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虚ろのロトル-SP  作者: 干物人間
1/1

奔走従者

※当作品は同作者の別作品『虚ろのロトル』のサブストーリーとなっております。つきましては、本編『虚ろのロトル』第3話(第3部分)までの読了を推奨しております。




虚ろのロトル本編URL↓

https://ncode.syosetu.com/n1699ex/

暖かい…。鳥人族が暮らす都市・フォウゲン。その街中には異色と呼んで過言ではない程に華美な花公園が存在する。赤、白、黄色、橙、紫、色とりどりの花々は目に痛いほど多彩であるのだが、眩しい太陽の下でそれらが見事に調和した姿は壮観であった。当然ながら、都の中でも高い人気を博す観光地で、鳥人族ではない人々の方が多いくらいだ。


湿気も少なく、カラリとした気候にも関わらず運河が近い為水には困らない。そんな鳥人族の国は、他を知らない私が言うのもなんだが豊かなのだろう。ただでさえ裕福な家庭に生まれたので、その感覚が正しいものか二度(ふたたび)疑問に思った。こんなにも美しい庭園で優雅にも日向ぼっことシャレこんでいるというのに、胸の中にしこりが残るのは、つい今しがた、屋敷を飛び出してしまったからだ。自分が感情的で、わがままで、何より()が正しいことなんてわかっている。しかし、正しいからこそ尚のこと腹が立つことだってあるのだ。…なんて傲慢だということもわかる。であれども私はどうしようもなく彼を諦められないでいた。


「はー、もう、グリンのバカー!今どき"別婚(べつこん)"なんて珍しくないじゃないの」


シチメンチョウの少女は顔をくしゃりと歪ませて不満を放つ。同時に背伸びをひとつ。


余談だが別婚というのは同種族であっても子の生まれない者同士での結婚のことを指す。正式名称は生殖(せいしょく)不可(ふか)婚姻(こんいん)といい、俗に別種(べっしゅ)結婚とも呼ばれる。別婚は後者の略称だ。異種族間での差別的な意識が薄れた今日(こんにち)では、正式な婚姻ではないものの家庭を築くケースも増えてきている。


「バカって言っちゃダメだよ?」

「ひゃい!?」


そんなどうしようもないくらいの独り言に、気の抜ける様な反応があったことで少女は驚いた。どれくらい驚いたかといえば腰掛けていたベンチが地面に固定されていなければひっくり返っていた程だ。


「お姉さんびっくりした!」

「ええ、や、もうほんとびっくりしましたけど。…変なことを聞かせてごめんなさい」


令嬢として身につけたとっさの社交性に内心感謝する。何を今更、という気がしなくもないが……。そこに立っていたのはカラスの青年だった。そう、青年なのである。あどけない印象を与える口調であった…いや、正直な話をするともはや幼児そのもののような口調だったのだが、目前に居るのは紛うことなき青年だ。当然、少女よりも大きな身体で肉付きも男性のそれに違いはない。


「なんでボクに謝るの?」

「なんでって…ええと」


ううん、どうもやりにくい。どこかおかしいんじゃないの?と考える私は狭量(きょうりょう)だろうか。ただ純粋なだけなのかもしれない。


「酷い言葉を言ったら、言った人にごめんなさいって言わなきゃなんだよ」


やはりどこかおかしいのかもしれない。だが、その純粋さには嘘も偽りもなく、ネガティブで刺々した心もあっさりと毒気を抜かれてしまった。


「ふふ、そうですね。でもその人は今ここにいないから、後で謝ることにします」


そう返すと、カラスの青年は目を細めて、やはり無垢な笑顔を作った。


「じゃあね!お姉さん」

「ええ、また会いましょう」


そうして青年は振り返りもせず蛇行するような足取りで駆けていった。後ろ姿を目で追いかけ、フラワーアーチをひとつくぐった先で待っていたカラスの大人2人に連れられてその場を後にした。


「やっぱり変な子よね」


シチメンチョウの少女、ミレディ・クラティはつい可笑しくなってクスリと笑ってしまった。




※※※




「どこにいったのやら…」


ハヤブサの青年グリンは主人であるミレディを探してさ迷う。ミレディが屋敷から抜け出すのは初めてのことではない。そもそもミレディは外出に厳しい制限を課せられていない為、行動力のある彼女は気分次第で家を飛び出してしまう。探しに行ってみても先に屋敷の方へ戻っている。なんてことも珍しくなかった。そうこうしているうちにある程度の行動パターンは知れたつもりでいた…のだが今回はそのどれを当たっても見つからないのだ。彼女であればいつも同じ場所でないことにも納得してしまう。そういうお方なのだ。


