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地雷原を駆け抜けろ!

作者: 夕焼け

地雷は人、それぞれ

【地雷】

(じらい、英: land mine)は、地上または地中に設置され、人や車両の接近や接触によって爆発して危害を加える兵器。(Wikipediaより抜粋)


 最近では、転じて文章や言語の表現として「地雷を踏む」という言葉がよく用いられる。

「不用意に踏むと危ない」という地雷のイメージから、『触れてはならないことにうっかり触れる』という意味合いとして使用されるらしい。

 基本的にはうっかりとした言動から他人の逆鱗に触れるパターンを指すことが多い。 (ピクシブ百科事典より)


 そして私的には、創作においての絶対に受け付けられない属性、関係性、カップリングや描写、表現の「地雷」が主な理由となっている。


 地雷という言葉が流行る以前に、人にはどうしても受け付けない物、事柄がある。それを一言で表すと地雷となる。


 何故、突然こんなことを語るかというと私こと、久保田麻里(くぼたまり)には特大の地雷があり、今、それが目の前にあって危機的状況に置かれているからだ。



 どうしてこうなった。地雷は普通自分から踏み込まないと爆発しないはずなのに何故地雷の方から私に向かってやってきた!? 前世で私はどれだけの悪行を働いたの!?

 神様仏様ご先祖さま、一生のお願いです。不肖久保田麻里、この地雷から逃げられるのなら、もう夜中にポテチ一袋寝っ転がって食べません。ダイエットは明日からと先延ばしにしていたのを今日から始めます。だから、どうか、どうかお願いです。地雷回避させてください!!!(脳内スライディング土下座)


 必死すぎて久保田家の始祖久保田宗之進のぼた餅投げて殿を救ったエピソード(おじいちゃんの自慢話)を思い出す所までしてしまったわ。落ち着いて本当にどうしてこうなったのか、事の始まりから思い出してみよう。



 思い起こせば数ヶ月前、季節外れの異動でうちの部署に配属された新人君の教育担当になったことから私の地雷回避不可の日々が始まった。


 新人君は権堂(ごんどう)威三雄(いさお)君という今年我社にやってきた新入社員だ。

 名は体を表すとは、よく言ったもので、権堂君は大きな体で服の上からでも分かるくらい鍛え抜かれていて新入社員とは思えない貫禄と絶対素人では無い脛に疵持っていたんじゃないの!? というくらい厳つい顔(しかも目力が強い)で配属初日から威圧感がすごかった。

 入社当初は、なんとあの風貌なのに営業に配属されたのだ(人事部は何を基準に配属先を決めてるの!? )

 当然と言えば当然、威圧感満載の笑顔で仕事をすればお客様から怖がられて、取り引き先では極道の討ち入りかと勘違いされ、果ては何もしていないのに警察に通報されて慌てて営業部の課長が警察へ身元引受けに行くという前代未聞の事態になった。


 権堂君は姿こそ極悪ゴリラ(体毛もすごい! 手の甲までもっさり)だが、性格は真面目で温和、接客以外なら仕事は早く正確と有能。折角の人材を腐らすのは良くないと営業以外の部署をあちこち回されたが、いかんせん、あの風貌に同期はおろか、先輩上司までが怖気付いて仕事にならない。

 最終的には総務に配属された。しかも一回、総務にはやってきて無理と返品されたのに一周回って戻ってきたのだ。


 総務で引き受けることになったは私のせいである。


 前回配属された時に先輩達は怖がって近づきもしなかった。その中で一番下っ端でそろそろ後輩の指導を担当したらと言われていた私に白羽の矢が刺さり、権堂君を教育することになった。

 佇まいが極道(言っちゃった! )の権堂君を私が指導して何とかやっていたが、周りの人間が権堂君を怖がって仕事にならず、結局二週間で他の部署へ異動となった。それから一ヶ月後にまさか戻ってくるとは。

 なんと他の部署では権堂君が怖くてまともに指導できなかったらしい。どこもお手上げ状態に会社も不祥事を起こしていないのにクビにするのもできず、仕方なく本人の希望もあり、再び総務へと配属された。

 前回と同じで私が彼を教育することになった。なんでも唯一きちんと指導できたのが私だけだったらしい。


 私だって権堂君の風貌は怖い。前回の時だってビクビクしながら指導していたのを本人にバレないように隠してやっていたのに。それでも二週間が経つと慣れてきて、なんとか彼は怖くないと思えるくらいにはなった。なったが、それでも無理なのだ。私は彼を怖いというより受け付けられない。


 権堂君は私の地雷なのだ。


 権堂君の方と言えば、指導はもちろん、私がまともに彼の目を見て話すのに驚き、感動したらしい。それで仕事をするなら是非私の下でやりたいと希望。扱いに困っていた会社はこれ幸いと見事厄介払いを私に押し付けたという。


 ひどい。こんな事ってないと憤りを感じたが、所詮入社五年目の平社員、会社の権力には勝てません。

 仕事と割り切って彼の指導役を引き受けた。

 私だって社会人だ。引き受けた仕事はきちんとこなしたい。だから心を無にして権堂君と接した。


 それが良かったのか悪かったのか、何故だか彼は私に懐いて就業時間だけではなく、「仕事の人間関係で分からないことがあるから教えてください」強面の顔のごんぶとの眉を下げて私に頼ってくるので、仕方なくお昼ご飯の時間を利用して会社の人間関係を教えていたら、いつの間にか毎回お昼ご飯まで一緒にいるようになっていた。

 そして休日もあの姿だと友達もできずに一人で寂しいからと、会社の周辺案内や初めての一人暮らしでの買い物を付き合って欲しいだのと、いろいろ誘われて私は、ほぼ毎日権堂君と顔を合わせることに。


