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【2-閑話】とあるドワーフの帰路

2-10話で遭遇したドワーフ視点でのお話となります。

「ふぅ、やれやれぃ…これで人族の所へ立ち寄る機会も減るじゃろ」


儂の名はメルゾ…ローゼリア王国南東の更に東にあるドワーフの里のドワーフである。

我等の一族は王国南東に領地を拝する領主であるゴンドルア伯に招かれて武器防具の生産やメンテナンスを定期的に請け負ってきたのじゃが、状況が変わった。

そう…昔話になるが先代のゴンドルア伯は武威を轟かせ内政手腕に優れた油断ならぬ男であった。

この辺境に封土されるにあたり、経済基盤の確固たるものにするための領都建設および周辺の開拓村の開発にそこを繋ぐ道路整備を実施した。

それに当たるためには、この地にはあらゆる勢力が跋扈しており当然武力も必要であると判断し辺境伯自身が我らドワーフの里にまで足を運び頭を下げ乞うてきたのじゃ。


「対価は払う。なのでドワーフのその鍛冶の技術…是非力を貸してほしい」


儂等は技術を提供する代わりに、王国貨幣での支払い以外に辺境伯領内の通行許可や居住権等の便宜を図ってもらいそれなりに優遇してもらう事になった。

儂等も食料は人族より買った方が多様な物を買えるし嗜好品にも手を出せるし持ちつ持たれつの関係を築いてきたのじゃが…。


この傑物であった辺境伯の唯一の過ちは子育てに失敗した事じゃろう。

妻に任せきった事が全ての始まり、妻は教師を雇い丸投げにし、教師は経過報告が無いのをいい事に大いに手抜きし教育たるものを行わなかった。

結果、倒れた先代の後を継いだ息子はまあひどいの一言に尽きる。

今は支えていた従者達のおかげで何とか回っているのだが、それでもトップの愚かな一言の重みにより段々とそれも崩壊していっておる。

甘い言葉でよいしょする佞臣を優遇して遊び惚けておればそりゃあいずれはガタが来るもんじゃろう。

そしてそのような適当な政治の余波は当然儂等にもとばっちりとしてきおった。


始まりは耳長達じゃな。

領都南東の手つかずの森に許可なく勝手に住みつきおった。

恐らく権力闘争か何かに敗れたか抜け出して来た連中じゃろう。

だが勝手に住み着くどころか耳長に目を付けた盗賊との争いが始まると領主に接触を図り始めた。


要求は襲ってくる盗賊の撃退のための戦力拠出、…不法占拠についてはもはや当然の権利のようにとらえて口にも出さんかったそうだ。

そして人族にとって悪かったのが…耳長の使者の美貌に目を奪われた領主が鼻の下を伸ばしながらそれを全て鵜呑みにしたそうだ。


森の不法占拠について文官が指摘をするとその文官はつまみ出され職を失った。

更には盗賊征伐のための出兵の決定、耳長を守るための駐留軍の決定等を口にし始める。


当然、人族には何の利益もないため家臣の騎士や文官達は盗賊の位置的にすぐに出兵は厳しい、エルフの指揮下での駐留軍の組織化は王国の法的にも無理だと何とか諫めようと言葉を重ねていく。


領主は不満を隠そうともせず不機嫌になり…ならばできる事を全てやれと丸投げにして命令していく。

そんな阿呆が突発に思いついた内の一つがドワーフの無償での協力じゃったがそんな奴隷のような扱いに首を縦に振るわけがない。

すぐさま断りを入れると領主は激昂し、なんとか騎士団長達が間を持って関係をなだめようとしていたのだが…。


「すまない、ついに領主が印を押してしまった」


力無く儂に頭を下げるのは先代よりささえていた領主の騎士団長とその側近達。

人族にいい条件での契約を破棄する事への愚かな決断への憤りを隠せずにおるが…まあ当然じゃろうな。


「なるほどここまでの付き合いのようじゃな」


「こちらから願い出た事なのにこのような結末。何と詫びればよいか」


詫びるのは言葉を発した領主であろうとも思うが…まあそんな事絶対に口にせんじゃろ。

儂は手を上げると了解の意を告げる。

既に利益はかなりあげておるし通貨も十分に里に蓄えてある…仕事が無くなった所で当面は問題はないじゃろ。

それこそ領都まで来ずとも里から最寄りのロルケの町で事足りるしの。


さて決まったなら後にする事は決まっておる。

ここの撤去は…まあ持ってきた鍛冶道具を引き上げるぐらいじゃろ。

他の者は人族の提供によるものじゃしな。


…炉はどうするか?

