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【3-閑話】魔道具のお届け先のご様子

このお話は本編とは全く関係が無いと思われる群像劇です。

読んでも読まなくても大丈夫なはずです…たぶん。


---本来の勇気の酒の届け先の話------------------------------------------------------


「何故だぁ!何故約束の物が届かぬ!」


低い深みのある怒りの叫びと共に腕が振り下ろされ木製の机がへし折れ真っ二つになり無残な姿をさらす。

ここはローゼリア王国という国の東に位置する貴族家の一つクリット子爵家の屋敷の当主の執務室であり、日差しが差し込む窓の外には緑と色とりどりの花であふれる華やかな庭という贅沢がこの男が権力者の立場にいる事を示している。

そして、机の傍らに控えていた初老の男が深く頭を下げると主人に向けて望んだ答えではない現状を淡々と告げる。


「も…申し訳ありませぬ。現在手の者をやって確認をしているのですが報告にはまだ時間がかかるかと…」


「ふぅーーーーー!いつぐらいにこちらに報告があがる?」


「馬をいくら潰しても構わないと指示を出しましたので…2、3日以内には」


「そんなに待てるか!…おい、念のために別の手の者も派遣させるのだ!」


「閣下の心中お察ししておりますが今回の件…あまり知る人間が多くない方がよろしいのでは?」


その指摘を受けて怒りで深く鼻で呼吸をしていた子爵は少し冷静さを取り戻す。


…そうだ確かにこやつの言う通りだ。

ここで怒りに任せて失敗するわけにはいかぬ。

こういう時にこそ武名で名を通した当家の名に恥じぬよう動かねばならぬ。

まず優先すべきは何だ?


一番良いのは問題なくこの取引が終わる事、だが既に問題が発生がしている。

この場合は…。


「今回の取引に使用した商人だが…足が付くわけにはいかん。第一報が届くのは数日内だったな?その時次第ですぐにそいつ等を始末できるよう手配せよ」


「かしこまりてございます」


「よし、下がってよい」


男は深く子爵に頭を下げると退出し部屋から離れていく。

出て行くのを確認し、冷静さを取り戻した子爵は深くため息をつくと豪華な腰掛椅子にドカッと座り込んだ。

そして怒りで熱した頭でぼんやりとこれまでの事を思い返す。


始まりは西に領を持つ同じ子爵家とのいざこざであった。

いや、相手の子爵家はこちらに何も隔意を持っていなかったであろう…一方的にこちらがライバル視していただけだ。


両家が共通している点は多い、領土の広さ、領民の数、同じ武よりの貴族であり軍功も大差は無い。

そして両家とも1人だけ娘を抱えているという点、これが問題だった。

どちらも可愛く美人であり器量は…まあ…そこは置いておくとしよう。


私の娘は剣術もそこそこおさめ、軍学も非常に優秀、しかも色々と考えを巡らせる事ができ計算高い事ができる自慢の1人娘だ。


…だが、相手の子爵家の娘と比べると…言いたくもないが残念ながら劣る点が多かった。

剣術は首席、軍学も娘と並び昨年共に入学した騎士学校においても頭角を現していた。

ここで問題が出るのは両家とも跡取りの男子がおらず入り婿に頼るしかない…ないのだがこのままでは明らかに向こうの家に有望株が持っていかれてしまうのは間違いなかった。


だが、幸運な事にゴンドルア伯領で行われた軍事演習…盗賊の討伐で行方不明になってしまったようだ。

いや、実に不幸な事故だ…私も可愛い娘を持つ身だからようわかる。

まさか失敗のしようが無い演習だったはずなのに生徒たちの行動が分かっていたように動く盗賊に襲撃、その襲撃自体は無事に撃退しほとんどが撤退できたものの彼女の部隊はちょうど都合よく別命を帯びて行動しており彼女の部隊は無事だったが彼女自身は不幸にも盗賊に捕らわれてしまったそうだ。


