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【4-11】腹の内探り

「じゃー立ち話もなんだし、ぼろい小屋だけど中で話そうぜ?」


「せっかくのお誘いですけれど立ち話でもいいのではないでしょうか?見た感じ狭そうですし」


軽い雰囲気で屋内に誘ってきていますが…そうはいきませんよ?

中にもう1人いるんですよね?

ドワーフ達から聞いた話だとエルフの奴隷がいるはずですし、そうでなくとも何があるかわからない危険な場所に連れ込まれるようなハイリスクな事はできません。

私の回答が不満だったのか男はため息を盛大に吐いて小屋の壁にもたれかかります。


「まあ確かにせまいっちゃあ、せまいか…。立っているのは疲れるからやなんだけどな」


「別に座っても構いませんよ?」


「ばーか。汚れるじゃねえか」


今さら土埃で汚れたとしても大差は無いような気もしますけれど、そこは気の持ちようですしこれ以上指摘しない方がいいでしょう。

男はやれやれと疲れた顔になるとそのまま面倒そうに私の方を見てきます。


「んで?話がしたいって何だ?いや待て俺も聞きたい事があるし…ここはお互い情報交換といかないか?」


「素晴らしいですね。ドワーフさん達から聞いた話と違って賢くて助かります」


「ああ?あいつ等やっぱりろくでもないホラ話を流してやがったか。まあでも実際見たらいい男ってわかるだろ?そういう意味ではわざわざ俺ん所まで来たお前は見所あるよ?」


転移前だったら絶対にやらないようなよいしょでしたが…うまく乗せられたでしょうか?

見た感じは機嫌がよくなっているように見えますが…相手も同じようにわざと機嫌がよくなった振りをしたり、私を言葉だけで喜ばせて隙を出させようとしているかもしれません。

油断はできません…が、やはり情報は欲しいので聞きたい事につながるよう話をしていきましょう。


「ありがとうございます。…そうですね。まずは前提の確認ですが、私も貴方も同じ管理者というものをやらされている…という事でいいですよね?」


「ああその通りだ。全くこんな文明の無い所に放り出すんだからもっとまともなチートをよこせっつうんだ」


「全くもってその通りだと思います。お陰で随分と苦労しました」


「わかるぜえ…俺もあいつ等と取引できなかったらどうなっていたかわっかんねえしな。ペット用の缶詰を食わされるとか屈辱だったぜ」


なるほど、私は最初にあぶく銭…ではなくあぶくマナを手に入れる事ができましたので楽をさせてもらいましたが、予想通り他の人はだいぶ苦労したようですね。


「んでもって缶詰がきれるかという時に…あの人たちが来てくれたんだ。いや、押しかけて来たが正解だな?あいつ等俺がチート持ってなかったら絶対に殺しにかかってきてたぜ」


そしてこの話の流れで盗賊の人達とのなりそめも聞かせてもらえるようです。

ここは静聴させてもらいましょう。


「まあ数十人で押しかけてきやがってよ。このクソ犬は無理だ勝てないとか抜かしやがるから仕方なく溜めていたなけなしのマナで大物をドドーンとあいつ等の前で召喚したってわけよ。そこからが面白くてな、あいつ等びびって態度を一変させやがってよぉ、最後にはあいつ等のボスが出てきて話をする事になったんだ」


やはり大物の眷属を召喚するためにマナを溜めていましたか。

こんな世界に投げ出されたら不安になって強い戦力を求めるのは自然な事ですからおかしい点は無いでしょう。

ただ…盗賊にいきなり襲われるというのはこの方かなりアンラッキーだった…いえ、それを利点に変えたというのは大したものだと思います。


「あいつ等どうやらエルフと小競り合いしているらしくてな。俺に敵わないとみるとすぐに頭を下げて手打ちにして欲しいと頼んできやがった。まあ頭下げるんならおれも狭量じゃねえから許してやるさ。そして俺はある事を思い出してな。元の世界にはPMCとかいうグレーな事をやる傭兵会社があったなあと思って、それをこっちでもやるのはどうかと考えたわけだ。ニュースもよくよく見ておいてよかったぜ」


盗賊と手を組んだというのはドワーフさん達の話の通りですね。

しかしこの男から持ち掛けたのですか…思ったよりアグレッシブに動きますね。

この行動力も大したものだと思います。


「だから召喚したばかりのツリージャイアントタランチュラは傭兵としてあいつ等に貸し出したんだ。んでもって数日したら、あいつ等俺の所まで来て褒めたたえてくるってわけよ。そして貸し出す時にした約束の通り食料に…なんとエルフの奴隷までくれたってわけよ!しかもだ!追加の派遣の仕事まで貰っちまって今マナを溜めている所というわけだ!追加して役に立てばもっと物やエルフの奴隷を俺にくれるってな!笑いが止まんねえぜ!」


ふむふむ、召喚したのはツリージャイアントタランチュラ…私の記憶が確かなら土を3マナ使用した眷属ですね。

森林の土地では俊敏性があがる上に擬態能力も持つ地形による恩恵で強くなる…でしたでしょうか?

