいのではないので楽に答えられるよう言い直します。


「あの男がどんな感じの人間なのか思ったままに言ってくれればいいのですよ。参考程度にしか使いませんので気楽に言ってもらえれば構いませんよ」


私がそうたずねると子供は難しい顔をして考え込み、考えがまとまり始めたのかこちらに顔を向けると自信無さげに回答を口にし始めます。


「そ、そうですね。…あ!すごく似ている人がいます!自分のやりたい事や考えが第一で家族にそれ以外を許さないですし、それに面倒な事や嫌な事は人に押し付けるし…うまく行っている時は機嫌がいいのですがそうでないと八つ当たりや人のせいにして酒を飲んで暴れまわる人なのですが…」


なるほど、ろくでもない人間の話ですけど…確かに彼と近い人間像かもしれませんね。

解像度が高いので本当に参考になるかもしれません。


「後は私を見る目が…そ、その気持ち悪かったです。奴隷として売られている時にたまにそういう風に見てくる客がいまして…変な空気で包み込むと言いますかうまく表現できないのですが」


…そういえば、そういう変態のような危険な点もありましたね。

エルフの奴隷で喜んでいるという事は性的に手を出してくる可能性も非常に高いかもしれません。

なるほど、これは私が難しく考えすぎていたかもしれません。

私が取るべき手段は結局一つしか無かったという事がわかっただけでも今日の収穫は大きかったでしょう。


「十分参考になりましたありがとうございます。明日も早いので今日は早く寝ましょう」


「へ?早いのですか?」


子供は何故そうなったのか理解できなかったようですが、これは決定事項です。

疲れて眠っているようならうるさく吠えて起こすようにウルフにお願いするとそのままベッドに沈みました。


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本当は前話に添付しようと思っていましたが間に合わなかった地図になります

文章のつたない部分を補完できれば幸いです。


挿絵(By みてみん)

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