『ある晴れた日』
日曜日に近所の公園で煙草を吹かすのが自分のささやかな楽しみだが、別に煙草がそれほど好きな訳でも無い。理由は別にある。
公園のベンチに座って本を読んでいると、ある女性がやって来る。
「こんにちは。今日も良い天気ですね」
彼女は笑顔で微笑みかける。その傍らには6歳ぐらいの女の子。
自分ははにかみながら会釈をする。
これで会うのは7回目だったか8回目だったか。
その女性とどうでもいいような世間話をしていると、女の子がじっと自分の顔を見つめてこう言う。
「このおじちゃん、お母さんに似てる!」
一瞬、場の空気が固まるが、所詮は子供の冗談。すぐに何事も無かったように時間は進む。
「じゃあまた。ほら、行くわよ!」
女性は子供の手を取り、会釈して立ち去る。子供は怪訝そうにこちらを見ている。
俺はまた煙草を吹かす。記憶。子供時代の記憶。児童養護施設で育った記憶。妹がいた記憶。妹と自分は別々の夫婦に引き取られ、病弱な妹はその後病気で亡くなった。
“それは本当なんだろうか?“
そんな考えが頭をよぎる。だがもうどうでもいい。終わった事だ。妹は死んだ。6年前に。