なぜこうなったのかといえば、ミレディがグリンに求愛したことが原因である。……少々端折りすぎたようだ。求婚する、ということは当然婚姻を前提の付き合いを求めてきたわけだ。要するに(つがい)になりたいと。……つまりそういうことなのだ。唐突にミレディの胸中を打ち明けられたグリンはしどろもどろになりながらも、「大変嬉しい申し出ではありますが、それでは大恩ある旦那様に対して仇を返すことになります」といった(むね)で丁重にお断り申し上げたところ、腹を立て部屋を出ていかれた。そのうち屋敷から姿を消していたのだ。



そもそも、ミレディとグリンの関係を話す必要があるだろう。グリンはハヤブサとして生まれたことから並の鳥人族よりも強く育つことが確定していた。圧倒的な素早さとそれを可能にする脚力、そこから繰り出される蹴りは破格なものだ。そういった理由でグリンは幼い頃からミレディのボディガード兼傍付(そばつ)きの使用人として働いていたのだ。


母は物心つく前に亡くなった。元々身体が強い方ではなかったようだ。父は同じくクラティの屋敷に仕えており、10歳になった頃、今の仕事を父から提案された。強要する気はなかったようだが、自らの仕事に誇りを持っていた父はグリンがしっかりとした人間になれるようにと責務を持たせたかったのだ。当時のグリンはといえばその提案の意味を理解していなかったのだろう。右も左もわからず、始めのうちは何も上手くできなかったが、次第にミレディのことを妹のように思い始めた。もちろん、使用人としての節度を保ちつつではある。


そうして時は流れ、グリンはミレディに想いを寄せられていることにも薄々気づいていたのだが、それに応えるわけにもいかなかった。何より、グリンはミレディのことを愛していたが、その愛情は家族に対する愛であったのだ。であるはずだったのだが。


ようやくミレディを見つけた。真っ黄色に染まった花壇を背にカラスの青年と楽しげに会話しているのを認める。腹の奥が熱くなった。熱いのに、冷えたような感覚でもある。気持ちの悪いものがこみ上げてくるのを必死に抑えた。


間もなくしてカラスの青年は去っていく。ミレディはその姿を最後まで見つめていた。グリンは落ち着きを取り戻すために一度大きく深呼吸。意識を切り替えることで何も知らない顔でミレディを見つけたことにする。


「こんなところにいらしたのですか、ミレディ様」

「グリン!…う……、さっきはごめんなさい」


ばつが悪そうではあるものの、素直に謝罪を口にするミレディに驚いた。本来ミレディは気さくではあるものの強情っ張りな面もある。ことここに至る経緯もその気質が関係していると言えるだろう。この短時間で何が彼女を変えたのかと、グリンは深く考え込んでしまった。しかしそれを表に出すことは許されない。


「お気になさらず。心を落ち着かせるのにこの美しい庭園はさぞ適していたことでしょう」

「ええ、それもあるけれど可笑しな人と会ったのよ。子供みたいなカラスの人!なんだか怒ってるのが馬鹿らしくなっちゃった」

「はは、それは私も感謝せねばなりますまい」

「あのねぇ、私はまだ諦めてませんからねー」


いつもの強気なミレディにどこか安堵してしまったが、それを悪びれる程の余裕をこの時は持ち合わせていなかった。




※※※




ミレディは家を開けることが増えていった。クラティの教育方針として、ミレディはいくつかの約束を守るのならあとは自由にしてもよいのである。この自由な方針は傍付きであるグリンでさえも、ミレディがひとりがいいといえばまかり通ってしまうのだ。フォウゲンは比較的治安の悪くない都市である。滅多なことはそうそう起きないが、万が一というのはどこにでも転がっているものだ。そのためグリンは、ミレディがひとりで外出する時こそ気が気でなかった。その頻度が、ここ1ヶ月ほどで増えているのだ。


