―09― ニーニャちゃん、がんばる!
蠢く黒い巨樹の攻撃を受け続けながら、ボンヤリとニーニャは考えていた。
苦しいとき、いつもどうしていたんだっけ……?
ニーニャは【灰色の旅団】に所属していたときの記憶があまりない。
覚えていることといえば、よく殴られたこと。
「無能」って言われたこと。
あとは……頭痛がとにかく酷かったこと。
頭痛のせいで思考力が落ち、生きていながらもニーニャは屍のようだった。
そもそもの話、頭痛の原因はなんだったのか?
それは【バフ】を限界以上に使うことを強いられてきたからだ。
そして今、【灰色の旅団】から捨てられて以降、ニーニャは頭痛の心配をする必要がなくなった。
それはつまり、ニーニャは無意識下に【バフ・改】の威力をセーブしていたということだ。
ニーニャはまだ全力を出していない。
◆
蠢く黒い巨樹は動きを止めた。
もう目の前の少女は死んだと判断したからだ。
周囲には血だまりができており、ピクリとも動く気配がない。
――フラリ。
なんの脈絡もなく、少女が立ち上がった。
なぜ、まだ立てる? 疑問に思う。
ただ、生きているならやることは変わらない。
触手を動かし、ニーニャに叩きつける。
ガシッ。
あってはならないことが目の前で起きた。
少女が片手で触手を握っていた。
瞬間、少女と目が合う。
そのとき蠢く黒い巨樹は初めて恐怖というのを感じた。
虚無。
それが彼女の表情だった。
口は半開き、目の焦点はあっていない。
触手を握っている手以外はだらっと力が抜けており、本当に戦っている最中の人間なのかと思うほど。
そして彼女は告げた。
「――コ、ロ、ス」
次の瞬間。
蠢く黒い巨樹は地面に真横に倒れる。
なぜ、そんなことが起きたのか理解できなかった。
気がつく。
少女が触手を手で引っ張っていた。
それだけで20メートルを超える巨体を横倒しにしたのだ。
ビチビチビチビチビチッッッ!! と、引き裂かれる音がした。
見ると、少女が触手を手で引き抜いていた。
蠢く黒い巨樹は慌てて少女を引き離そうと、触手を動かす。
ガシっ。
再び、触手を掴まれる。
ビチビチビチビチビチッッッ!!
そして、触手を引き抜かれる。
それからは一方的な虐殺だった。
ニーニャは次々と触手を引き抜いていく。
引き抜かれるたび、ドバッと黒い体液が噴き出す。
けれど、それを物ともせずニーニャは次の触手の引き抜く。
蠢く黒い巨樹は懸命に触手を動かし必死の抵抗をするが、まるで赤子の手を捻るようにニーニャの片手で阻止される。
まるで生きながら解体されているかのようだった。
◆
(頭が痛い……)
ニーニャが蠢く黒い巨樹を一方的に虐殺する最中、ニーニャを支配する感情はこれのみだった。
とにかく頭が痛かった。
体は勝手に動く。
いつの間にか、蠢く黒い巨樹は息絶えていた。
それでもニーニャは触手を引き抜き続ける。
そして、全て引き抜き終えると同時。
ニーニャは地面へと倒れた。
(頭が痛い……)
しばしの休息が必要だった。
◆
(あれ? いつの間にか寝てた……)
ニーニャはゆっくりと立ち上がる。
(なんで寝てたんだっけ?)
よく思い出せないやぁ、と思ってニーニャは周囲を見回す。
「うぎゃっ、気持ち悪っ!」
なんか周りに触手がたくさん落ちているし。
触手が誰かに引き抜かれたのか、その断面が妙にグロい!
「どこだろ? ここ」
ニーニャはそう言って、部屋を観察する。
この触手がある魔物はどうやら死んでいるらしく動かない。
恐らくここはダンジョンの中だ。
けど、なんでダンジョンにいたんだっけ?
「んー?」
腕を組んで考える。
けど、わからなかった。
(まぁ、いいや!)
ニーニャは楽観的だった。
(他に、なにかないかな?)
と、ニーニャは首をキョロキョロさせる。
「あっ、宝箱だ」
ふと、部屋の一番奥に宝箱が置いてあった。
ダンジョンにはよく宝箱が置いてあるというし、これもその1つだろう。
ニーニャは近寄る。
「中になにが入っているのかな?」
ニーニャは興奮する。
宝箱というのは開ける寸前が一番楽しいのだ。
「わー! 指輪だぁー!」
中に入っていたのは指輪だった。
一見シンプルに見えるが目をこらすと細かい装飾が施されている。
「ふん、ふふんっ」
鼻歌を歌いながらニーニャは自分の指にはめる。
ニーニャの小さな指にもはまるように指輪が勝手にサイズを調整してくれる。
「えへへーっ、かわいいなぁ」
ニーニャは指輪をもらえて大満足だった。
今までまともな物をもらったことがなかっただけに、その喜びは一入だ。
だからか、指輪の効果まで頭が回ってなかった。
「あっ、出口だ」
宝箱の奥には転送陣が。
中に入れば、この部屋から出られるはずである。
早速中に入る。
「おー、外に出られたぁー!」
気がついたときにはニーニャはダンジョンの外にいた。
単独でニーニャはダンジョンの攻略を達成した。
なお、本人にはその自覚はない。
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