No.02「マシュマロの記憶」
(お題)
1「黒髪」
2「鼻」
3「マシュマロ」
僕はマシュマロが嫌いだ。
どういうワケか、マシュマロの白くてブヨブヨしたフォルムを視界に入れただけで、鼻の奥から腐った生ゴミのエキスが分泌されるような心地になる。
甘い物、ゼリーやグミのような柔らかく弾力のある物、ミルクプリンのような白い物等は、どういうワケか平気なのに。なぜかマシュマロだけを極端に拒絶する体質になってしまったようだ。
「みてみてー! 可愛いでしょコレ! 」
そんな僕の趣味趣向を知っていながら、妹はどこかしらで購入したマシュマロを見せつけてくる。パステルカラーの箱に詰め込まれた、ちょっと高級なイメージを彷彿させる物だった。
「見ない。僕の前にそれを持ってくるな」
「えー! こんなに可愛いのにな~。これなんかチョコで顔になってるんだよ」
“生理的に受け付けない”という言葉を理解出来ない無邪気な妹は、僕の目の前にムリヤリ例のマシュマロを見せつけてくる。
「やめろって言ってるだろ! 」
マシュマロを見たくない一心で視界を両手で塞ごうとしても時遅し。チョコレートのコーティングで黒髪と顔を表現したマシュマロを視認してしまう。
マシュマロ……顔……
その時だった。記憶の本棚の奥のそのまた奥に潜めておいた、“好まざる記憶”がページを開いてこちらに迫ってくるイメージが沸き上がった。
そうか……僕がマシュマロを嫌う理由……
思い出した……
僕がまだ保育園に通っていた頃、家族でプールに出かけた時だ……
その当時はまだ落ち着きの無かった自分は、家族から離れて一人でプールの水中に潜って遊んでいたんだ……
そして僕は……とんでもない過ちを犯した。
それはちょっとしたイタズラだったんだ……
僕は水中に潜って、プールの中で歩いてる人の足首を思いっきり引っ張り、転ばしてやろう。と悪巧みをした。
そして狙い通り、一人の肥満体型の子供の足を払い、盛大に転ばせてやったんだ……
突然足を引っ張られ、転んで「うわー! びっくりした! 」で終わるはずだった。
けど、そうはならなかった。
その子は、転んだ拍子に髪の毛を排水溝に吸い込まれてしまい、水中で身動きが取れなくなってしまったようだった。
何も知らずにのんきにプールサイドに上がった僕は、その時初めて自分の犯した罪の重さを理解した。
大人達が大慌てでその子を引き上げ、必死に人工呼吸を続けていた……
その子の丸い体は、マシュマロのように真っ白になっていて、開けっ放しの瞳は、ずっとこちらの方を睨みつけていた。
THE END
執筆時間【54分】
うーん!