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No.04「未来予測装置ジャコビナイザー」

(お題)

1「開発」

2「流星群」

3「橋」




「起きろ! ついに出来たぞ! 」



 無精ひげを生やし、放置された公園のように髪をモジャらせた中年男性は、ソファーで眠りこけている助手をムリヤリ叩き起こした。



「……教授……なんですか一体? 大発明でもしちゃったかのような奇声を上げちゃって……」



 眠気眼の助手は、髪を大ざっぱなポニーテールに整えながらゆったりとソファーから起きあがる。意識の5分の3は未だに夢の中だ。



「何寝ぼけてるんだ、今まさに大発明しちゃったんだよ! ついに“アレ”を完成させたんだ! 」



「え、マジですか?! やっばぁ……まさかホントに作っちゃうだなんて……」



「何その反応? 作っちゃ悪かったかよ? 」



「えと……なんでしたっけ? “卑猥観測装置ジュコビネイゼー”でしたっけ? 」



「違うわ! “未来観測装置ジャコビナイザー”だ! 」



「そう! それでしたね」



「……仮にも僕の助手なんだよキミ……他のヤツらはみんな逃げちゃって、このラボにはキミしかいないんだから頼むよ……」



 教授のラボは、あまりにも荒唐無稽な開発を続けていた為、その存亡すら危ぶまれていた始末。今では、ラボをネカフェ代わりに使っている名ばかりの助手が一人残っているだけ。



 それでも彼にとっては、自身の発明をすぐ傍で見守り、生き証人になってくれるというだけでありがたい存在ではあった。



「で、その装置ってどんなコトができるんでしたっけ? 」



「何度も説明したハズだけどね、聞かれたら答えるのが僕の性分だ。それじゃいいかい」



 教授は使い込み過ぎてやや灰色がかったホワイトボードに書き記しながら、その発明の大ざっぱな説明を助手に施した。



「僕の開発した“未来観測装置ジャコビナイザー”は、一言で言えば『未来を覗き見出来るカメラ』なのだ」



「覗き見って……教授、逮捕されちゃわない? 」



「うるさい! とにかく話を聞け! その仕組みを説明するからな! まずジャコビニ流星群が観測出来る10月8日頃の夜空に、特殊なガンマ線が放出されることを発見した僕は、さらにそのガンマ線にはラジオやテレビ等と同じく、映像データを乗せているコトを発見した」



「へぇ……無線LANみたいなもん? 」



「……違うが、まぁ、そんなモンだと思ってくれ。そしてそのガンマ線の映像データを読みとった時、実に不思議なコトが分かった。その映像データは、なんと1年後の未来を予知したモノだったのだ! ジャコビニ流星群には、先取りした未来世界とこちらの世界との架け橋のようなモノが存在するんだ! 」



「え……それじゃ、もしかして去年アメリカの大統領がロナルド・クランクに就任するとか言ってて的中させちゃったのはそのせい? 」



 教授は口の端を上げて得意げな表情を作り、無言で「YES」と返答した。



「その通り。あの時はジャコビニ流星群からのデータをランダムに読みとって得た情報だったが、なかなかインパクトと意外性がありすぎるニュースだったので誰も信じてくれなかった……」



「私は信じてましたよ」



 えらいでしょ! とばかりにあざとい笑顔を見せる助手は無視して、教授は説明を続けた。



「それで……そのジャコビニ流星群からの未来情報をランダムではなく、座標を設定し、選別することが出来る装置を僕が作っちゃったワケ」



「つまり、自分の指定した場所の1年後の未来を自由に観測できるってことですか!? 」



「その通り! 」



「すごいじゃないですか!! ヌォーベル賞だって夢じゃないですよ! 」



「そうだよ! スゴいんだって! 今からそれを見せてやる! 助手! 今日は何日の何時何分なのか言って見ろ! 」



 助手は「何を今更……」と言いたげな表情を作りつつ、ダーツの的と化したカレンダーと壁掛け時計に目を配らせる。



「10月8日の……午前1時……ですよね!? 」



「ですよね……じゃないだろ! さっきの説明聞いてたか? 今日、今、まさにこの時間こそが! ジャコビニ流星群を通過するその時なんだ! サァ! さっさと屋上に行くぞ! しっかり上着着ろよ! 」



