2
「こっからここまでチャックを描くんだっけ? …ちょっと、夜宮さん、聞いてる?」
沢見君が私に声をかけた。
「え? あぁ、ごめん。うん、そうだね。お願い!」
妄想していて話しかけられているのに気付かなかった…。
「チャックの中から出てくるのが新平なんでしょ? いいね!」
中原君が言った。
「これ、夜宮さんの好きな漫画のキャラクターなんだっけ? 私、読んだこと無いんだ~。面白い? 今度貸してもらえる?」
浅生さんが言った。
「いいよ。今度持ってくるね!」
クラス別の看板を作ることになったけど、みんなコレといってアイデアが無かったので、美術部の私がほぼ全て考える事になった。散々迷った挙句、私の大好きな漫画のキャラクターを使うことにした。
そのキャラクターが空間に作り出したチャックから担任の新平先生が出てきて応援している、という図案にしてみた。みんなウケてくれて、即決してくれた。
「実は俺も好きなんだよね…この漫画…。」
沢見君はニヤっと笑って私に言った。
そっかぁ…沢見君も読んでるのかぁ…。
自分が一番好きな漫画を沢井君も好きだと知って、親近感が湧いた。好みが分かれる漫画だったので、私の周りにはこの漫画のファンがいなかったからだ。
それ以来、放課後の看板製作の時間は沢見君と漫画談義をすることが多くなった。
雲の上の存在と思っていた沢見君と意外にも漫画の趣味が一致していた。
そうか…沢見君も人間だったんだ…。思い付きで沢見君が天孫降臨してくるイラストを描いた。絵は古事記に出てくるようなイメージで劇画風にしてみた。
「俺は神か!?」
彼は大笑いした。
「下々の生徒からしたら神だよ!」
私は言った。
「下々って…。ほんと意味わかんねーけど…。」
沢見君は両肩を上げて首をすぼめた。
「じゃあ、神様! 下々の民にアイス奢ってくれ!」
中原君が言った。
「神様! お願いします!」
私と浅尾さんも続いた。
「何だそれ…ったくしょーがね~な~。わかったよ! 神である俺が看板委員の民にアイスを賜ろう!」
沢見君は神様っぽく言った。
「ははぁ~。」
4人でアイスを食べながら帰った夕焼けが、今でも頭に焼き付いている。
夕日に照らされた沢見君の少し色素の薄い髪がキラキラ光って、その光景は本当に美しいと思った。