『三人の距離』〜トライアングルレッスンJより〜
「ねぇっ!待ってってば二人とも!」
私は雨の降る中、たくみとひろしを走って追いかけている。
しかし、私の声が届かないのか二人はどんどん歩いて行ってしまう…。
「ねぇ!お願いっ!私はここにいるから気づいて!」
…そう叫ぶ声とともに目が覚めた。
「…夢?はぁ〜夢かぁ。良かった。」
なんでこんな夢を見たんだろう?ただの夢なのに凄く寂しくて寝ながら泣いていたようだ。涙の跡が頬に残っていた。
何だかモヤモヤしたまま朝の支度を始めたが、やはりこんな気分ではいつもと同じとはいかず遅刻ギリギリになってしまった。
「はぁっ…はぁっ…ヤバいーっ!遅刻しちゃう!」
焦って走っていると聞き慣れた声が耳に届く。
「ゆいこ!早く走れっ!もうすぐだぞ〜!」
たくみがすぐ後ろを走っていた。
「えっ!たくみも遅刻ギリギリなの!?」
「ちょっと寝坊しちった。ほれ!急げ急げ!」
「あぁーっ!ちょっと待ってよ!置いていかないでー!」
そこで今朝の夢がフラッシュバックした。
たくみとひろしが歩いて先に行ってしまう。
あれ?そういえばあの夢の中で二人って手を繋いでなかった…?
ま、まさかね!二人がそんな仲な訳ないじゃん!
頭を振って今浮かんだ映像を消そうとする。
けれどそんな訳ないと思いながらも、もしかして…という思いは消えなかった。
その日の放課後。
「はぁ〜。何だか朝から変なテンションで一日がスッキリしないまま終わっちゃったなぁ。」
小さくため息をつきながら階段を下りていると、階段下のスペースから誰かの声がした。
「ちょっ!ここではダメだろ!」
「え〜?いいじゃん。…ひろしだって俺の事好きだろ?」
「やめろってたくみ!学校では…」
「…えっ?この声ってたくみとひろし!?ってか、どんな会話よー!嘘でしょーー!?」
思いもよらぬ場面に出くわした私の胸はドキンッドキンッと高鳴って、今にも心臓が飛び出しそうだった。
…その時。
「あれ?ゆいこちゃん、今帰り?」
クラスメイトがたまたま階段を下りてきて私に声をかけた。
「キャッ!」
突然声をかけられて驚いた私は階段から滑り落ちそうになった。
「あ、危ないっ!大丈夫!?」
ギリギリで手すりに掴まって何とか堪えた。
「う、うん。大丈夫。」
「本当に大丈夫?急に声かけてごめんね。」
「ううん!大丈夫だよ!また明日ね!」
クラスメイトと別れたタイミングでバタバタと走ってくる音がした。
たくみとひろしが私に駆け寄る。
「ゆいこ!」
「ゆいこ大丈夫か!?」
二人の顔は本当に私を心配している様だった。
でも、さっきの会話を聞いてしまった後じゃどんな顔をしていいのかわからなかった。
「だ、大丈夫。心配してくれてありがとう。でもさ………姿が見えなかったけど、二人とも近くにいたの?」
こんな事聞かなくてもいいのに聞かずにはいられなかった。どうしてかな?何だか意地悪したい気持ちで頭がいっぱいになる。
「いや、たまたま大きな声が聞こえたから。」
ひろしが慌てて答える。
「な、なぁ?ゆいこの声がデカかったからな。」
たくみもひろしと合わせるように私の目を見ずに答えた。
嘘ついた…。すぐそこに居た事を私は知ってる。
私だけが仲間はずれにされたような気がしてモヤモヤした。
「…もう大丈夫。私、今日は一人で帰るから。じゃあねっ!」
そう言って二人を置いたままその場から逃げ出す。
「何なの!?この気持ち!もうヤダっ!」
あの夢が現実になってしまったようで涙が溢れた。
…もう3人一緒にはいられないのかな?