【4-閑話】南西の転移者
ドワーフ視点での閑話となります。
厄介な事を抱えて足取りも重いが何とか渓谷にあるドワーフの里へと戻って来た。
最初は人間との縁が切れたのが一番の問題じゃなと思ったが…それよりもすぐに上の事態に直面するとは思わんかった。
困った事になったというのはいい報せではないんじゃが…この事を共有しないわけにはいかん。
儂は気合を入れ直すとすぐに里の者へ代表を集めるよう声をかけた。
「それはまことか!?にわかに信じられんぞ!?」
それから少し時間が経つと鍛冶仕事が無い連中以外は集会所へと集まってきおった。
悠長だという事は無く、むしろ鍛冶仕事は途中で手を離して止める事ができない中よく集まったといえる方じゃろう。
そこで呼び出しを行った儂は領主との縁が切れたという前座の話を軽く済ませると数日前に会った女についての話をした。
傍から聞けば当然信じ難い話であり、最初は受け止める事もせず笑っておる奴も結構おったが…儂の真剣な態度からそれが嘘では無いと徐々に感じ始めたのかざわめきはじめ、今の騒々しい状態へと繋がる。
嘘だと笑い飛ばそうと思っている連中もおれば、事実ならばとんでもない事だと浮足立つ者、更には神妙な顔をして黙り込んでいる者とさまざまであるが一石を投じてしまったのは間違いなかろう。
だが我々は協議を重ねこの先どうするか結論を出さねばなるまい。
それもできる限り早い方がよい…とはわかっていても慎重にならなければならない。
そして集会所が重い空気に包まれる中…儂も予想していなかった新たな情報が更にもたらされるとは微塵も思ってもいなかった。
「実は儂もメルゾが話した小屋のような物を見かけた…荒地しかなかったはずだった場所にその小屋はあり、その側には水を潤沢にひいた畑のような物まであった」
発言したのは儂よりも先に里へ帰ってきたおった若造であり…その言葉にまた場がどよめく。
複数の報告により信憑性があがったのか、儂の妄言や勘違いを主張していた連中もこれには黙り神妙に考え込む連中に加わるという良い効果はあったものの厄介事がもう一つ増えたという新たな問題に対して暗い空気が加速する。
…というか儂もびっくりして思わず口が開きっぱなしじゃった。
「確かめる必要がありそうじゃな…この場で一番年をくってるのは儂じゃから儂が見てこよう。後は発見者のメルゾとダリデは嫌じゃろうが案内に付いて来てもらうぞ。他は里の者へ周知させよ…特に儂等が戻ってこない場合は備えが必要になるじゃろうからその手筈も頼んだぞ」
そう言うとその場は慌ただしく解散し、儂と年長のゴルム爺とダリデは真偽を確認すべく里を出発した。
まずは確認が取れていない方を確認した方がいいじゃろうと話はまとまり里から南西の方へと歩を進める。
そしてダリデを先頭に荒野を進むと…本当に話した通りの場所に儂が見たのと同じ小屋が荒野のど真ん中にあった。
どういう原理かわからんがこちらでも水が湧いているようだ。
…こんなに水源があればこの地はここまで荒れているはずもないのにいったいどこからと思ってしまうがまずはこの小屋の主の確認である。
儂の話から会話は通じるだろうと思ってはおるが…やはりこんな天変地異を起こせる者を相手にするのは命の危険も感じられ緊張がする。
幸い儂等が近づいても何の起きなかったが…小屋まで近づいてノックをするゴルム爺の手が僅かに震えているのも仕方ない事じゃろう。
「あぁ!?もう!うっせえなあ!人が寝てるのを邪魔するとかふざけてんのか!?」
ゴルム爺が力強くノックをすると共に中から品が無い怒声が響いてきおる。
…これは外れではなかろうか?
ダリデと顔を見合わせるがどうやらこやつも同じ意見のようだ。
だがゴルム爺は彼の者の脅威を考慮し丁寧に応対する事に決めたようだ。
「いきなりの来訪申し訳ない!儂等はバルノフ氏族の者である!此度はこの地に居を構えた事を確認させていただきたく参った!」
「大声でうるせえんだよ!全くどこの世間知らずなん…」
扉を勢いよく蹴飛ばされると寝起きの顔をした男が首を鳴らしながらのっそのっそと出てきおった。
そしてきょろきょろして見下ろして…儂等を視界に入れると首をかしげた後に歓喜の声を上げ始めおった。
「おぉ!ドワーフだと!?マジでファンタジーじゃねえか!いいねえ!」
なるほど我らの事は知っておるのか?
