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青筆のエリーと数々の話  作者: 八七川ヤナギ
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青筆のエリーと割り勘の話 2

「一番右の数以外、無視してしまっても2人で割り勘出来るかどうか分かるのはなぜか……ですか」


 アマーリエさんが腕を組んで唸り始めた。頭が斜めに傾いたり元に戻ったり、眉間に皺が寄ったりしている。


「……うーん。そう聞かれると困りますね。なんか、何となく二つにぱかっと分かれそうな気がするんですけど。一番右が2とか4とかなら」

「エルザはどう進むのが良いと思う?」

「……まあ、いきなり全ての数に通用する方法なんて見付からないので、小さい数から確かめていく感じでしょうか」


 これはエレーナとの勉強会で毎度のことなのだが、数式術に関してエレーナが答えをいきなり言う事はほぼ無い。エレーナ自身が考察をしていて、その話を聞くという場合以外は、数式術をする主人公は教わる方で、エレーナは手助けをしてくれるのだ。今回は、私は聞き手だろうか。昔教わったことのある内容だし。


「小さい数から確かめる…ですか。2、4、6、8は当たり前ですね。1、2、3、4ずつに綺麗に分かれますから」

「そうですね」

「うんうん」

「次は10ですか。これも5ずつに分かれます。12、14、16、18も分かれます…よね」

「良い調子です」

「うんうん」

「20、22、24、……はーん、あ? うーん」

「……何か気付いた?」


 アマーリエさんが顎に人差し指を突きながら、視線を右上に上げつつ話し出す。


「2人で割り勘できる値段というのは、結局のところ2オンが何個も集まって出来ているんですよね。私と弟が1オンずつ払うというのを、何回も繰り返すみたいに」

「なるほど」

「うんうん」

「つまり、2を何回も足した値段が、2人で割り勘できる値段です」

「ふむ」

「うん」

「それで、2を何回も足したときに、一番右に出てくる数は、2、4、6、8、0、の繰り返しになるんじゃないですか」


***


 エレーナは「うんうん」という相槌をよく打つ。相手の言っていることを少し時間をかけて理解しようとするときは「…うん」くらいになる。そして、話が次の段階に進む気配を察知すると手に力が入った動きが増えてくる。

 今まさに、体の前で両手を握りながらアマーリエさんと問答している。


「そーなんですよ! アマーリエさん!」

「うおっ、近っ」

「その2、4、6、8、0の繰り返しが大事なの!」

「ちょっと待った待った! どういうこと?」

「今、アマーリエさんは大事なことに気付いたんだよ」


 少し整理するね、と言ってエレーナが座り直して話し始める。


「今、アマーリエさんは二つのことに気付いたんだよ。えーっとね、

一つ目は、2人で割り勘できる数は、2を何回も足した数だということ。

二つ目は、2を何回も足した数を小さい方から順番に見ていくと、一番右の数が、2、4、6、8、0の繰り返しになっていること。」

「うん? 私はそういう意識は無かったけど。特に一つ目なんて、わざわざ言う必要があるの?」

「ふふ、あるんだなこれが」

「というと?」

「説明したいんだけど、そのために一つ数式術の用語を覚えてもらいたいんだけどいい?」

「げ、もしかして勉強っぽくなる?」

「一個だけだから!」


 まあ、一個だけなら、といって、アマーリエさんは「倍数」というものをエレーナから教わっている。倍数なんて言葉は数式術でしか見ないが、数式術では基礎中の基礎ではある。馬車はコトコトと小刻みに揺れながら、順調に進んでいるようだ。御者のフリッツさんにもここの話は聞こえているのだろうか。聞こえていたとして、数式術の方に集中してしまうと運転が乱れるかもしれないが、今のところそんな様子は無いし、しっかり仕事をしてくれる人なのだろう。興味がないだけかもしれないけれど。

 そういえば、アマーリエさんの口調がだいぶ砕けてきている。エレーナの魔法の一つにアマーリエさんもかかってしまったか。2人に視線を戻せば、アマーリエさんが倍数を覚えたところのようだ。


