【2-16】処理
私の奇襲は恐ろしいほどまでにうまくはまって成功したと言っても過言では無いでしょう。
ですが最後がよくなかったようです。
言語が通じていないという事は無かったのですけれど…。
「座らせられるのではなく地面に寝ろだと!?どういう事だ!?」
「何故寝かされなければならん!?それに何故頭の上に手を置くのだ!?」
「血…血が止まらないの!地面は…」
どうやら降伏した人間に対する処置に対して認識の乖離があるようですね。
映画やドラマで見た降伏勧告をしてみたのですけど、それが理解できないせいで混乱が起きているようです。
ですけれど私があちらにあわせてやる優しさを見せる必要は無いでしょう。
「別に従わなくても構いませんよ?その場合は死んでもらいますけど。私も暇じゃないので従わない方はすぐに申し出てください」
私が混乱している声に負けないよう大声で宣言するとけが人も含めて慌てて地面に伏せていきます。
…そんなにすぐに従えるんだったら疲れるから大声出させないでよ。
伏せたのは男性が四人に女性が一人ですか。
まあ色々とどたばたしてしまいましたけどようやく私が安全に話を聞ける環境が整ったのですから生きている間にしかできない情報の聞き取りからさせていただきましょう。
「それでは聞きたい事がありますのでお話にお付き合いいただけますか?まず聞きたい事ですが…」
「そんな事よりも!」
…おかしいです。
話の主導権は明らかに私が握っているはずなのに何故か遮られました。
これは口答えした人を見せしめにすべきでしょうか?
ですけど短いお付き合いになるのですから快くお話はしてもらいたいですし…と思っていたのですけど命知らずな現状をわきまえない人達は遠慮することなく地面に伏せながらもわめき続けます。
「肩に氷が刺さって血が止まらないのです!治療してください!」
「儂も切り傷が!馬車にポーションがある!特別に入って構わんからさっさと儂に使うのだ!」
「会長!私にも!」
うーん、確かに怪我人は治療して欲しいですよね。
失血死という事もありますし血を見ると不安になるその気持ちは十分にわかりますけど、自分達の立場はわかっているのでしょうか?
それを加味しなくても、私は治療の知識が無いですしポーションという物には興味はありますがこいつ等に使ってやるつもりはありません。
「わかりました。それではこうしましょう!」
私は彼ら彼女らの後ろに控えていたヒポグリフに合図を送ります。
するとすぐに私の意図を察してすぐに行動に移ってくれます。
『クェーーーー!』
ヒポグリフは雄たけびをあげると前足を振り上げ、一番重傷そうに見える肩から血を流している女を踏みつけました。
重心がのったその一撃は女の体の中心をとらえ、骨を折る音と肉が潰れる音を発生させさらに大きい衝撃音を響かせます。
女は自分に何が起こったのか理解ができず僅かなうめきをあげるとそのまま喋らぬ躯となりました。
「ひ!?殺した!?」
「降伏した人間を殺すだとぉ!?話が違うぞ!?」
よほどショッキングな出来事だったのか浮足立って慌てていますけど…そんなお話も約束もした覚えは一切無いんですけどね?
だけど話が進まないので立場をしっかりわからせましょう。
「彼女は治療の必要はなくなりましたね?他に治療が必要な方がいらっしゃるなら申し出てください。遠慮はいりませんよ?」
私がそう宣言すると短い悲鳴と共に全員が静かになってくれます。
ようやく話が聞けるようになったようですね。
「それではお話をしましょうか?素直に答えていただけるとこちらも時間を無駄にしなくて助かりますのでつまらない事はしないでくださいね?」
私が笑顔で宣言すると全員が素直にコクコクと首を縦に振ります。
まずはスノーシルフの録音で聞けなかった部分を聞いていきます。
周辺の情報は特に私の身の安全に直結するので先に聞いたのですがどうやら先日話をしたドワーフと一致する点がほとんどでした。
…あのドワーフが嘘をついていなかったとみていいかもしれませんね。
出元が違う情報が一致したのですからこれで裏付けがとれた見ていいと思います。
それ以外にも北に広がる人間の国の情報や都市の情報も手に入れる事が出来ました。
それが終わると積荷に関する質問を続けていきます。
積んでいる物そのものについても説明を求めますがその際に出てきたお金の話や気になったこの国の人間社会の仕組みについても聞いていきます。
何でそんな誰でも知っているつまらない事を聞くんだという目で見られましたけど私は知らないのですから気にせず聞いていきます。
そして私の頭で今思いつく範囲で聞ける事は聞き終わると私は満足して終わりにする事にします。
「協力いただきありがとうございます。聞きたい事は聞けましたそれでは…」
「おお!解放いただけるのですな!?」
「まあ儂等を殺していい事なぞ無いから当然だろう。…それよりもまさかこれほど腕の立つ魔物使いの方とは思いませんでした。よろしければ儂等の護衛をしてみませぬか?其処らに転がっている役立たずの二倍…いや三倍は出しますぞ!場合によっては専属雇用も!」
…こいつ等は頭がお花畑なのでしょうか?
ひょっとするとこの世界では誰でも知っていそうな常識を聞いたことで世間知らずの女とでも見られて御しやすいと思われてしまったのかもしれません。
あちらがどう取るかは自由です…けれど私に恨みを持った人間をこのまま解放していいことがあるでしょうか?
そんなのあるわけないですし、いずれ災いの元になるのは目に見えています。
「魅力的なお話ですね。とても楽しいお話でした。もう二度とそんな機会は無いのが悔やまれますけれど、どうか安心して旅立ってくださいね」
男達は私が何を言っているのか理解できない人、理解できて慌てて逃げ出した人の二つのパターンに分かれました。
当然一人として逃がすつもりはありません。
気は重かったですけれど眷属たちにもお話が終わったらこの人達は全員殺すように命令済みですしね。
その後すぐに悲鳴が上がり続けて四人全員が死ぬまでさほど時間はかかりませんでした。
…それにしてもこれはどう取り繕っても大量殺人ですね。
情状酌量があったとしても元の世界なら無期懲役どころか死刑確定です。
仕方ないとはいえ人の命を軽く扱ってしまっている事にどこか嫌悪を感じながらもそれを奥底に押し込めて次にする事に手を付ける事にしました。
多数のブックマーク、評価いただきありがとうございました。
何とか2章最後までは更新続けていこうと思います。