理由はわかっている。プライベートを侵すつもりはない。ただミレディにそれとなく聞いてみれば、あっさりと答えたのだ。


「ミレディ様、最近おひとりでの外出が多いようですが、なにやらお気に召したことでも?」

「んー?えっとね。前に庭園に行った時カラスの男の子のことを話したじゃない?」

「ええ、記憶に新しくございます」

「どうもその子、よくあの庭園に遊びに来るみたいで、最近は時間をあわせてお話してるのよ」

「………」


思考が止まっていた。話術というのは使用人としてもある程度必要な能力である。長年培ったそれらが、文字通りなんとも言えない暗い感情に塗りつぶされていたのだ。


「グリン?どうかしたの?」

「あ、ああ、いえ!ミレディ様が男性のご友人を持つのは珍しい事だと思いまして。大変喜ばしいことです」

「なんか癪に障るけど、まぁいいわ」


ミレディは大袈裟な仏頂面でそう言い残し、侍女達を連れて湯浴みに向かった。


これでいいじゃないか。生殖不可婚姻であることに変わりはないがその相手が俺でなくて済む。旦那様はお心の広い方であるし、互いが望めばそれも許してくださることだろう。しかし、その相手が俺であれば旦那様だけでなく、父にも顔向けができなくなるのだ。それに、ミレディは自分にとって妹のような存在だ。この薄暗い気持ちは、兄として妹を渡したくないという気持ちに違いあるまい。


長々と自らの落とし所を見つけ、言い聞かせる。今はグリンにも整理する時間が必要なのだ。




※※※




「ダメだ!」

「なんでよっ!」

「私は別に相手がカラスだから認めないのではない。しかしあのモンテグストの息子であるというのであればそうもいかん!」

「彼のパパは関係ないでしょ!?」


ミレディと旦那様の言い争いの発端は、ミレディがボーイフレンドを屋敷に呼びたい。と申し出たことだった。始めは旦那様も乗り気であったが、相手の名を聞いた途端、態度は一変した。相手の名は"フラック・モンテグスト"モンテグストといえば、大手商会を取り仕切るトップの名だ。それだけであれば旦那様にとってはただの巨大なライバルに過ぎなかったのだろう。しかしモンテグスト商会には様々な黒い噂があったのだ。ミレディがそれを知る余地はなく、なぜこれ程までに旦那様が反対するのか理解できないのも無理はなかった。旦那様も娘の手前そういったことを伝えることができずにいるようだ。


「もういい、この話は無しでいいわ!」


ミレディは肩を怒らせて出ていってしまった。


そうした言い争いは幾度かにわたって行われた。今度は旦那様自身からミレディに対して手を切るように説得を始めることが原因となる。旦那様もミレディの意見を尊重したいという気持ちがあるため、あまり強くは出れず、仕方なく「カラスはそもそも最低の奴らだぞ」等と言ってはみたものの、寧ろそれこそがミレディの反感を買ってしまった。


ある日、最早毎度のことの様に口論の(すえ)屋敷を抜け出したミレディがとうとう帰ってこなかったのだ。今までどれだけ泣きじゃくってもミレディは門限を守ってきた。そのミレディが帰らなくなったことで屋敷は大騒動だ。すぐさま屋敷の者達で代わる代わる捜索を続けたが一向に見当たらなかった。ミレディが失踪してから3日がたったある日、治安維持隊に捜索願を届け出るしかあるまいと諦めかけたそんな時に1通の手紙が届いた。


『親愛なるクラティ様へ


おたくの娘さんは息子と仲がよろしいようだ。大変喜ばしいことでございます故、記念に商談を1つ提案いたしたい。興味があるようであれば20日の夜7時にカナリアレストランで落ち合いましょう。


旧友モンテグストより』


紛れもない脅迫である。どの面を下げて旧友などと(のたま)うというのか。これには温厚な旦那様も激怒した。使用人も皆義憤に駆られ、すぐにでも訴えを起こすべきだという声が上がった。しかし時間が経つにつれそれぞれは冷静になり、ミレディが囚われている以上迂闊なことは出来ないのだと悟る。


「仕方あるまい。業腹なことだが、行かねばならん」


旦那様は使用人達を宥める目的で自ら申し出たのだろう。長く勤め続けているグリンは彼のこういった姿には度々驚かされてきた。




※※※




それから1ヶ月弱、再び事件が起きる──と言うよりも、ここ最近は事件に次ぐ事件の連続であった。


モンテグストからの脅迫により、クラティ商会は違法なドラッグの販売を迫られたこと。そのドラッグを夜に出回らせないめに、自力で人手も予算も捻出し偽のドラッグを作り出したこと。商会総出で皆が多忙な中、旦那様が人族の国へと前々から予定されていた出張を余儀なくされたこと。そしてこの度、その旦那様が賊に拉致監禁を受けた末に特別(とくべつ)監査員(かんさいん)に救助されたのだという。


「旦那様!お言葉ですが、屋敷に監査員を呼ぶのは危険であります。聴くところによると、彼らは監査だけでなく治安維持隊相当の捜査権限を持っているそうではありませんか!」