ただそれ以外の土地では糸を吐くスキルを持った他の3マナの眷属に戦力的に見劣りするという事で私は召喚しませんでした。


…その内森をいっぱい周囲に配置すれば使えそうだなとは思っていましたが。


そしてこの男の話が本当なら今はマナを溜めている最中…という事ですね。

本当ならですが…。


「食料はそっちも苦労してるだろ?カビてるのやら硬いのが多いが…困ってるんなら少しは分けてやってもいいぞ?」


「今の所何とか食いつなげていますので大丈夫です」


「何で食いつなげてるんだよ?…まさかマナを支払って買ってるのか!?かぁーー勿体ねえ。女は考え無しに行動するからなあ」


だいぶ失礼な事を言っていますけど気にしません。

ここで機嫌を損ねさせるよりも情報をもっと引き出した方がお得ですから。


当然…少しは腹が立ちますけれど今は飲み込みます。


「おお、そうだ!俺も聞きたいんだが…そこにいるのはお前の眷属だよな!召喚できる中に無かったような気がするけど…ひょっとして可能なのか!」


男は子供を指差して少し興奮しながら私に聞いてきますけど…そんな事を聞いてどうするのでしょうか?

それともこれが彼にとって重要な何かにつながる情報なのでしょうか?

私にはわかるはずもありませんのでここはお茶を濁すようにゆっくりと言葉を選んでいきます。


「そうですね…どうだったでしょうか?確か…」


「思い出そうとしてるっつう事は可能という事なんだな!うっひょお!こっちでは幼女を召喚してやりたい放題できるのか!夢が広がりまくりだぜ!」


…早合点して間違えて受け止めたのはいいのですけれど…何と言うかとんでもないゲスですね。

法も無いのでやりたい放題なのは…既に人を何人も殺している私がとやかく言える立場にはないのですけれど、やはり気持ち悪いです。


…いけませんこちらの平常心がだいぶ乱されてしまいました。

ぼろを出す前にキリを付けて引き返さないとまずいでしょう。

後、時間がそろそろまずいというのもありますし…そうですねそれを理由にしてしまいましょう。


「盛り上がっている所申し訳ありませんがだいぶ遠い所から来たのでもうそろそろ帰らないと真っ暗闇の中を歩かなければなりません。なので失礼させて…」


「待った!最後に一つ…いい話があるんだが?」


なんと…いい話ですか!?

今話をした手ごたえではこの話もあまり期待を持てないのでは無いかという思いもありますが、それでもどうせタダなのですから聞くだけは聞いておかないと損をしてしまうかもしれません。

ですので私が耳を傾けていると…。


「なあ…お前が持っているマナ全部俺にくれないか?」


…全然いい話では無いようです。

あまりのひどさにガックリと脱力してしまい、呆れが表に出てしまわないか心配になるぐらい必死に表面を取り繕います。

私が理解できないと首をかしげてしまうと男が大きく身振りをしながら必死に自分にだけ都合がいい話を納得させようと説得しようと続けてきます。


「勘違いすんな!これは投資だよ!マナが多い方がいいもの召喚できたりできるのはわかんだろ?だったら俺がお前の分も有効的に使ってやるって言ってるんだ」


…この話に喜んで乗るような人がいるのでしょうか?

明らかに下手くそな投資詐欺のような手口に閉口してしまい何も言えません。


「かーー!これだから理解が遅い奴はよぉ。あまり賢くないお前に変わって俺が有効活用したほうがこの先いいに決まってるだろ?ついでにお前の面倒も見てやるから安心しろって」


相手にだけ都合がよく、書面も無く口約束だけ…今思いつくだけでもこれだけあってどこにも安心できる要素が無いのですけど…何故か頭が痛くなってきました。


「大変いいお話なのですが重要な事なので考えてから…4日後には回答しにこちらへ来ますのでお待ちいただけますか?」


「はぁー即決できないとかマジかよ?仕方ねえから帰ってよく考えてこいよ…あ、何なら泊まっていかないか?疲れてるだろうし夜を共に過ごして親交を深めるっつううのも…」


「それではまた来ますのでさようなら」


まだろくでもない事をのたまう男を背に私は強引に話を切るとそのままこの場を去る事に決めました。


…うまく相手の機嫌を損ねないように立ち回れたでしょうか?

もう無理な気もしますけど情報を収集するという目標の方はほんの少しだけ達成できましたので今日の所はよしとしましょう。

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