―01― そして、少女は捨てられる
「こいつはクランにとって用済みだ。今日をもって追放する」
ダンジョン下層にて。
クランマスターのガルガがそう言い放った。
「これでやっと無能とお別れか」
「ホント清々するわ。孤児なんかと同じ空気吸うのでさえ、こっちは嫌だったんだから」
「ホント最後まで気味が悪い女だったよな」
他のクランの面々も口々に罵る。
誰も助けようとするものはいなかった。
話がまとまったクランのメンバーは少女をダンジョン下層に置いたまま帰ろうとしていた。
こんなところで少女が一人。
いつか魔物に食われしまうのがオチだ。
けれど、クランの中にそれをかわいそうだと思う者はいない。
(頭がズキズキする……)
置いていかれた少女――ニーニャはふと、そんなことを考えていた。
ここずっと、少女は頭痛に悩まされていた。
それも日を追うごとに頭痛がひどくなっていく。
考え事をしようにも頭痛のせいで、うまく考えがまとまらないことが多い。
(わたし、捨てられたんだ……)
そのことを理解するのにも、頭痛のせいで時間がかかった。
なんでこんなことなったのか?
確か、クランのメンバーに連れられてダンジョンに潜ることになった。
てっきり、いつも通りダンジョンの攻略が目的だと思っていた。
けれど真の目的は違った。
ニーニャを追放するべく、ダンジョンにニーニャを置いていく。それが本当の目的だった。
ダンジョン内に置いていけば、行方不明として片付けられる。
その辺で追放して野垂れ死んでるところを見つかりでもしたら、クランの体面上よろしくない。
「いいんですか? 直接手をかけなくて」
「わざわざそんなことをする必要がどこにある。それとも、お前はあいつがダンジョン内で生き残れるとでも言うのか?」
クランメンバーの質問にガルガがそう答える。
「ははっ、生き残れるわけないっすよね」
ニーニャのクランでの立ち位置は無能だった。
なぜなら彼女はスキルを1つしか持たないから。
しかも、そのスキルは【バフ】という他人のステータスを上昇させる支援スキル。
自分のステータスをあげられない彼女は戦闘に一切役立たない。
彼女は戦闘中、いつもお人形のように突っ立っているだけで、他のメンバーがニーニャをわざわざ守っていた。
だから彼女はメンバー全員から嫌われていた。
そんな無能のニーニャがダンジョン内で生き残れるとは誰も思っていなかった。
(なんでこんなことになったんだろう?)
ニーニャは頭痛に邪魔されながら、ふとそんなことを考えていた。
すでに目の前からクランのメンバーは姿を消している。
そう、確か始まりは8年前だ。
◆
ニーニャは家なき子であった。
親が誰なのか知らない。
気がついたときには孤児院で過ごしていた。
ニーニャという名前も孤児院の院長がつけてくれた名前だ。
そして7歳になった日。
孤児院の子たち全員にスキル鑑定をするという行事があった。
スキルというのは後天的に獲得するものだ。
例えば剣の修行を行えば、剣に関するスキルが手に入り、魔術の勉強をすれば魔術のスキルが手に入るといった具合に。
とはいえ、才能も必要でいくら剣の修行をしても剣に関するスキルを手にすることができない者もいる。
だから、自分の才能を見極め、その才能に沿った特訓するのがスキル獲得の近道だ。
だが、まれに生まれながらにしてスキルを有する者がいる。
そういったスキルは通常のスキルと区別するため、ユニークスキルと呼ばれる。
ニーニャのスキル【バフ】こそがユニークスキルだった。
「なんだ、このスキルは?」
ニーニャを鑑定した鑑定士は思わず驚きの声をあげた。
「この子、ユニークスキルの所持者じゃ」
そう鑑定士が言うと、その様子を見ていた孤児院の子たちも「すげぇえええ」と驚きの声をあげた。
「ユニークスキル……?」
ニーニャはまさか自分にスキルがあるなんて思いもしなかっただけに、嬉しいよりも困惑の感情のほうが先行する。
「しかし【バフ】というスキルか。ステータスを上昇させるスキルじゃのう。それに、恐らくこのスキルは成長するタイプのスキルじゃ」
と、鑑定士が気になることを言っていたが、それは他の孤児院の子供達の興奮によって打ち消されていた。
そして、ユニークスキルの判明によりニーニャの生活が一変する出来事が起きた。
「ここにユニークスキルを持った子供がいると聞いたが」
現れたのはクラン【灰色の旅団】のマスター、ガルガだった。
このときの【灰色の旅団】はまだできたばかりのクランで、人数も20人に満たなかった頃だ。
「はい、今連れてきますね」
そう言って院長がニーニャを連れてくる。
「この子がユニークスキルの所持者です」
「ニーニャと言います」
と、ニーニャは7歳らしい舌足らずな言葉遣いで挨拶をする。
「ニーニャちゃん、うちのクランに入らないかい?」
それから孤児院はお祭り騒ぎだった。
孤児院の子供達にとって冒険者という職業は憧れそのものだった。
皆が冒険者になることを夢みて、剣をふるったり魔術の練習をしたりといった具合に。とはいえ、それで実際にスキルを獲得できる者はほんの僅かであるのだが。
それだというのに、まだ7歳の少女がクランに勧誘されたのである。
そもそもクランなんて、冒険者としてそこそこ名をあげないと入れないところだ。
ニーニャは誇らしかった。
おめでとうってたくさん言われた。なかには嫌みをいう子供もいた。
ニーニャは特別、冒険者になりたいと思っていなかった。
けど、みんなが冒険者に憧れているのは知っていた。
そんな冒険者に自分がなれるだなんて。
なんだか自分が物語の主人公になれたような気がして嬉しかった。
「はい、入ります!」
だから、ニーニャはクランに入ることを決めた。
けれど、ニーニャは知らなかった。
これが地獄の始まりだということを。
クランにとって身寄りのない子供というのは便利な存在だった。
使い潰したとしても、誰にも文句を言われない。
だから、冒険者たちは有能なスキルを持つ孤児院出身の子供を欲しがった。
そのために、わざわざ孤児院にお金を配るほどに。
常に経営が苦しい孤児院側としてはお金をくれる冒険者たちは貴重な存在だった。
だから孤児院側は協力を惜しまない。
例えば、孤児院の子供たちに冒険者は憧れの職業だと植え付ける、とか。
ゆえに、これからニーニャに待ち受けるのは地獄の日々だった。
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