【2-11】ファーストコンタクトの終わり
私が精いっぱい笑顔を取り繕ってお帰り願うと何故かあちら様は困った顔を浮かべて目を泳がせ始めました。
ええい、こっちは早く終わらせたいというのにまだ何か企んでいるというのでしょうか?
「いや、確かに要件は終わったと言えば終わったのだが…できればもう少し話を聞かせてもらえる事はできんかの?」
なんとまだ私の心への拷問を続けたいと言っています。
…私が強硬手段に打って出る覚悟がない以上は付き合うしかないですね。
ぼろをできる限り出さないように頑張りましょう。
「例えば何でしょうか?こちらには来たばかりなので私にわかる事は少ないですよ?」
うん、嘘は言っていないし整合性はとれているはず。
だけど目の前のドワーフは驚いた顔を浮かべた後納得したように頷く。
「確かに…一月前にもここを通ったが何も無かったからの…どこから流れて来たのか飛んで…ゴホン!うむそれはわかる。むしろこの辺りの事ならある程度教えてもよいが?」
「じゃあお願いしてもいいかしら?」
少し声が上ずっているようですけど…ひょっとしたら相手が本調子でないから慎重な態度を取っている可能性もありますね。
相手が勝手に情報をしゃべってくれるならありがたいのでそのまま拝聴させてもらいましょう。
「うむ、まずはどちらから流れてきたかはわからぬが…儂等の事を知らぬという事は外の国から来た旅人という事になるかの?」
「そうですね」
異世界から来たので外から来たのは間違いでは無いので肯定して続きを促します。
「では南から来たのか?ここはローゼリア王国の南東に位置する荒野というのは分かるか?人族の国じゃがここらには人はおらん。理由は見た限りの荒野で人が住めるような土地じゃないのと西の森林地帯に耳長がおってここに来るだけでも一苦労じゃからの。北から回り込んで来るぐらいしかない」
なるほど、初耳の単語がいっぱい出てきますね。
記憶力には全く自信がありませんけど覚えられる限りは覚えておきましょう。
そして気になる事は聞いておきましょう。
「耳長というのは?」
「ふむ、見た事が無いのか?エルフというのは聞いたことはあるか?人族から見れば美男美女と言われとって長寿で老化が遅い種族じゃな。まあ中身は森を病的なまでに信仰し自分たちの都合しか考えないから話が通じん、とまあやりにくい相手じゃよ。それでも見た目がよいせいか人族の中ではそんな些事だけで好意的に見る連中が多いという。…西の森に近づくと矢が飛んでくるから近づかん方がええぞ」
ハーフエルフというのが眷属召喚のリストに載っていましたけど純粋なエルフも種族として存在しているのですね。
それにしてもこれだけ悪いように言われるなんてよほどひどい種族なのでしょうか?
いえ、ドワーフ側からしか話を聞いていないのでこれで判断するのは早計ですね。
「もっとも見た目がいいのも悪い点もあるらしい…今は人族の盗賊に狙われとるらしい。いつの間にか森の近くにアジトを築かれて…そこで奴隷にするために小競り合いをしかけておると聞く。…さっきのも併せて危険な所には近寄らないに限るぞ」
…そして盗賊もいると。
しかも誘拐目的でいるとなると私も対象にされてしまうかもしれませんし近づかないほうがいいでしょう。
いや、ここから動けない以上西側へ守りを固める必要があるかもしれないですね。
「参考になりました。情報には対価を払うべきなのでしょうけど私から渡せるものは…」
「いや、これは儂が話したいから話しただけで不要じゃ。じゃが…待ってくれ、対価が貰えるならお願いしたい事があるのじゃが聞き届けてもらえんだろうか?」
「まあ聞くだけなら…」
別にお願いをかなえるとは言っていないのでいいでしょう。
…この屁理屈って通用しますよね?
