【1-14】微妙な気分での夕餉
幾分かの確かな収穫と共に歩いているとようやくスタート地点である小屋が大きくなってきました。
もう陽は傾きつつあるし…ちょうどよい頃合いだったかもしれません。
さてこれからやる事は…持ち帰った土地を設置してどう進化するのか確認するのもいいですし、管理者ネットでどのようなカードが取引されているのか確認するのも悪くないですね。
おっと、1日1回のマナの獲得と土地からのアイテム収穫も忘れてはいけませんね。
なんて考えていたら…。
『オソイゾノロマ。ハヤクメシクワセロ』
小屋の中からゴブリンが顔を出して私に文句をぶつけてきます。
どうやら先に帰ってきていたようで…いやそれよりも勝手に小屋の中へ入ってたの!?
確かに入るなと命令はしていなかったけれど、そうなると中はどうなっているのでしょうか?
疲れている体に鞭打って慌てて小屋の中を確認すると設置していた箱はひっくり返されているし、魔法の水瓶の中身も空になっているし、ベッドも私達が戻って来るまで寝ていたせいか土埃で汚れています。
どう見てもやりたい放題のひどい惨状ですね。
私が能天気で平和ボケしていたのも原因ですけれど…こいつは本当にどうしようかしら?
『オイハヤク…』
「小屋へは立ち入り禁止です!」
とにかく命令をして追い出す事にします。
ゴブリンは何か言おうとしてたけど命令の強制力には逆らえず嫌々出て行ってしまいます。
はぁ…ただでさえぼろくて嫌だったのにそれ以上に散らかし、汚された小屋を見て溜息をついてしまいます。
グゥーーーーーー
そして疲れていたせいか怒っていたせいかはわかりませんが、私のお腹も盛大に鳴り響きます。
聞いている人がいれば恥ずかしかったかもしれませんがそれ以上に…何か食べたいという欲に駆られます。
水も飲みたいんだけど…水瓶を覗き込むと底からほんの数滴ずつ湧き出ているようで飲める量が溜まるまで時間がかかりそうです。
…贅沢を言えば一度水瓶を洗いたいですけれどそんな余裕は今は無さそうですしね。
うぅ…では気を取り直して食事にしましょうか。
今日は食料を収穫していないのにどこにあるかですって?
私が資材管理箱に手をかざすと箱の中身が表示されます。
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【月江奈留の資材管理箱】
・肉の缶詰:15
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そう、あの女が言っていた無料で貰える5日分の眷属の食料ですね。
1日3食の計算でしょうか?
まあ別にペットフードを人間が食べてはいけない事は無いのですから問題は無さそうですね。
ですけれど肉だけですか…贅沢を言えば野菜・果物は欲しい所ですけれど贅沢は言えません。
資材管理箱から2個取り出すと私の前で具現化されます。
そして手に取ってみるとこの形どこかで見たような気がします。
「これってコンビーフですよね?表記も英語みたいですし…どうしてでしょうかね?」
どういう経由であの女が入手したのか謎ですけれど知らない物よりは安心できます。
私は缶詰を手に取ると小屋の外に出ます。
「ご飯食べるから集まってー」
私が声をかけるとウルフが尻尾を振って、ゴブリンはよだれを垂らしながら近寄ってきて…そのまま私の方に手を伸ばしてきます。
「ゴブリンはその場で座って動かないように」
当然のように私から分捕ろうとしていたのでしょう。
すぐに制止して動かないように命令します。
私は動きたくても動けないゴブリンの様子を確認するとコンビーフの缶詰を開けてウルフに上げます。
こっちは従順にがんばってくれたので素直にあげちゃいますよ。
…量は少ないのは我慢してね?
『オイコッチニモヨコセ!』
その様子を見ていたゴブリンから苦情が飛んできました。
あまり相手もしたくありませんけどゴブリンの方に振り向くと笑顔で事実を告げます。
「あんなに好き放題しておいてまさか貴重なご飯が貰えるとは思ってませんよね?」
『ウルサイ!ハタライタンダカラメシヨコセ!』
あ、そうでしたその働いた事も確認しないといけませんね。
私は「管理者の本」を取り出すと【月江奈留の支配地域】のページを表示させます。
〇□□□
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本拠点から見て一番左上…この土地だけは私の支配する土地として扱われず、ただ「何も無い荒地」がある事が表示されていますね。
どうやら眷属が移動した土地も支配する事はできなくても表示できるようになるみたいですね。
これは眷属を使った土地の事前偵察にも使えますね・
こうなると遠くまで移動できる眷属の価値も高く…ってちょっと待ってください。
なぜ1マス分の土地だけなのかしら?
私は疑いのまなざしをゴブリンに向けると問い詰める事にします。
「なぜ500メートル分しか確認していないのですか?」
『ハ?イイガカリツケンナヨ?ナニヲショウコニ?』
「この本では西に進んだ以上は記録されていないのですけれど?」
私が本の内容を突きつけるとゴブリンは目を反らし、目を泳がせながら言い訳を始めます。
『ホンガオカシインジャナイカ?』
「今の所あなた以上に正常に動いているのですけれど?私の質問に答えなさい」
これ以上時間を無駄にしてもいい事は無いので任意の確認から命令に切り替えて問い詰める事にします。
『アア、ソウソウナンカデッカイノガソラヲトンデイテナ。キケントハンダンシテニゲタンダ』
「そんなに大きかったのですか?私達の方からは見えませんでしたけど?」
『アーチガウトオクヲハシッテイタンダ、ソレニキヅカレナイタメニ…』
「嘘偽りなく正直に答えなさい。私の命令を無視できた理由にもついてです!」
『キケンダトハンダンシタカラメイレイドオリニゲタ…グ…カッテニキケントハンダンシタダケ』
ゴブリンを問い詰めれる所まで問い詰めた結果…何か要領を得ませんがこれ以上は聞き出せないでしょうか?
いえ正直な事を言っていると仮定しましょう。
勝手に危険と判断した、それを正としますと…まさか危険でもないのに自分で危険と勝手に判断…いや危険だったという事にして仕事をさぼったのかしら?
そうだとすると私が抜け道を作ったせいでさぼられたという事でしょうか。
私は心の中で盛大にため息をつくとゴブリンに向かって笑顔で告げます。
「ご飯抜き。そこから動く事を禁じますので朝まで反省しなさい」
『ナンダト!フザケルナ!』
ふざけるなはこっちが言いたい事ですよ。
それにしても…直接私に危害が加えられないだけでとことんいう事を聞かない…むしろ邪魔をされているような気がします。
眷属って扱いがすごく難しいのでしょうか?
私は文句を叫び続けるゴブリンを後にして小屋の中に戻る事にしました。




