Quod Erat Demonstrandum
約400字の超短編小説です。
お昼です。
よろしくお願いいたします。
履歴書に張り付けた肖像。
SNSプロフィールの中に振りまいた笑顔。
免許証に寄りかかる空の上の体。
「懐かしいな」
机上の分身を撫でる指は小刻みに震えていた。まるで、触れる事を拒否しているかのように。
鏡を見ても、そこに映るのはもはや自分の模造ですらない。仮面を剥がしたところで今の自分はいない。
提出するのは明日だ。
それでもその手は自分を証明する写真たちから離れていく。
真一文字に結んだ口には、見えない刃が獲物を待っているから。
「そんなに欲しいなら、喰らえよ」
ハンドルを回すと、透明な胃の中に私が飲み込まれていく。
それはどこか清々しい咀嚼音だった。
「これで、俺は」
引き攣った笑みは、けれど鏡の前で砕け散った。
床に散らばった白紙の紙達が、私の存在を証明せよと詰問の声をすりおろしているのだ。
「なんで……俺は、ここにいるのに」
頬に伝った朱が跳ねて白紙を染める。
朱が滲んだ紙に浮かんだ沁みは、今だけの解を象っていた。