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【3-2】子供への聞き取り

私にたたき起こされて慌ててたたずまいを直す子供を見てどうしようかと心の中で葛藤し困ってしまいます。


こんな世界で他人を近くに置きたくないという気持ちはあるのですけれど流石にここまで反抗心が無い子供を叩き出すのはいかなものかと元の世界のモラルといいますか良心に響きます。


…駄目ですね葛藤している場合ではありません。

ええ、今から話をして決めればいいじゃないですか…腹を決めましょう。

昨日既に失敗しただろうとかいう話には聞く耳を持つつもりはありません。


「さて、元奴隷の…失礼お名前を聞いていませんでしたね。お名前は?」


「…無い」


俯いて首を横に振る姿を見てそんな馬鹿なと思います。

ひょっとしてこちらの世界には名前が無い…なんて事は無いでしょう。

先日のドワーフの人も名前があったのですから。


「何故ですか?」


「…親から付けてもらわなかった。ずっとずっと働かされて…そのまま奴隷商に売られた」


どうやら奴隷となる前から家族から家族扱いされずに結構過酷な環境にあったようですね。

前の世界では考えられませんけど…こちらの世界では普通かもしれないですし判断はつかないですね。

ですけどこれじゃあ奴隷じゃなくなったからといって家には帰れませんね。


「わかりました。それでははっきり言わせていただきます。昨日も言いましたけど私には他の人の面倒を見る余裕はありません。食料と水は少しだけなら用意しますので人間の町に行った方がいいと思うのですけどいかがでしょう?」


「…いや」


むぅ…折れないですか。

結構強気で押しているつもりだったのですけど迫力が足りなかったでしょうか?

納得して出て行ってもらうのが私としては心のダメージが無くていいのですけど。


「理由を聞いても?」


「…町で住民登録をされていない人は捕まる。特に子供や貧乏な人ほど見かけ次第に詰問されるからすぐに兵隊に捕まる。そして大抵が口減らしのため殺される…から」


うーんなるほど。

昨日皆殺しにした人達の装いから中世ぐらいの世界観かなと思っていたんだけど支配者層による戸籍管理は行われているらしい。

それなら他の田舎の村にこっそりと…いえ、狭いコミュニティでしょうからすぐにばれますし受け入れてくれる村なんて無いでしょう。

中世レベルなら食料不足で一揆が起こるぐらいだったので食べ物の余裕はない…いえそれは私の世界の話ですね。

念のため聞いておきましょう。


「それでは村だったらどうです?受け入れてもらえる可能性は?」


「…聞いた話になってしまいますけど、よそ者はすぐに殺されると思います。働き手にならない子供なんかはなおさらに」


なるほどやっぱりそうなってしまいますか…いやいやちょっと待ってください?

何で私だったら子供を受け入れると思われてるのでしょうか?

こんなにも追い出そうと必死に頑張っているのに納得いきません。


「では私がそうしないとは考えなかったのですか?」


「…そうかもしれない…と思いました…ですけど、会話ができましたのでひょっとしたらと思いまして…ご迷惑なのはわかっているのですが」


あー。

そうですか、話ができる…交渉が可能と見られちゃっていたのですね。

最初から聞く耳持たずだったら結果は違っていたのかもしれませんが…それは手遅れかもしれません。

こちらの世界の事情に疎いとはいえそういう勘違いを与えてしまっていたのは私だったと。


ですけどここまで話をして分かった事もあります。

小さい子供ながら選択をしっかりと自分で決める、世渡りの判断もいいし生きるために我を通すその性根も悪くないと思います。

感触として反抗的でも無いですしこれが平和な世界だったら見どころありなのですけど…さてどうしましょうか?


「これ以上は繰り返しになって時間の無駄になりますので最後にしましょう。結局どうしたいですか?」


「…ここに置いて欲しいです。奴隷でも構いません」


「…それは何故…いえ、どうしてそういう判断になりました?」


「貴方に逆らわなければ…どういう扱いになるかはわかりませんけど…生きれる可能性はあると思い…ます」


子供は考えながら言いにくそうなことをためらいながらも口に出していきます。

そして最後に絞り出した言葉は…。


「まだ死にたく…ないです」


…それは私にとっても同じですし、生きている物にとっては最も大事な事でしょう。

昨日の馬鹿達にとってはそうでは無かったようですけど少なくとも子供の価値観には理解できます。


…仕方ない折れるしかないですね。

私は心の中で盛大にため息をつき諦めを決め込むと渋々と口を開きます。


「わかりました。私の言う事には従ってもらいます。理由無く言う事を聞けない場合は…わかっていますね?」


私の言葉に子供は目を光らせながらぶんぶんと頭を縦に振ります。

やれやれ…泣く子供には勝てないとかそういうことわざがあった気がしますけどそうなってしまいましたね。

これがクソガキならこうはなっていなかったでしょうけど…まあいいです。


ではこうなった時のためのプランを実行するとしましょうか…私も全くの考え無しというわけではないのですから。

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