「はい、確認です。2の倍数とは何でしょうか!」

「えっと、2の倍数は、2で割り切れる数のことで。2で割り切れるというのは、2人できっちり割り勘できるという意味でもある。そういうことでいい、よね」

「かんぺき! だから、アマーリエさんの最初の疑問を言い換えると、

『6の倍数かどうかを判定する簡単な方法は無いか』

という問題になります」

「そういえば最初は6人だったね」

「で、さっきアマーリエさんが気付いたことの一つ目は

『2の倍数とは、2を何回も足した数だ』

という風に言い換えられます」

「……ふむ。2人で割り勘の部分を、2の倍数で置き換えた訳か」

「そこで問題! これは当たり前でしょうか!」

「え? 何が? 2の倍数とは2を何回も足した数だ、ってヤツ?」

「そうそう」


 エレーナ、その質問はちょっと意地悪成分が入っているんじゃない?


「ちょっと待ってね、考えるから。当たり前かと聞くからには当たり前じゃないところがあるのね」


 私ならどう答えるだろうか。さっきエレーナは、2の倍数とは2で割り切れる数のことと説明したようだけれど、1、2、3……という数(自然数というそうだ)に2をかけた数とも言える。それはつまり2を何回も足した数な訳で、これを当たり前と思うかどうかは人に依るんじゃないだろうか。わたしは当たり前だと思うけれど。


「……2の倍数は、2で割り切れる。かといって、それが2を何回も足した数かどうかすぐには分からない! だから当たり前ではない! どう?」

「ふむふむ、すぐには分からないと言いましたね?」

「え、ええ」

「じゃあ、すぐに分かるようにしちゃおう!」

「ええ……」


 アマーリエさんがぽかんとしている。というより半ば呆れているのかもしれない。エレーナが奔放なのは昔から変わらないが、教わる側からするとからかわれているように感じるときも無いことは無いのが正直なところ。いや、慣れればそれはそれで楽しいし、こちらが何か教えるときにこっそり仕返しして面白がっているからわたしはエレーナのことは言えないか。どちらにしろアマーリエさんがちょっと気の毒だ。いつか、アマーリエさんからも何か教えてもらうことにしようか。


 エレーナは、足元に置いていた背負い鞄から石板と白墨を取り出している。石板の左上の方に『□』と書いてから話が再び始まった。馬車の揺れのせいで少し歪んでいるけれど、まあ大したことじゃない。


「今、具体的には分からないけど、とにかく2の倍数であることが分かっている数があったとするね。2でも100でも10000でも良い。それをこう書くことにするね」

「……なんて読むのこれ?」

「……学校の先生はしかくって呼んでた」

「数を四角と呼んでいいの?」

「呼び方も、書き方も本当は何でも良いんだよ、しかくでもしかっくーでも。具体的には分からない謎の数ってことをあたしたちが共有できてれば」

「ふーん。じゃあしかっくーにしよう」


しかっくーになった。


「しかっくーは、2の倍数であることが分かっているから、2人で割り勘できる値段でもある。ここまでは良い?」

「いいよ」

「じゃあ、割り勘した後1人が払う分の値段をさんかっくーにしよう」


 エレーナは『△』をしかっくーの右隣に、1文字分隙間を空けて書き加えた。


「2人ともさんかっくーの分だけ払えば、合計がしかっくーになるの。しかっくーとさんかっくーの意味、伝わってる?」

「大丈夫大丈夫」

「それを数式で書くと、こうなるんだよ」


エレーナの石板に文字が加わった。出来た数式は、

□=△+△

というもの。


「この二重線の記号とか、ここの『たす』の記号とか見たことある?」

「それは見たことある。お金の計算を女将さんに習ったとき使ってたから。でも、普通は左右逆じゃない?」


と言って、エレーナから白墨を借りたアマーリエさんが「さんたすさんは、ろく」と呟きつつ

3+3=6

と書いた。エレーナが答える。


「『ろくはさんたすさん』でも意味は変わらないよね?」

「まあ、そうか」

「この二重線の記号は、左にあるものと右にあるものが同じっていう意味だから、左右の順番は本当は関係ないんだよね。今回しかっくーが左に来てるのは、しかっくーが先に話に出てきたからってだけで」

「なるほど」


エレーナが一呼吸置いて、話は続く。

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