こちらで作成したもんじゃし…取り壊しておくとするか。


それが終わるとさっさと荷物をまとめて担ぎ上げると領都を後にする。

じゃが騎士団長達が見送りに門まで来ておった。

まだ何かあるのかと気になったのじゃが


「新編の第六小隊がちょうど関所での実地訓練を行うので見送らせる」


との事じゃった。

少し不安な点もあったが言葉通り途中の関所で別れる事となった。

どうやら儂の安全も気にかけてくれておったのかの?

長い付き合いじゃが…奴のこれからの苦労を思うと同情を禁じえんしの。


さて二つ目の関所を過ぎると荒野に向かって南下を始める。

本来なら森を突っ切れば最短であるのじゃが…本当に耳長共は邪魔じゃのう。

しかもドワーフの事を毛嫌いしておるし警戒は必要じゃ。


そして歩いて数キロは進んだあたりかの?

あり得ない物が目に入り、思わず絶句し次の瞬間叫んでしまう。


「なんじゃい…これは!?」


目をこすってみても見えているという事は見間違いでは無いのじゃろう。

じゃがおかしい…明らかにおかしいぞ!?

一月前にここを通った時には何も無かったはずなのに目の前には青々と茂る森にでかい山までできておる。

ここは草木も生えない荒地であったはずなのにこれは一体どういう事じゃ?

もしや耳長の森に入ってしまったかと思ったがそれにしては規模が小さい。

これが建築物ならまだ理解はできてたであろう。

あの耳長や人族の盗賊が砦のような物を築いたという可能性があるからの。


だが森も山も急にできるもんじゃない。

明らかにおかしい…可能性としては高位の精霊が出現した、自然に影響を及ぼすドラゴンが住み着いた等考えつく事はあるのだがどれも危険な兆候を示すものとして他ならない。


ではどうするべきか?

このまま里へ一目散に駆けて一報を知らせるというのも大いにあり…というかむしろそうすべきと思う。

じゃが早い段階で情報は欲しい。

この原因が何なのか慎重に探ってみるというのも状況判断委は役立つじゃろう。


うーむ。

とにかく危険と思ったら引き返すとしようか。

そう決めると森の中へと足を踏み入れる事にした。






「…いい木じゃな。見た事は無いがこの硬さ…船材にするのにももってこいじゃないかの?吸水性を試してみる必要はあるが」


湿った熱い空気の変わった森に足を踏み入れると見た事も無い植物や動物でいっぱいじゃった。

この辺りでこのような森は初めて見たがどういう事じゃろうか?

ここで取れる鉱物はどのような物があるじゃろうか…興味がそそられるが警戒をおろそかにしてはならない。

一歩一歩草木を踏みしていくとやがて何かの建築物が目に入る。

だがそうだとしてもにわかに信じられぬ。


「まさか草ぶきの家じゃと!?これを成した者の家にしては粗末じゃしこの大きさ…どういう事じゃ?」


理解がまるで及ばぬ。

だがこの大きさという事は交渉ができる可能性はあるのではないか?

それに…遠くから何かに見られたような気がした。、

気のせいではないじゃろう…そうなるともう逃げるかどうかの分水嶺はここなのだが。


…ええい!待たせてもらおうじゃないか!

儂は家の主人を待つためにこの場に留まる事を選択した。


しばらく待つと先ほどの視線に加えてもう一つ気配が近づいて来るのがわかる。

どうやら侵入者に対して様子を伺っておるのかもしれん。

ならばまずは警戒を解かせなければならんな。


「やはり出かけておったのか。勝手ながら家の前で待たせていただいた。…できれば話をしたいのじゃが可能か?」


交渉の意思は示したが果たしてどうじゃろうか?


「ここ私の家では無いのであちらで話をしませんか?」


どうやら成功のようじゃが姿を見るに…人族の女じゃと!?

いや…高名な何かなのかもしれんな。

儂はここからだと気を引き締めると女の後をゆっくりとついていく事にした。

辿り着いたのは先ほどの家よりも少しだけ立派な木製の小屋…ほぼ変わらんのではないかと思うがそれは口に出すまい。

そして大きな泉が目に入り…やはり何か大きな事があったのだと確信を持てた。


「ご足労ありがとうございます。さてわざわざ私の土地に踏み入ったのですから何か御用がおありでしょうか?」


「う…うむ。何と言うべきかな。この辺りはまあ何も無い荒野だったはずなのだが急に森ができていて山がそびえ立っておってな。人間の町から帰る途中であったのじゃがこれはおかし…いや気になって調…立ち寄らせてもらったのじゃ。西の耳長が何かやらかした可能性も捨てきれんで…ところでじゃが…その…うむ…これはお主がやったのか?」


「ええ、私ですが?何か問題でもありますでしょうか?」


言葉を慎重に選びながらも確認をしてみるが私有地を主張している以上はやはりこの異常な地形変化はこの女がやったに違いないだろう。

これだけの事を成すとは…身のこなしは素人以下であると思うがその能力は驚嘆に値するだろう。

…ここで後顧の憂いを断つべきか悩むが…失敗した時のリスクを考えるとその手は到底使えんな。


「それはどうでしょうか?答える必要は無いと思うのですけど?」


「いやいや、それはその通りじゃが!気分を害したのなら謝罪する!」


こちらを試しておるのか?

