神父様、恋愛相談で稼ぐ
早朝から空色は曇りのちもうすぐ、大雨だ。
最近は雨続きで俺の暗い気持ちもさらに白から灰色になりつつある。
以前は晴れだろうが雨だろうが、嵐だろうと気にしなかったが、現在は気が滅入るばかり。
とりあえず、雨が降る前に用事を終わらさなければ。
俺は今日も今日とて自室で唯一のステンドガラスをボロ雑巾で拭いている。
ガラスには地母神とたくさんの人が描かれている。人は神に祈り、神は人を子のように慈しんでいるのを表しているらしい。美しいものなのだろうが、残念なことにここにあるのはなんとこれだけだ。
他は全部割れているし、原型がないので修復不可能だ。新しく作ろうにも資金がない。この世界はなんと世知辛い世の中なのだろうか。街のおば様たちの噂では最近、街に新たに商店ができたり、王都に存在しているの神殿への免罪費など領主様の頭におめでたいことでもあったのか、散財をしているらしい。
ああ、神よ、どうか通りかかったのならば、金目の物を置いてそのまま、そのまま、お帰りください。さすれば、祈らんこともない。
はぁぁ、ないものを考えても仕方がないし、溜息をつけば、さらに滅入るだけだ。どうやら、今日は風も強くなってきたらしい。さっきから自室の少し透明度が薄い木の枠組みの窓がガタガタと揺れている。屋根は雨漏りを修理したので、さっさと窓に木の板打ち付けてゆっくりとするとしよう。確か、井戸のすぐ傍に立てかけていたものがあるはずだ。
とぼとぼと扉を開けて礼拝堂に出る。相変わらずの美化されている女神像とやらが、目を閉じながら何処へ何を祈っているというのか。そんなことを考えながら、三つの南京錠で厳重に閉められた入り口の扉を解錠する。
俺は外に出て、井戸の近場にある木の板を見つけた。
井戸は清められているのか、生水のようにそのまま飲んでも腹が痛くならないのが、まさに救いだ。
そういえば、喉が渇いたな。そう考えてすぐに井戸の鶴瓶を落として音がなるのを待つ。そして、引き上げてみれば、相変わらずの透明な水だ。手で掬って飲むと心まで洗われるように喉が潤う。
だが、手で掬うとなると思ったより隙間からもこぼれてしまうし、何せ飲む量が少ない。
残念ながらここには予備の桶も柄杓もない。ならば、今すぐこれを叶えるには欲望を満たすにはこれしかない。ずばり、鶴瓶の桶から直接、水を口に流し込めば良いのではないかと、キョロキョロとまわりに人がいないのを確認し、桶を口に近づけ―
「あのー、神父様~」
バシャーという音ともに俺はずぶぬれになった。雨が降っているわけではない。もちろん、桶の水を被っただけだ。
「きゃー、神父様、大丈夫ですか!」
クリーム色の髪に茶色の瞳の女性がやたらと慌てて、俺の心配をしていた。ハハ、大丈夫なわけないだろ、俺の貧弱な体でこんな喉も透き通る冷水浴びてみろ。さっきから震えが止まらなくります。
「え、ええ、少し行水をしてみたかったところだったんです。い、いやぁ、身が引き締まりますね。いえ、それよりも、おお、今世で迷子の子羊よ、今日は何用でこの教会に寄ったのかな?」
$ $ $
「はっくしゅん!」
さ、さむい、やたら礼服が張り付く。水の吸収率が高すぎてボトボトなんだが。外で水を絞ったのにもかかわらず、水滴は床と入り口のカーペットを濡らす。朝から掃除して早々に汚すとは。
「神父様、大丈夫ですか?、早く、服を濡れた服を着替えないと風邪引きますよ。」
「そうですね、すぐに戻ってきますから長椅子におかけください、マリア。」
はぁ、予備と最近、買ったもので計三着しかないのだが、まぁ乾かすだけだしなんとかなるか。
「すみません、お待たせしました、して本日は礼拝ですか?、それとも寄付ですか?」
「談話室でお願いします。」
「…礼拝ですか、き―」
「談、話、室です」
「チッ」
礼拝堂に来て、神に拝がんでお布施を収めてくれよ~、寄付でもいいから~。毎回毎回、談話ばっか選びやがって、愚痴を聞かされる俺の身にもなりやがれ。
「今、舌打ちしまし―」
「はーい、いつものやつですね、どうぞお部屋へ~」
そう言いいながらも、俺は彼女を部屋へ押し込む。ここは教会内部にある個室の部屋で談話室と呼んでいる。部屋は複数あり、防音性が高く、外に声が漏れることは一切ない。まぁ、ある意味危険性が高いのだが、この教会にくるやつは大体これが目当てだ。正直ほぼ稼げない、施しがあっても銅貨が数枚程度が関の山だ。なぜだ、なぜなんだ、俺の同期は手紙にそんな内容一切、書かれていなかったのに!。
「で、今日は何の相談ですか?また彼氏がらみですか?振られた話ですか?」
椅子に座るように提案しながら、今日の悩みについて問うてみる。
このマリアという女性は俺が知る限り、手の指で数えきれないだけの付き合いと言えば、わかるだろう?