「うーむ、出来れば儂等と…伝手を持ってもらえんかの?」
「伝手?…話が見えてこないのですけど?」
私としてはもうこれ以上関わる事はない…いえ、関りが無ければわずらわしくなくていいなと思ったのですけどそうはいかないのでしょうか?
まあ相手の狙いが分からない以上は話の続きを待つしかありませんね。
しばらくすると険しい顔をして考え込んでいたドワーフが口を開き始めました。
「単なる交流だけでもいいのじゃができれば交易でもしてくれると助かる。…例えばこの湖か?ここで水を補給できる中継地があると非常に助かるし、それ以外にそこの森も資源豊そうじゃしそういった物を売ってくれるのなら儂等も助かる」
なるほどきちんと下心があったという事でしょうか?
まあ交易をする事で国は発展した歴史がありますので自分達を繁栄させるなら当然の事なのかもしれません。
ですけど交易ですか…私が売るだけで使い道が分からないお金…お金がこの世界にあるかはわからないですけれど、とにかく使い道がわからないもので支払われる事にならないかしら?
そうなると私が損するだけになりそうです。
「では私はそういった物を売るとします…でしたら私には何が提供されるのでしょうか?言っておきますがお金は使わないのでいりませんよ?」
「あー確かにのう。こんな所に居を構え…失礼!お金を使わないという事は納得した。儂等が作る武器防具や酒なんかは人族に人気はあるのじゃがそこらではいかんか?」
「酒はいらないですね。武器防具は…いい物だとしたらお高いのでは?」
あ、でもアルコールなら消毒液としては役に立つかもしれませんね。
あまりお酒をたしなまないので思わず即答してしまいましたが、私の言葉を聞いたドワーフさんは髭をもしゃもしゃといじりならが考え、困りながら口を開き始めます。
「確かに安売りできるもんは無い。儂等が精魂込めて作る最高品質の物じゃし、そこはお主の言う通りじゃ。…そうじゃ!あそこにお主が作った山!だいぶ色々と眠っていそうな良い山じゃ!あそこを儂等が開発するのはどうじゃろうか?当然持ち主であるお主に権利があるのじゃから掘る権利や掘った物を売ってくれればこちらも喜んで売りにだせるぞ」
…え?
それってドワーフさんが複数近所に常駐するって事かしら?
…無理無理!
私自身今後も隠しながらやらなければいけない事が多いのだから他所の人を近寄せたくないのです。
どこから口コミで他へ流れてしまうかわかりませんからね。
そして何よりも信用できるかわからない人がたくさん近くにいるというのが耐えられません。
ここは断固お断りです!
「勝手に土地を触られるのは困るのですけど?そうするならこちらも…ええっと…」
「いやいや!無理にとは言わん!そこは追々折り合いを付けれればいいと思うておる!」
何か言い訳をしないといけないと思って口ごもってしまいましたけど何故か向こうの方が妥協してくれたようですね。
この男に何か裏の考えがあるのかもしれないですけど今の私には大助かりです。
「わかりました。追々ですね…ところでそんな事一人で決めてしまってもいいのですか?」
「勿論里に話を持ち帰って相談はするが…まだ決定など一切無いのじゃからここで可能性の話をする事は悪い事じゃなかろう?」
いえいえ私の心的負担が深刻です…とは言えませんね。
悪い印象を外部に与えるのもリスクがありますしここはあくまで中立的に対応してしまいましょう。
「確かに…話で解決するならそれに越したことはありません。でしたらまた次回会う時にお話しを進めれたら進めましょう」
「そうじゃのう。こちらとしてはまずは話ができて一安心じゃ。急な訪問にもかかわらず丁寧に対応いただき感謝する。それでは失礼させていただく」
そう言うとドワーフは腰を上げて一礼すると東へと歩き始めた。
私はその背中を恐る恐る見続けて警戒していたけど結局彼は振り返ることなく向こうへと消えていったのでした。




