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ペンキを両手に戻ってくると、中原君と浅尾さんの姿が無かった。看板の前の椅子に沢見君が一人座っているだけだった。
「あ、おかえり!」
沢見君は私に気付くと笑顔でそう言った。
「中原君と浅尾さんは?」
「あの二人なら帰ったよ。浅尾が用事あるらしくて、中原が送って行くって。」
「そっか。」
という事は沢見君と二人きりか…。あんな事言われた後だし気まずい…。
沢見君は私からペンキを受け取ると、続きの塗装に取り掛かった。私も自分のやっていた続きを塗り始めた。
しばしの沈黙…。気まずい…。きっと沢見君も同じ思いをしているに違いない。
横目で沢見君をチラ見した。そんな私の心配をよそに、沢見君は至って普通の表情をしていた。
なんだ…。気にしていたのは私だけか…。そうだよね、相手は天下の沢見様だよ! 下々の民である私なぞ、気まずく感じるのすらおこがましいって事だ!
そう思ったら少し気が楽になってきた。気にする必要なんて元から無かったのだ。
「あの二人、日曜日はデートかな?」
沈黙を破ろうと沢見君に話しかけてみた。
「かもね。」
沢見君は笑顔で答えてくれた。
「どこ行くんだろうね~。中原君、ああ見えてスイーツ好きだから、二人で食べ歩きでもすんのかなぁ~。」
何となく思いつきで言った。
「え、中原って甘い物好きなの? 俺知らなかった…。そんなこと聞いたことなかったよ。」
「そうなの? 中原君って、めっちゃ甘党だよ!」
「人は見かけによらないなぁ~。意外だ~。意外と言えば…」
沢見君は言いかけて止まった。
「何? 意外と言えば?」
私が聞くと、沢見君は、いや、何でもないとお茶を濁した。
「何? 言いかけて止めるって気になるでしょ! お願い、教えて!」
私は問い詰めた。
「…夜宮さんとは…意外に気が合うなって…」
沢見君は笑顔で呟いた。
急に私の心臓は爆音をあげだした。沢見君のキラキラした目を向けられて、足がフラフラしてきた。
あれ? 立っていられない…。
そう思ったのが先だったか後だったかもはや分からない。私は後ろに倒れそうになった。沢見君は驚いて、持っていた筆を放り投げて私を抱きかかえてくれた。
「どうしたの? 大丈夫? 熱、あるとか?」
沢見君は私を抱きかかえたままそう聞いた。
熱? あると思われるのも無理はない。顔が真っ赤になっているのが自分でも分かった。体感50度は出ている! 50度…もはや死んでいる! しかし当たり前である! 目の前に神であるキラキラしたこの男の顔があるんだから!
「…好き…」
反射的にそう思った。と、思ったら実際に言ってしまっていた!
心の言葉を私は言ってしまっていたのだぁーーーーーーー!
この大馬鹿野郎めぇーーーーー!
「…俺も…」
え? 今なんておっしゃいました? 耳の穴をかっぽじっていたら、なんと沢見君は信じられない行動に出た。
なにぃぃぃぃぃぃぃ~!!!!!!!!!
そのまま私たちはキスしていた…