これは危ういな…より慎重な言葉を選び相手の機嫌を損ねないようにせねば。

それから自己紹介を行い、簡単な目的を告げると女はにこやかになり外を指差し始める。


「なるほど。それでは要件は済みましたでしょ?お帰りいただいても大丈夫ですが?」


確かに口に出した要件は終わっておるな…まずいぞ!?

いかんいかん肝心な事が一切詰められておらん。

何とか話を繋がないといかん。


「いや、確かに要件は終わったと言えば終わったのだが…できればもう少し話を聞かせてもらえる事はできんかの?」


「例えば何でしょうか?こちらには来たばかりなので私にわかる事は少ないですよ?」


「確かに…一月前にもここを通ったが何も無かったからの…どこから流れて来たのかとんで…ゴホン!うむそれはわかる。むしろこの辺りの事ならある程度教えてもよいが?」


危ない、思った事を軽く口に出してしまうのは本当にいかん。

なんとか話を繋げようと思うたがこんな話題で乗ってくれるかの?

チープすぎて興味も引かないかもしれんが…


「じゃあお願いしてもいいかしら?」


…どうやら成功したようじゃ。

何が琴線に触れるのか基準が分からず不明じゃが話がつながったようで何よりじゃ。

知っている事を軽く大雑把に話しているとうなずきながら静かに聞いておる。

そして一通り話し終わると満足したように話し始めた。


「参考になりました。情報には対価を払うべきなのでしょうけど私から渡せるものは…」


なんと情報にお金を払う?

こんな発想をする奴は珍しい…そして油断ならぬ奴らが多い。

やり手の商人や冒険者、頭の切れる騎士や文官なんかは一部しておるがこんなありふれた情報にお金を払う奴は聞いたことはない。


「いや、これは儂が話したいから話しただけで不要じゃ。…待ってくれ、対価が貰えるならお願いしたい事があるのじゃが聞き届けてもらえんだろうか?」


「まあ聞くだけなら…」


さて、どこまで要求を通すべきじゃろうか?

機嫌を損ねないように慎重に話を進めなければならぬ。


「うーむ、出来れば儂等と…伝手を持ってもらえんかの?」


「伝手?…話が見えてこないのですけど?」


そうじゃな交流相手というだけでは双方に益は薄いかの?

ならばと商売になるような話をと進めていく。

できればあの山…どんな鉱物が埋まっているか気になるしついてにそこらもいじらせてもらえると嬉しいと思ったのじゃが…。


「勝手に土地を触られるのは困るのですけど?そうするならこちらも…ええっと…」


「いやいや!無理にとは言わん!そこは追々折り合いを付けれればいいと思うておる!」


危なかった!?

ドワーフの利点を活かした相手にお得な話と思うたが女にとってはどうやら機嫌を損ねる話だったようじゃ。

確かにドワーフの利益が人族の利益と同一という事は無いからの。

ひょっとすると所有物に手を出される事に嫌悪を覚えたのかもしれん…話を慌ててひっこめると敵対の意思は無い事を必死にアピールする。


「確かに、話で解決するならそれに越したことはありません。それならまた次回会う時にお話しを進めれたら進めましょう」


「そうじゃのう。こちらとしてはまずは話ができて一安心じゃ。急な訪問にもかかわらず丁寧に対応いただき感謝する。それでは失礼させていただく」


どうやら初めての交渉は可もなく不可もなくといった所で落ち着いたかの?

じゃが収穫はあった。

何より相手の像があやふやでもわかったのがでかい。

後はこの情報をなるべく早く里の者達と共有せねばならぬな。

そう思うと気持ちが昂り歩が自然と速くなってしまうのであった。

この話を持ちまして第2章を終了します。

ブックマーク評価いいねをしていただいた方、またお読みいただいた方ありがとうございました。

1ヶ月以上毎日連載(1日さぼり)してきましたがそろそろ一度更新停止したいと思います。


この後の続きも書くかどうかについては一度立ち止まり考えてみます。(構想はあります)

それでは本作をここまでお読みいただきありがとうございました。

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