だとしたら話は早…。
「いい装備作れるんだろ?だったらくれよ」
早い以前に話が通じんな。
これは駄目かもしれん。
遠い目をしている儂等を無視し男は話を続けていく。
「何だよ?だまってあるだけ寄こせばいいんだよ?それともタダは駄目なのか?はぁーケチくせえ」
男が理不尽な要求をしながら不平不満をのたまい続けている。
こんな男に一体誰が教育したのか…親の顔は見てみたくもないな。
どうせ親馬鹿貴族と同じようなものじゃろうしな。
そう考えていると小屋の奥からコボルトが駆けてこちらに来る。
…コボルトじゃと!?
いきなり出現した魔物に身構えるが男がコボルトを見つけると近寄ってそのまま蹴飛ばした。
「おいてめえ!どこで遊んでやがった!こいつ等が危険だったらどうする気だ!?」
『クゥーーン』
コボルトは抵抗もせずに蹴飛ばされそのまま地面を転がっていく。
恨めし気な目をして入るが反抗をする気は無いようじゃ。
…そういえばあの女もウルフを従えておったしどちらも同じ能力を持っているという予想は間違っていないのではないかと思う。
「あぁ!?吠えて知らさせろとか言いたそうな面してるなあ!?俺の睡眠を妨害とか最低な真似はすんなよ!工夫だ!工夫をしろ全く…そうだ!」
男は何か思いついたのかゴルム爺を再び見下ろすと手を掴んで笑顔を浮かべながら話してきおった。
「なあ、戦力はいらねえか?見た通り俺はこういった連中を支配して戦力にできるんだ。こう見えても色々と召喚できるんだぜ。それに実績もある!ああーそうそう!こう見えてももう強力なのを派遣して商売をしてるんだぜ!」
男の言葉は二重の意味で儂等には衝撃的じゃった。
1つはコボルト以外にも魔物を召喚できるという事…そうなるともっと危険な魔物を呼び出して…最悪の場合儂等を皆殺しにしてくる可能性もでてきよった。
もう1つは召喚した魔物を貸し出した先…この辺りで心当たりがあるとすれば耳長か先日の女か…心当たりがもっともあって最悪なのは人族の盗賊の場合じゃ。
「なーに代金はお宅らの武器防具を積んでくれればそれに応じて派遣するさ!ちなみに先のお得意様は…おい、お客様に顔を見せろ!」
そして小屋の奥から耳長の女が出てきおった。
衣服は乱れており目は反抗心でたっぷりだが従っておる…これはかなりまずい状況じゃな。
「この近くに傭兵団がいてな!失礼な態度で押し寄せて来たんだがまあ身なりは最低だったが話の分かる連中でよお!この近くでエルフを捕まえて奴隷にする商売をしているんだとさ!そこで俺が強力なのを召喚して手伝わせてるってわけよ!おかげで商売がはかどるって感謝の言葉と共に約束の分け前としてエルフの奴隷をくれたってわけさ!」
…最悪の想定通りに最低な連中が手を組んでおるようじゃ。
耳長共は気に食わんが不幸な状況になった事は少し同情するし…儂等にとっても他人事では無いじゃろうな。
「傭兵団に奴隷魔法が使える奴がいて次々と奴隷を増やせるんだってさ!くぅーーー俺だってそう言うの欲しいが今は我慢だ!まずは手数料としてもらえるエルフの女奴隷をコレクションするだけで満足するさ!まあそういうわけでビッグになる俺に今のうちに投資するのは悪い話じゃないぜえ?むしろしないなんて馬鹿な答えはないよな?」
結局ゴルム爺に話を任せてしまったが、最終的には話を持ち帰って相談すると回答をしてこの場から逃げる事にした。
その後、ゴルム爺とダリデと話した結果はもう関わり合いにならん方がいいじゃろという結論に至ったが果たしてそううまく行くとも思えんのが胃に痛い所じゃ。
そして今から向かう先…ここからは儂が交渉する事になってしもうた。
ゴルム爺がもう疲れたからと吐露したが…無理もあるまい。
しかしあの女…前話した時は取り付く島が無いぐらいそっけなかったがひょっとすると実はこの男と同じ危険な思考を持っているのではなかろうか?
どちらにせよ両者ともに強大な力を持っているのがたちが悪い。
儂もこの先に予想される心労に胃を痛めつつ北東へと向かう事にした。