「もう、神父様の意地悪!、でも今日は違うの。運命の相手なの!」
「あなたの運命の相手何人いるんですか!。それだけ集まれば、運命も必然になりますよ!」
この女、美貌では言えば、まぁ、悪くはない方だ。中の中といったところだが、さらに器量も良しときた。だが、この女、恋に盲目なったら即コロッと騙される。今まで彼氏に振られたと言ったが、騙されたといった方が正しい。ある彼氏には借金を押し付けられそうになり、ある彼氏は彼女を娼婦館に売り払おうとし、またある彼氏は実の彼女が殺されそうになったときの身代わりのために付き合ったなどなど波乱万丈な人生を謳歌している。
毎度毎度、報告に来て帰っては、次の日、ボロ雑巾のように泣いてまた報告だ。これでも、ちゃんときいてやってるんだ。大半の銅貨はマリアが払ったものなので、聞かないわけにもいかない。
「そうよ、今までは運が悪かっただけ。今度のお相手は勇者様なの!」
「は?、勇者様ってあの勇者ですか?、なんでこの街に?」
勇者、魔王を倒して姫様と添い遂げる物語のような存在はいたとされている、今の勇者は神殿が信託して神に選ばれるとかいう精鋭部隊のことだ。今じゃ、勇者も冒険者や魔法使いと変わらない職の一つになったわけだ。夢もロマンもへったくれもないが、給料がいいからみんな頑張って目指している。
「そんなの知りませんよ。でも勇者様と角でぶつかってしまって、そうしたら手を取ってレディって言ってくれてエスコートまでしてくれたんです。これを運命の出会いと言わずもがなですよ」
「はぁぁぁ、甘々というか。浅はかな考えです。今までの戦績を抜きにしてもその程度で付き合えるものでもないでしょう。勇者は最近、貴族が大量に増えたと言います。我々、下々の人間が易々と近づけるものでもないでしょう。」
「むぅ、そ、そうですけど、それでも私は愛の壁をを乗り越えるんです!。」
「そうですか…、10分経過です。銅貨1枚お支払いください。」
「はい、神父様!。」
そう言うとマリアは懐からジャラジャラとした袋を取り出し、笑顔で銅貨をこちらに渡してきたので、受け取る。相変わらず、金払いだけはいいんですよね~。毎度毎度、ここに来ているけど、金に困っている様子は欠けらもない表情だ。羨ましい限りだが、なぜ、男運がこんな悪いのか。あれ?、そうなると俺も悪い男になるんじゃないのか…、まぁ、恋愛感情なさそうだし、大丈夫だろう。
「因みに延長なさいますか?」
「はい、バリバリ延長です。恋愛成功作戦会議です!。」
今日はほぼ彼女との会話で終わりそうですね。まぁ、良い金ずるなのでここで俺もバリバリ延長(金策)しないとな!。