No.03「新月な二人」
(お題)
1「テーブル」
2「朔」
3「アメフト」
陽美は今日もぼくの隣に座る。
「あの……さすがに昼飯ぐらいは一人で食わせてくれませんかね? 」
学食のテーブルで飾り気のないシュガートーストとコーヒー牛乳を嗜むぼくの横で、陽美は健康食品のビスケットで事務的に空腹を満たしていた。
「だめだよ月野くん。私が平凡な学園生活を送る為にも、常にあなたの側にいなきゃいけないんだから」
陽美はそう言って数学の授業で使うノートをテーブル上に開き、それに穴が空くかと思うほどに真剣な眼差しでそれを凝視した。
数学の予習をしているワケではない。それはフェイクで、本当はそのノートに挟まれた“台本”を熟読しているのだ。
「今度のドラマ、新田光ちゃんと共演するの。知ってるよね? 新田ちゃん」
「いえ、ぼくはあんまりテレビとか見ないんで……」
「知っときなさいよそれくらい! 今めっちゃ人気ある若手女優なんだから。相変わらずあんたは陰キャでオタク気質なんだから。ま、それが私にとっては都合がいいんだけどね」
「はいはい……すみませんね、オタクで……」
ぼくを根暗インドア野郎と罵る陽美は、今10代、20代の層から最も注目されている人気タレントだ。
元アイドルグループ出身で、この度女優としてソロで本格始動した新進気鋭の逸材。
そんな彼女がなぜぼくのようなクラスのカーストでも最下層まっしぐらな生徒とこんな風に隣同士でランチを楽しむ仲になっているかというと……
その理由は“自分のオーラを隠したい”ということらしい。
圧倒的存在感を発揮する陽美の光を隠すには、ぼくのような陰気な存在の人間と一緒にいるコトが一番なのだとか。
事実、入学式で目を付けられてから今日に至るまで、彼女をあの人気タレントである日向陽美だとは誰も気が付いていない。
つまり、ぼくと陽美の関係は“朔”なのだ。
太陽である陽美の日光を、月の僕が遮る。そうすれば、地球である他の生徒にまで日光は届かないってことだ。よくできてるものだ。
「月野くんと私が常に寄り添って、他の生徒という名の地球の周りをグルグルと円を描いて回っている限り、私は一般生徒としていられるし、あなたは超人気タレントである私を、毎日間近で拝めるってんだからwin-winの関係ってコトだよね。うん、私って賢い」
「陽美さん……月が地球を回る軌道ってのはですね、サッカーボールみたいな円じゃなく、アメフトのボールみたいな楕円形なんですよ。理科の成績……大丈夫でした? 」
「うるさいわね! いちいちいちいちホンッとムカツク! もういいわ。私は台本に目を通すのに集中するから、声かけないでくれる! 」
「へいへい……」
陽美はそう言って鞄からイヤホンを取り出し、聴覚を遮断して台本とにらめっこを始めた。話しかけてきたのはあなたの方なのに、勝手な人だな。
……でも……
ぼくはそんなあなたと一緒に“仕事”が出来ることが楽しみでしょうがありません。
陽美さんには秘密ですが、ぼくにはもう一つの名前があります……
“新田光”
今度あなたと共演する若手女優……それがぼくなんですよ。
陽美さん、オーラは隠すモノじゃありません、消すモノです。
ぼくの力に頼らずに世間と同化出来た時まで、ぼくはあなたの月としてサポートさせていただきましょう。
ぼくもまた、あなたに魅了された数多くのファンの一人ですからね。
THE END
執筆時間【1時間14分】
最近めっちゃ暑い。