 頼まれ事をされると断れない、困ってる人を見捨てられない気弱な自分の性格がこの時ばかりは呪わしい。


 そうしてなんだかんだと理由をつけては権堂君に誘われて私はほとんど全ての行動を彼と共にして、三ヶ月が過ぎた。


 権堂君には慣れたが、彼が私の地雷であることは変わらなかった。

 地雷はそうそう簡単に克服できない。


 権堂君と休日も出掛けることに抵抗を感じなくなったある日、二人で気になっていた映画を観て食事をして、さてそろそろ帰ろうかと身支度をしていたら、行きたい所があると彼に言われて急遽場所を移動した。

 そこは夜景が綺麗で有名な高台にある公園で、日が沈んで大分時間が経ったにも関わらず人が沢山いた。


 公園の中を進み、一番夜景が見渡せる場所のベンチへと私を座らせた。権堂君もゆっくりと隣に腰を下ろし、真剣な眼差しで目の前に広がる夜景を見ていた。


 彼のただならぬ雰囲気に私は嫌な予感がして隣を見ないように夜景に集中した。

 しばらく夜景を二人で見ていると、権堂君が私の方を向き目力で人が殺せるんじゃないかと言うくらい見詰めてきた。

 慣れたとはいえ、かなり怖い。


「久保田先輩、今日も僕に付き合ってくれてありがとうございます」

「いいって。私もあの映画観たいと思っていたんだ。誘ってくれて助かったよ」

「あの、実は今日は先輩に言いたいことがあって……」

「え!? 私、何か権堂君に迷惑かけてた? 嫌なことしてたらハッキリ言ってね。直ぐにやめるから」

「いえ、先輩が嫌なことをしたことなんてないです! 迷惑とかも全く。むしろ迷惑をかけて欲しいくらいです!! 」

「へ!? 」

「えっと、そうじゃなくて、今日、先輩に言いたいことというのは……!! 」


 権堂君の目に力が入りすぎて血走ってる。彼の気迫に周りのカップル達もそそくさと帰っていった。

 権堂君は大きく深呼吸して両手で自分の頬を挟むように叩いた。

 バチーンを大きな音がしたから相当痛そう。


「ぼ、僕と付き合ってください!! 」


 夜景ではなく走馬灯のように今まで見ないふりしていた彼にある地雷が私の目の前を走っていった。


 ……割れて……二つ……顎……

 ……顔の下……見てはいけな……尻……真っ二つ……



  ハッ!! 現実(目の前)を直視したくなくて、つい思考の海へ素潜りしてしまった。



 そう、もうみんな分かったと思う。


 私の地雷はケツアゴ。


 特に理由はないが子供の頃から男女問わずケツアゴの人は生理的に受け付けなかった。



 権堂君はモーセの十戒ばりに顎が割れているのだ。

 ケツアゴなんて大したことないと思うかもしれないが、顎が二つに割れてるんだよ!? 二つに割れるのは尻だけで充分だし、なんなら顔の下が尻になってると言っても過言ではない!!

 海外ではケツアゴはセクシーな男の証みたいな表現もあるが、それは個人の好みで全体の総意では無い。

 何故割れる必要がある?

 意味もなく割れているそこには何を挟めばいいの!?

 それとも割れ目から何か生み出されるの!?

 とにかく私はケツアゴが本当に無理で、権堂君と話す時は顎を見ないように目を見て話しいていた(これが誤解の元)


 職場では仕事だから、休日は頼まれたから断れなくて仕方なく彼に付き合っていたが交際となると話は別。


 いくら彼がいい人でも無理なものは無理。






 無反応の私に聞こえなかったと思ったのか、権堂君が再び話しかけてきた。


「久保田先輩、みんなから怖がられまともに相手にされなかった僕を唯一普通の人として接してくれた貴女が好きです。僕と結婚を前提に付き合ってください」

 権堂君はベンチから降りて跪き、上着のポケットから小さなベルベットの箱を出して私に向けて開けた。

 そこには燦然と輝くダイヤの指輪が収まっていた。


 視線が地雷から下へ、光り輝く石へと移る。


 好き? 私を?


 えええええ!? 無理ぃぃぃぃ!! しかも結婚とか重いぃぃぃぃ!!!

 だってケツアゴだよ!?


 どうやって断ろうかあわあわと悩んでる内に権堂君は箱から指輪を出して、そっと私の左手を取り薬指に嵌めた。


 あら、ピッタリ

 って!! なんでサイズジャストフィットなのぉぉぉぉ!?

 怖い怖すぎる!!


「必ず幸せにします」

 そう言うと彼は私を怖がらせないようにゆっくり抱きしめた。


 え、私、返事してないよ。まずい。このままではケツアゴと結婚してしまう!


 力を込めてないはずなのに彼の腕の中から抜け出せない!!


「あ、あの権堂君はまだ若いから早まらないで!! 」

「早まってなどいません。僕は久保田先輩とこの先、一生を共にしたい」


 いやあああああ!!!

 一生ケツアゴと一緒なんて無理ぃぃぃぃ!!


 どうしようどうしよう。上手い断りを考えなければ。



「久保田先輩、僕は本気です。貴女に捨てられたら僕はひとりぼっちになってしまいます。どうかお願いです。はいと言ってください」



 ひいぃぃぃぃ!! 彼の孤独を深く知ってしまってる今、こんなこと言われたら益々断りにくいぃぃぃぃ!!


 誰か地雷回避の方法を教えてくださいぃぃぃぃ!!!(切実)


地雷は踏むと爆発するもので克服はできない(残酷な事実)

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― 新着の感想 ―
[一言] まぁ、大事にはしてもらえるんぢゃあないですかねー。 (バカップルを眺める醒めた表情で)
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