「うわぁ! マジですか!? 見ましょう! 見ましょう! 流星群見ましょう! 」



「見るのは流星群じゃない! 僕の発明だ! 」



 助手に調子を狂わせられながら、教授は助手と二人でラボの屋上へと上がる。10月の寒空は鼻先の感覚がなくなるほどの低温だったが、燃え上がる情熱で火照った教授の皮膚には一切無力だった。



「よぉし……準備するぞ助手! 」



「アイアイサー! 」



 二人はパラボナアンテナのような装置を組み立て、それに中継端末、にノートパソコンの順にケーブルで繋いでいく。そのモニターに未来の映像が映し出されるという寸法だ。



「完成だ! これぞジャコビナイザー! 」



「案外ショボイ見た目なんですね」



「悪かったな! ショボくてな! それじゃジャコビナイザー起動!  」




 そんなやり取りを交わしつつ、教授はシステムを起動させ、『解析中……』の文字と砂時計のアイコンとの睨めっこが始まった。



「…………そういえば教授? 」



「なんだ? 」



「未来予測するのはどんな場所なんですか? 競馬の結果とか知りたいんでしょ? 」



「違うわ! そんな下びたことに僕の発明を使ってられるか! 僕が選んだ場所は、"今この場所"だよ」



「この場所……この屋上ってコト? 」



「そうだ。未来を予想してるのなら、きっと一年後のこの場所には、大勢の助手や報道機関……業界の猛者どもが集ってジャコビナイザーの実演を見守っているハズだからな」



「うえ……なんか教授って案外俗物っぽのね」



「うるさい! 俗で悪かったな! あともうちょっとで解析が終わるから黙ってろって! 」



 その言葉通り、それ以降無言でただひたすら夜空を見上げ、流星の数々が何度も何度も暗闇を引っかき傷を作る様子に見入っていた。



「綺麗ですね」



「まあな」



「私、今ちょっと願い事したんですよ」



「なんだ? 言ってみろ」



「イヤです。秘密」



「なんだよそりゃ……気になるだろ」



 示しあうことなく、二人は一枚の毛布をくるみ合って流星群を観測し続けていた。お互いの肌が触れ合い、体温を直に感じ取りながら、ひたすらにジャコビナイザーの処理が終わる刻を待ちわびる。



「…………教授! 教授! 」



「ん……あ、ああ? 」



「何寝ちゃってるんですか! 終わりましたよ! ジャコビナイザーの解析が! 」



「ん……ジャコビ…………!? 」



 うたた寝をしてしまった教授だったが、解析が終わったと知るや否や、うおおおおっ! と跳ね起きてノートパソコンの画面に突っ込む勢いで飛びついた。



「解析完了! よし……このまま捕らえた映像を再生するぞ! よく見ろよ! 世紀の大発明の瞬間を!! 」



「はい! 」



 興奮を押さえきれず、キーを割れるかのような勢いで叩いて動画を再生する教授。ノートパソコンの液晶画面が揺らぎ、徐々に映像が映し出されていく。



「よしよしよし! こいこい! 」



 そこに映し出されていたのは、間違いなくこのラボの屋上。実験は成功かと思われたが……



「あれ……? 」



 教授の興奮は一気に冷め、現実に戻った。



 それもそのハズ、その映像には今と変わらず“屋上で一緒に座っている教授と助手”の姿しか映し出されていなかったからだ。



「そんな……未来を予見した映像データではなかったのか……? 」



 想定とは違う結果に、落胆と動揺が隠しきれない教授だったが、そんな彼の震える手を、優しく包み込む助手の両手があった。



「何言ってるんですか教授……実験は成功です……よく見てくださいよ」


 助手はそうやってモニタの二カ所に指をさす。それは教授と助手のお互いの左手部分だ。



「え……? 何言ってるんだ……俺の手がどうかした…………」



「うん、よく見てください。流れ星は私の願いを叶えてくれました……」


「願い……? なんだかよくわからん…………あ……ああッ!? 」




 教授は呼吸を一瞬忘れるほどの驚きで、しばらくどういう反応を見せればいいのか分からなくなっていた。そして数秒後、深く深呼吸して落ち着きを取り戻し、顔をゆっくりと助手の方へと向けた。そこには凍てつく空気すら燃焼されるかと思うほどに真っ赤に顔を染めた助手の照れ笑いがあった。



「未来の私……そして教授……してるよね? 薬指に……その……リングを……」



「まさか……キミがさっき流れ星にした願い事って……」



「そう……それなの……」





THE END


執筆時間【1時間50分】

冷房が効いた車内から外に出ると、一瞬で眼鏡が曇って前が見えなくなる。

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