「グリン、言いたいことはわかるがこの恩は必ず返さねばならん。もしあのまま私が戻れなければ、ミレディどころか間違いなく商会そのものが解体していた!」

「しかし、何も今すぐやらねばならぬことでもありますまい!」


クラティは腰掛けていた椅子の肘掛に目を落とす。その仕草からはどことなく哀愁のようなものが感じられた。


「お前には言っておこう…。確かに、リスクは存在する。だがこれはむしろ、彼らの前で身の潔白をアピールするチャンスでもあるのだ。偽の卵を売り出して2週間にもなる。足取りをつかみかけられていてもおかしくはない」

「……」


彼は律儀で誠実な人間だが、こういった打算ができない人間ではなかった。狡猾な面も持ちながら、根っこにある人柄でこれまで商談を成立させてきたし、そこに野心はあれど悪意はないのだ。


「お前のその沈黙が何を意味するかもわかる。私も恩人に対してこのような(たくら)みを抱くなど情けなくてならん。だとしても、私たちには時間が必要だ。これはその時間稼ぎへの布石だと……。わかってくれ」

「……承知しております。さぞ切迫したご決断であったことも理解致しました」

「ああ、グリン。本当にすまない…。使用人としても、友人としてもミレディの1番であったお前にこれほどまで苦労をかけることになろうとは……」




※※※




ここに閉じ込められてどれだけの月日が経ったのだろう。ミレディは天井の暗い角を見つめて考えた。地下に監禁されたため、昼夜の感覚が掴めない。幸い、日に3食の食事が運ばれることでそれもある程度は予測がつくのだが、いつの間にやら数えることを忘れていたのだ。ふと、足音が聞こえた。先の食事からはさほどの時間が経っていないはずだ。となれば──


「やぁ、ミレディくん。調子はどうかね」

「……悪くないわ。気分は最低だけどね」

「ああ、辛い思いをしているだろうとも。しかしわかっておくれ。私にも余裕がない」

「……」


現れたのは肥えたカラス、モンテグスト本人だった。言葉の割に表情からは嫌味なものを感じる。父が彼を嫌悪していたのは、こういったことが理由だったのだろうか。


「君も知るとおり、我が子は障害を抱えている。私としてもこんな手荒なことをしたくはなかったのだが、私自身君を気に入ってしまった。是非フラックと番になってほしい!」

「フラックは素敵だと思うわ。でも私も彼もまだそこまでの関係じゃない。それなりに彼に惹かれたこともあったけれど、それもあなたのせいで台無しよ」


ミレディは言いたいことを言う娘だった。モンテグストも一瞬目を丸くしたがすぐに表情を作り直す。


「ああ、本当にすまない。しかし、私もここまでした手前退くに退けなくなっている。手段を選べる状況ではないのだ」

「……」

「君が応じてくれなければ、不本意ながら私は君のパパの悪行を報告するしかない。おかしいとは思わないかね、例えば君が8歳の頃だろうか?彼の商会は困窮していた。産業は急速に移り変わる。ベストセラー商品だろうといつの間にやら淘汰されてしまうのだ。当時クラティ商会はその波に晒され危機に瀕したが、そこからたちどころに復活してしまった。何故か!法を無視してでも利益をとったからだ。自らの妻…君の母君のパイプで王族の力を借りてね」

「やめて!パパがそんなことするはずないじゃないの。そんなの真っ赤な嘘よ!」

「信じるか信じないかはもちろん自由だ、それでどうなるかの保証はできんがね」


大仰に手振りを加えて見せるモンテグスト。大粒の宝石の埋め込まれた指輪が干渉して音を立てた。カラス種が光り物を好むといううわさが本当なのか、ただの成金趣味なのかは定かではないが、それに気を引かれたミレディは少し冷静になった。


「では、私はそろそろ出かける予定があるのでね。結論はできるだけ早めに頼みたい。つぎは前向きな回答を期待しているよ」


モンテグストの真っ黒な身体が闇に紛れる。コツコツという足音だけを残して。




※※※




例の特別監査員が来訪した。ひとりは年端もいかぬ少年で、カッターシャツにサスペンダー。目元まである真っ黒な前髪の下に覗く瞳も、これまた黒だ。さらにもう1人、屋敷の高い天井にも頭をこすりつけそうな程大柄な体躯(たいく)に、岩のような筋肉を惜しげもなく露出した竜人。あまりに特異な組み合わせであった。


間もなくして、グリンは少年を襲った。給仕の加勢をしていたグリンだが、少年の問いひとつで彼を危険と判断したためだ。張り詰めすぎていた自覚もある。あらかじめ主人から聞かされていたことからも無謀であると理解はしていた。しかし、少年が姿を見た時、既にグリンは軽視してしまっていたのだ。竜人を下せるとは思わなかったが、少年の方を無力化した後は金を握らせてでも時間稼ぎをしたかった。