どうしてこうなったのか…誰かが悪い考えを実行したに違いないが、清廉潔白な貴族にそんな事をする人物がいようはずがない。

きっと盗賊共がどこかで盗み聞きでもして情報をあらかじめ入手していたに違いない。


かの子爵はすぐに娘を救おうと出陣しようとしおったがゴンドルア伯の坊主に拒否され続け、結局エルフを刺激しかねないと重要さを説かれた王による王命により正式に止められた事で全てが終わった。

かわいそうな事だが盗賊の慰みものになって…そんな事に耐えきれずに命を絶っているに違いあるまい。

私も同じ一人娘を持つ親…そのような事になれば胸が張り裂けそうな痛みで狂ってしまうかもしれんというのはよくわかる。


そして私の予想通り、社交の場で見た子爵の生気が抜け落ちたその顔は見世物としては最高であった。

この程度の事でやつれるなどと…軟弱にもほどがある。

だがこれで非常に我が家にとって有利な追い風となる。


武の家系で通して来たのに盗賊ごときに長子が捕らわれたのだ…誰も養子を寄こそうともしないだろうしむしろ落ち目な奴に関わろうとする奴も…まあ私みたいにこの好機を逃さずさらにむしり取ろうとする奴はいるだろう。

だが好転はせずお家断絶はほぼ間違いないと見ている。


お陰で私の娘への縁談の話が増えたのだからありがたい事であろう。

今まであっちに行っていたのもこちらに増え…どれを選ぼうか困ってしまうぐらいだ。


だが…今思えば少し調子に乗りすぎたと思う。

その社交の場でいい気分になり過ぎたせいで口が軽くなり私が本気でも出せば大岩でも真っ二つに斬れる…そう豪語したのは間違いだったな。

それが陛下の耳に入ったのがまずかった…直に拝見したいとおっしゃられたのだ。

やむを得ず遺跡から出土した高額な魔道具を取り寄せていたのだが…。


ああ!

思い出すとまた怒りがぶり返してしまう。


私の心胆を寒からしめるとは…あの不敬な商人は首をこの手で斬り落とさないと済まされんぞ。


…だがまずは手に入らない場合にどうするかだな。

とりあえず思いつくのは仮病であろうか…評判に影響するからあまりとりたくない手だがその時はやむを得ないだろう。




---本来の灯揺らめく指輪の届け先の話------------------------------------------------------


「~~~~~♪」


ローゼリア王国の王都の近郊にある大邸宅…そこで老人が上機嫌に鼻歌を歌っている。

フードをかぶり立派な白髭をたくわえた笑顔を浮かべるお爺さん、ここだけをみるだけなら人の良さそうなお爺さんに見える事もあるだろう。


「お師匠様だいぶ上機嫌ですね?何かあったのかしら?」


「理由がわからんけどしょうもない小言を言われないのは助かるぜ」


部屋から遠巻きに聞こえてくる雑音さえ気にしていないこの老人…オディスはローゼリア王国の侯爵家お抱えの魔法使いである。

3つもの属性を扱う大魔法使い…それがこの国を含めた周辺国家の評価であり、その評価にこの老人もつい最近までは顕示欲を満たし、大満足をしていた。


ところが半年前海を渡った別の大陸で発見された炎の魔力を秘めた指輪、この情報を入手すると状況は一変する。

何としてでも入手するためにあらゆる手を模索し始める。

侯爵家を口八丁で口説き、騙し、捻出した資金を使い、現地での裏工作の数々…最終的には地元の貴族に圧倒的差をつけての落札…これはオークションが開催された国で大きな話題となった。

しかし、話題となった分指輪をひそかに国外…いや大陸外に持ち出すのに手間と時間がかかる事となった。


そして2月前、とうとうあちらの国々を煙に巻いて船上に持ち出す事に成功したと連絡を受け、その後無事上陸したと報告を受けた時…この老人の機嫌は最高潮に達し現在に至るのである。


