鏡の向こうのきみ
麗しく艶めいていたはずの貴女は、時に酷く傷ついて帰ってくる。
それは時に社会の波に呑まれ、時に自然の厳しさに打ち負けて出来た傷である。
そんな貴女のために非力な僕が出来ることは少ししかない。
甘いクリームと潤いを与えてあげること。
そして暖かい衣に包んであげること。
回復を冀うが故に焦りすぎてはいけない。
余計な力を入れることなく、その繊細な肌を撫でる。
貴女の表情から曇りが消え、一筋の光が差し込んだ時。
鏡の向こうに、もう一人のきみが見える。
「ありがとうございました。」
「いえいえ、お仕事頑張って下さいね。」
僕は靴磨き職人。
汚れ傷ついた靴を鏡の如く磨くのが仕事。
一足一足、地道で丁寧な作業により傷を埋め、艶を出す。
出来上がった鏡面にお客さんの歓喜と驚愕の表情が映った時、僕は何とも言えない満足感を得る。
鏡の向こうの笑顔を見るために、僕は今日も貴女の憂いを晴らす。
自分の靴を磨きながら、ふと「鏡面磨き」という単語を思いつき、靴磨き職人の日常を描いてみました。
「靴を磨くときは女の子の肌を撫でるように」
いつか誰かに教わったことから、靴を女性に見立てました。
超短編ですが、楽しんで頂けていれば幸いです。
読んでくださりありがとうございました!