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「知らなかったな~そんな事があったなんて…。女子の方がよっぽど怖いな…。」
沢見君はクスっと笑った。
「…私、あの時は本当に殺されるって思った! それなのに…何で小芝さんは私に感謝してくれてるんだろう…。」
私がそう言うと、沢見君は言った。
「あの時の美優、取り乱し方が尋常じゃなかったろ? さすがに母親が心配して心療内科に連れて行ったんだ。それで極度の依存症が改善できたんだって。」
そうだったのか…。
「俺の事しか考えてなかったのが無くなって時間を持て余すようになったんだって。それまでを振り返って、改めて自分は時間を無駄にしてたって思ったらしいよ。自分と同じように、若い子たちが彼氏にハマり過ぎて青春時代を無駄にして欲しく無いって、そんな子たちに自分が何か出来ないだろうかって考えたらしいよ。それ以来、猛勉強して大学で心理学を学んで、今では人気の心理カウンセラーだよ。ユーチューブもやってるから、今度見てみなよ! なかなか興味深いよ!」
「凄いな…小芝さん。あの時は私も落ち込んだけど、でも今は輝いてるって分かったから、私も救われた気がする。」
「落ち込む必要ないよ! 美優が言ってたよ、あの時、夜宮さんに殺意を抱いてなかったら、今の私は無かったって。いつか昔話で盛り上がりたいって。」
「うん。私も小芝さんにまた会いたいな。」
ウルっときた。
「…しかし…俺と付き合ってた期間を人生の無駄ってあっさり言われると…それはそれで微妙なんだが…。」
「プッ」
思わず吹き出してしまった。
「笑い事じゃあねぇぜ!」
沢見君は私たちの大好きな漫画のキャラクターの口調を真似して言った。
「悲しむことじゃあねぇぜ!」
私も真似して言うと、沢見君も噴出した。
そして二人で笑った。気まずくなる前の関係に戻れた気がした。
時計を見ると、あっという間に時間が過ぎていた。会社に戻らなくちゃいけない。
「私、そろそろ行かなきゃ…。」
「そうか…。あのさ」
沢見君は言いかけて、そして言うか言うまいか何か悩んでいた。私も同じだ。言うか言うまいか悩んでいた。
昔どこかで読んだことがある。
上手くいく人とは、必ず上手くいくようになっている。連絡を取り合わなくても、予定を立てなくても。会うべき時に会うべき場所で、必ず出会うようになっている。
そうでない相手は、いくら会いたくても、連絡を取り合っても、会えなくなっていくのだ…。
それはお互いそうあることが幸せに繋がる。風に吹かれるまま、自然に身を任せて、その時を待つのだ。
うん。そうだよね。
私は私たちの運命が本物なのか賭けてみたくなった。
「もしまた会えたら…。」
私はそれだけ言った。
「もしまた会えたら…。」
沢見君も何かに納得したかのように、それだけ言った。
そして私たちはそこで別れた。