かくしてグリンは魔法使いであるはずの少年に、単純な体術だけで組み伏せられてしまう。不意打ちであったにも関わらず、床に伏せられたのが己であったのだ。グリンの軽率な行動で、全てが終わると思うと抵抗せずにはいられなかった。他の使用人達も戦闘態勢に入っている。しかしおそらく彼らには適わぬのだろう。


「やめんか!!」


クラティが叫びをあげた。一触即発の状況で、唯一トップの人間のみが()せる介入である。クラティはすぐに謝罪を述べた。監査員の2人も自衛以上の興味はないようで、すんなりと矛を収める。


クラティは全てを洗いざらい話した。ミレディが人質にされたことで脅迫により危険ドラッグを売り出したことも、ドラッグが偽物であることも。その上で監査員の少年は問題の解決に名乗り出たのだ。クラティもこれは予想していなかったようで、願ってもない話だと協力を惜しまない姿勢だった。


そうして、事件はようやく収束への第一歩を踏み出す。あまりにも大きな一歩である。




※※※




「フラック様、襟が乱れておりますよ」

「えっと、こうじゃダメなの?」

「後ろの方であります。前はそれで問題ございませんよ」


仕方なく襟を整えてやるハヤブサの青年。カラスの青年は素直に直立したまま静止する。


「服装は整えておいででも乱れることがございます。常にとは言いませんがゆめゆめ気を配ることが重要ですよ」

「わかった」

「すっかりお兄さんね」


シチメンチョウの少女がからかう。


「私は使用人にすぎませんよ」

「あら、その脚じゃもうしばらくは見習い程度のことしかできないんじゃないかしら」


包帯を巻き、松葉杖で支えられた右脚に視線が注がれ、思わず指で(さす)る。つい2週間あまり前の話。グリン本人がモンテグストの館へと乗り込んだ際、鉢合わせたハゲワシの傭兵との戦闘で負った怪我だ。彼女の言う通り、ボディガードとしての役目はしばらく果たせそうにもない。


「茶を淹れるくらいなら叶いましょう」


使用人ジョークとでも言うべきか。苦笑するグリンにミレディはクスリと笑った。


「そ、ならお茶にしましょう。フラックも座って」

「はーい」


ミレディは無事特別監査員2人の手によって救出。クラティ商会も難を逃れ、相対的にモンテグスト商会は完全に崩れ去った。その後、フラックは屋敷で面倒を見ることとなり、養子縁組として障害を持つフラックをクラティが引き取ったのである。これによりフラックはミレディの弟となったのだった。クラティ商会側にとってこれ以上ない幕切れである。


「フラック様も紅茶でよろしいですか?」

「やだ、フラック()なんて」


他にも変わったことが……あるにはある。


「あなたの義弟(おとうと)でもあるのよ?」

「……あまりにも気が早うございます」


ハヤブサの青年は困ったように目をそらす。頬が熱いのは蒸気のせいに違いない。

虚ろのロトル-SP第1話、無事連載開始となりました。


SP(笑)とちょっと自分でも気どりすぎかなと感じるところもありますがこれくらいハッタリが効いた方が良いと感じ、今に至ります。


こちらただでさえ不定期連載の本編"虚ロト"よりもさらに不定期の更新となっております。と言うのも、本編が進まないことにはこちらで描かれる主体となってくるものがありません。話数が嵩めばむしろこちらが追いつかなくなるとも思われますが、現時点ではそれもまだまだ先の話になります。


4話のあとがきでも触れましたがサブストーリーではスポットライトの向きをコロコロと変えることになります。補足の目的もありますが半分以上作者の趣味で書かれているため、話によっての温度差もあるかと思われますが、行き当たりばったりのためその辺り実は私もわかりません!なんにせよ、キャラクター達にはめいいっぱい動いてもらおうと思います。


あらすじ、前書きと散々注意書きがされていますが、改めてこちらの作品、あくまでサブストーリーであるため、本編で主だったシーンはむしろ端折られることが多々あります。前書きにて参照話数とURLを掲載し、事前に本編の読了を促しているのはそのためです。もちろんこちらの作品を先に読むことは自由でありますが、最大限楽しんでほしいなという願いから耳にタコができそうなほどしつこくなっています。ご理解の程を。


最後になりましたがここまで読んで頂いて本当にありがとうございました。これからも"虚ろのロトル"を宜しくお願いします!

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