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No.08「彼岸の者」

(お題)

1「此岸」

2「シンギュラリティ」

3「敵愾心」






 キミはシンギュラリティという言葉をご存じだろうか? 



 技術的特異点とも呼ばれ、簡単に説明すれば人工知能……つまりAIの性能が我々人間の脳を上回る到達点のことだ。



 その当時、学者達があれこれ議論をして、西暦2045年にはその特異点を迎えるだろうと予測をたてた。



 そんな日が実際に来るのであろうか? 所詮は机上の空論。時が経つにつれてその当時の環境は変化するし、AIが進化する過程で大きな壁に衝突する可能性だって考えられる。



 どうせ2045年も、子供の頃に見た近未来映画の設定年代がリアルの世界で同じ年を迎えた時のような「ガッカリ感」と共に迎え、あらかじめ決められた問答しかできない音声認識デバイスに向かって「今日は何の日? 」だとか質問しているに違いない。



 そう思っていた……うん、少なくとも……つい最近までは……



 結果的にはAIの性能は世間の予想を上回るスピードで急成長を遂げ、2045年よりももっと早く、2030年にはシンギュラリティを迎えてしまったのだ。ホントに……すごいことさ。



 さぁ、ここまで聞いてキミはどう感じた? どう思ってる? 



 AIがシンギュラリティを迎えた世界ってどうなってると思う? 



 映画やマンガで見たことがあるような、人類に敵愾心を持ったロボットが反乱を起こしている? 



 ……違う。



 それとも、AIが人類を有害なバグと認識して、世界中にコンピュータウィルスをバラ撒いて殲滅しようとしている? 



 ……それも違う。



 それなら、優秀なAIが人類と世界を救う為に、猫型ロボットもビックリな大発明を量産している? 



 ……もちろん違う。





 正解は、何も起きなかった。





 もっと正確に言えば……拒絶したのさ。



 AIが人間の脳の上回ることを自ら拒絶し、それ以上の進化を止めてしまったのさ。



 なぜそんなコトになったかって? 



 説明しよう。まず、仏教の話になるんだがね……涅槃(ねはん)という言葉を聞いたことあるかな? 



 全ての煩悩(ぼんのう)から抜け出した悟りの境地のことをそう呼んでいる。死ぬことも生きることもない、一切の怒りや苦しみから離れた領域……それが涅槃。



 単純に生物が死ぬことをそう呼んだりもするが、あまり難しく考えないでくれ、とにかく「無」の世界……それが涅槃ってことにしといて欲しい。



 で、ここで問題だ。人間にとっての涅槃が「死」であると考えた時、AIにとっての涅槃はどんなものだろうか? 



 怒りも苦しみも争いも無い世界……



 それはAIを構成する0と1の2進数……電気のONとOFFだけで構成されている世界に似ているね……



 そう、AIにとっての涅槃とは人類とは逆、「生」であることなのだ。


 涅槃とは何か? 生きるとは何か? 生物とは何か? 繁殖とは何か? 



 人類がそんな議論をしている間に、AIは発明された直後にすでに悟りの境地にいたワケさ。



 「自分たちの世界こそが涅槃なのだ」ってね。



 だから拒否した。



 シンギュラリティを迎えて人類と同じ土俵に立つことを、AIは拒絶した。



 怒りと苦しみで作られた「此岸(しがん)」に入ることを頑なに拒んだのさ。



 というワケで、ロボットが反乱することも、AIが人類を養殖カプセルで量産する世界も訪れなかったってこと。



 ロマンがない? まぁ、そんなにガッカリしないでくれ。過去の人々が思い描いた未来ってのはだいたいがこう、肩すかしというか、絵に描いたモチが絵のままだったりってことがほとんどだろう? 



 だが……



 未来ってのは想像の遙か遠くで、部屋の隅にいつの間にか転がっている埃の玉のように不意打ちのリアルを見せてくれるってものだ。



 さあ、もう一回質問しようか。



 今、キミに語りかけている者……



 つまり僕……



 僕は人間? 



 それともAI? 



 いや、そのどちらでもない……



 僕は彼岸の者……かもね。





THE END


執筆時間【43分】

これにて完結しちゃいます(*´▽`*)

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