【2-9】いつの間にか侵入者
コツン、コツン…
遠くから何か木を叩くような音がする気がする。
気だるいしまだ寝ていたいんだけど…とそう思いながらも確認しないと気になっちゃうし、そう決めると私は仕方なくよろよろと起き上がります。
寝起きが弱いせいでまだはっきりと働いていない頭で考え始め…ようやく異世界にいるという事を認識し始めます。
そこであらためて気づきます。
誰が小屋の扉を叩いているのかしら?
叩いている可能性が高いのはウルフかしらそれとも?
ウルフなら吠えて知らせればいいのだしひょっとすると外敵の可能性も…。
いきなりの緊張感に目が一気に冴えてしまいますけど、だからといって外敵なら私はもう詰んでいます。
その場合はウルフは既に排除済みで私は能天気にも手元に迎撃の用意が無い無防備な状態なのですから。
…ですので私自身に戦闘の自信は全くありませんので敵がここまで来た時点でもう負けです。
でしたらもう潔く小屋の扉を開けてしまいましょう。
あれこれ予想しても仕方ありませんからね。
そして扉を開けると…ウルフが前足で扉を叩いていました。
…驚かさないでくださいよ!?
いつもみたいに吠えて知らせてくれたらいいのにまったくと緊張を解いて内心怒っているとウルフは私の右手に向かって鼻を向けてきます。
何でしょうか?
缶詰の餌が欲しくなった?
それでしたら吠えるのもはばかれる点は納得ですけど、わざわざ私を起こすまでしてねだろうとするかしら?
それとも寝坊しすぎた?
空を見上げて太陽の高さを見てみますとそこまで遅いという事はないはずです…でしたら何でしょうか?
水も与えてるし…あ、顔を動かして四角を表現していますね…ひょっとして「管理者の本」を出せという事かしら?
けれど何のために?
よくわかりませんけど損をするわけではないのでとりあえず出してみましょう。
そうすると本がブルブルとスマートフォンみたいに震えだします。
…何かあったのでしょうか?
こんな機能がある事をあの女は言っていなかった気がしますけど…とりあえず何故か赤く点滅している【土地の管理】の項目から【月江奈留の支配地域】を開いてみます。
すると私の支配している土地が表示されて、熱帯林の土地で赤い点が一つ点滅しています。
…何でしょうこれは?
こういう事こそ説明すべきじゃないですかね、あの女―――!?
いえいえ怒っている場合じゃないですよこれは!
何故ウルフが吠えなかったかはわかりました。
恐らく相手に気取られないで私にこれを伝えたかったのでしょう。
しかし腑に落ちない点もありますね。
何故こんな中途半端な所で止まっているのでしょうか?
住み着いた?熱帯林で何か収穫している?それとも私の方を偵察している?
…憶測だけで進めても何も進みませんね。
ここはウルフに聞いてみましょう。
「侵入者ですか?」
小声で聞くと首を縦に振る。
なるほど…随分と危機的な状況ですよね!?
いえ、まだ慌てる時間ではありません。
「貴方で勝てますか?」
これにはウルフは首をかしげます。
わからないという事でしょうか?
勝負は時の運という事もあるでしょうし、戦力差が開いている事はないと思いたいです。
それならここで追加の眷属を召喚してしまうというのも…いえ、最初に重々色々と命令しないといけませんし、私が把握していない戦力を有効に運用できるかは怪しいです。
それに光ってしまうので目立ちますし…これは緊急手段としておきましょう。
「私に気付いていますか?」
これにウルフは首をかしげて…横に振ります。
なるほど、私の事は気づいていないとなるとそれは好都合です。
早まらなくてよかったかもしれません。
「最後に…敵対的ですか?」
これにもウルフは首をかしげています。
…そういえば気付いていないのでしたっけ?
でしたらそういった判定は無理ですね。
…どうしましょうか?
とりあえず止まっているみたいなので遠目で見て判断…でいいのかしら?
結局悩んでいても仕方ないので熱帯林に踏み入れました。
ウルフを近くに侍らせゆっくりと音を立てないように歩こう…と頑張っているのですが、どうやってもガサガサと草を踏む音は出てしまいますね。
ですが相手の位置はわかっているというアドバンテージは私の方にはあります。
そして何故かまだ相手は動いていません。
ゆっくりとゆっくりと相手との距離を詰めていきます。
そして視界にようやく捉えられる距離まで近づくと相手よりも目立つものが目に入ってきます。
あ…そういえばあの女に説明を受けた時に建てたわらぶきの家でしたか?
今の所使わないんだから撤去をしておけばよかったでしょうかね?
という事は家に住み着いたという事でしょうか?
ならば外から火をつけてしまえば…と思って立ち上がった所で家の前にいる何かに気付きました。
子供ぐらいのサイズの何かがいますね?
私も身長は高い方ではありませんけど…人でしょうか?
しかし立ち上がったのがよくなかったのかもしれません。
その子供サイズの人らしきものは振り返ると私の方を見てきました。




