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三度目に会えたら  作者: まんまるムーン
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8


「食べないの? 麺、伸びちゃうよ!」


 沢見君に言われてハッと我に返った。うっかり過去の回想の中にはまり込んでしまっていた…。


 沢見君はもう半分くらい食べてしまっている。私は急いでラーメンを食べ始めた。少し伸びていたけど、とても美味しかった。ふと見ると、沢見君も私と同じラーメンだった。


「塩バターラーメン…。」


「うん。夜宮さんも好きだったよね?」


 覚えていてくれたんだ…。


「いつぶりだろ? 高校卒業以来かな? 夜宮さん、地元、帰ってる?」


「…あんまり帰ってないかな…。沢見君は?」


「俺はちゃんと帰ってたよ。中原や浅生にも帰るたびに会ってたし。」


「そうなんだ。私はごくたまにラインするくらいかな…」


「つれないな~。」

沢見君はからかうように言った。


 少し安心した。沢見君は全然変わってなかった。あんな事があったから、私の事なんて思い出したくも無いと思ってたのに…。小芝さんとはどうなんだろう? あれからよりを戻したりしたのかな…。


「美優ともたまに会うよ。」


 沢見君の方から突然言われた。心の内を読まれた?


「そうなんだ…。元気? 小芝さん。」

私は必死に動揺を隠しながら聞いた。


「うん。アイツ、夜宮さんに感謝してるって言ってたよ。」


「え?」


 私はビックリして思わず立ち上がってしまった。だって!


「バトルったんだってな、美優と夜宮さん…。後から聞いてビックリした。」






 体育の授業は女子と男子で別れるので、小芝さんのいる隣のクラスと合同だった。


 その日の小芝さんは殺気に漲っていた。動物のように体が毛で覆われていたら、きっと全身逆毛を立てまくっているに違いない。あからさまに私を睨んでいるのが分かる。原因は…あの事しか無い…。



 その日の授業はドッジボールだった。私のグループは中に入って逃げる方だった。小芝さんの班は違うコートでプレイしているのに、彼女は私のコートに乱入してきて、ボールを奪うやいなや、私めがけて剛速球を投げてきた。


 やられる…。私…殺される…。


 小芝さんは見かけによらず肩が強くて、男子並みのスピードで投げた。


 一度目はなんとかかわした。私の後ろにいた女子が小芝さんのボールを顔面にまともにくらってしまい、鼻血を出して倒れた。


 周りの女子たちが悲鳴を上げて駆け寄ってきてプレイどころではない状態だったが、小芝さんは目をギラギラさせながら他の子が持っていたボールをもぎ取って、私めがけて思いっきり投げてきた。


 私はその剛速球を肩にまともにくらってしまった。その威力たるや、バットで打ちのめされたような衝撃だった。


 これ…本当に女の子が投げたボールなの…? 


 当てられた私は外に出た。痛い思いはしたが、もう大丈夫だ、外に出れば当てられる事は無い…。安堵した矢先、小芝さんは私めがけて猛スピードで走り寄り、ハンドボールのシュートみたいにジャンプして私にボールを投げつけてきた。


 私が悲鳴を上げて逃げ回っても小芝さんの攻撃は止まらず、さらにボールを拾って私に投げつけてきた。


 周りは最初ふざけあっているのかと思っていたみたいだが、さすがにこれはヤバいと気づき、皆が止めに入ってくれた。暴れ狂う小芝さんは先生に押さえつけられた。


「うるせぇ~! 離しやがれクソ野郎!」


 小芝さんは完全に理性を失って、先生に対しても暴言を吐きながら暴れまくった。


「ちょっと~! みんな手伝って! 小芝さんを押えるのよ!」


 先生は女子たちの助けを得て、やっと猛獣と化した小芝さんを取り押さえた。そして小芝さんは暴れて抵抗しながらも、その場から連れ去られていった。


「あんたのせいで智也と別れる事になったんだから~!」


 誰もが憧れる完璧な美人の彼女が、涙と鼻水でグシャグシャになりながら泣き叫んでいた。


 人からあんなに感情をぶつけられたのは初めてだった。小芝さんの沢見君への想いが痛いほど伝わってきた…。


 小芝さんの痛みを伴うほどの激しい感情に、私の心の中に芽生えた小さな想いは、蝋燭を吹き消すようにフッと消えていった。


 だけど…小さな想いの炎は消えても…その燃えカスはずっと心の奥底にくすぶり続けていた。




 そんな事があったっていうのに…何で…。




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