今までの苦労を思い浮かべながら、部屋に誰もいない事を確認すると絶対に誰にも見せない左手を顔の前にかざす。

その指には色とりどりの宝石がはまった指輪、チェーンネイルが多数嵌められており虹色の輝きを老人の目に照らし尽くす。


実はこの老人…魔法使いとしての素質は平凡、いや並以下であり親兄弟から激しく落胆された過去がある。

それを埋めたのはこの老人とたゆまぬ努力と、魔力を宿したアイテムに対する研究およびその情報収集と獲得に全力を尽くした交渉力と行動力に他ならない。

元々は土魔法の行使が可能な1属性の魔法使いであったが、当時住み込みで働いていた魔法使いの家で役立たずと判断されていた壊れた魔道具を譲り受けた事が転換点となった。


この魔道具は「黄昏の黄泉路」と呼ばれる高難易度ダンジョンにおいて深層近くで偶然発見され、持ち帰られた代物である。

当時、10万もの人間、エルフ、ドワーフ、様々な種族の獣人等々対立はしていない全ての種族が協力し攻略を行ったが結果は1パーセントが生きて帰れて幸運だったと当時の記録として記されている事から想像を絶する過酷さであった事がうかがえる。


そんな危険な場所から多大な犠牲を払って苦労して入手した物…きっと物凄い価値があるに違いないと試してはみたのだが、装備してみても何もステータスは増えず、何のスキルも特性も得られず、どのように使っても何も得られない。


人間とエルフに10年実験され続け…これは単なるトロフィー…記念品であると結論付けられてしまったのである。

だがそれだけ苦労して手に入れた代物…当時はそれなりに見向きする者もいた。


だがこの魔道具は完品でも美品でもなく薄汚く、割れてしまったコインの一部であったため美術品としての価値も薄く、次第にお金に困った人間から相手に下賜、譲渡されていくに至り様々な人の手へと渡って行った。


ここからはこの世界の人間に知られていない情報を記載する…この魔道具、名前は「ヘカトンケイルの四分一コイン」である。

効果は単純に装備者に装備スロットを25個追加するというとんでもない効果であり、神話や伝説に語られるべきものである。


この老人も当時の勤め先から長年の給金の代わりにこんな汚い割れたコインを1枚握らされてしまったのである。

その時はあまりのケチさを恨み、長い時間を無駄にしてしまった怒りと共に酒場で酒を大量にあおって飲んだくれてしまった。

そして酔った勢いで自前の魔道具の指輪を癖ではめてしまいそのまま酒場の床で泥酔してしまう。

翌朝、酒場のマスターに掃除の邪魔だからとたたき出され、目が覚め意識が回復した事でようやく自分のやらかした深刻さを思い出しゾッと恐怖がわき出たのである。


武具、防具、アクセサリー等、特別な力を持った品々はこの世界にも多数存在している。

そしてそのような特別な装備品を人間は1つしか装備できず、2つ以上装備しようとすれば反発して片方が自動で外れてしまい、無理な事をすればその装備者が死亡してしまうというのがこの世界の人間の常識である。


さて、その当時泥酔している間もこの老人は魔道具ともいうべき品を2つも身に着けて一晩過ごしてしまったのだ。

何か異変があるかもしれない…そう考えて治癒魔法をかけてもらったり心配をして怯えて暮らしていたのだが…1月たっても何も起こらない。


そこでふっ切れた老人はひょっとしたらと思い3つ目の魔道具の指輪を追加ではめて…この世界で初めてこの四分の一に割れたコインの真価に気付いたのである。


そこから老人は魔法使いに少しでも効果のある魔道具を熱心に収集し始めた。

老人の左手にある通り水の魔力が籠ったチェーンネイルと風の魔力が籠った指輪を入手して3属性の魔法使いに、そしてそれ以外にもある多数の無職の宝石の指輪は老人の魔力をわずかに高めるのの貢献している。

このような塵も積もるような努力の末、老人は今の立場を手に入れたのである。


「ククク…あれさえ届けば儂も4属性の魔法使いか。これは末永く歴史に名を刻んでしまうかもしれんのう」


いびつな笑顔を浮かべながらもうっとりと上機嫌に魔道具を眺める老人…この老人の機嫌が崩れ落ちるまで1月もかからないとはこの場にいる誰も想像していなかった事である。

ここで本章は終了となります。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

評価、ブックマーク、毎回いいねを付けていただいた皆様本当にありがとうございます。


次章の予定は未定ですのでご了承ください。

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