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十六夜に落ちる  作者: 長文。
神殺しの軍
8/16

司令官と神様


 【神殺し】


 それは、この世界に落ちてきた神を裁き、看取ってきたものの名である。


 この世界・十六夜ができてから幾千年の時が流れたとき、十六夜には神の住む世界をつなぐ、それはそれは雲の上のさらに宙にまで届くような長い塔があった。


 それを通じて、神々と人々は交流し合い、十六夜の発展へとつなげていった。


 しかし、ある日、何者かによって、その塔は壊されてしまった。


 螺旋状に続いていた階段は粉々に砕け、落ちた塔の欠片は【虚言(シミ)】となり、十六夜に災厄として降り注いだ。


 そこで十六夜の人々は激怒した。


「神々の塔を壊せるのは、神しかいない!」


 そして十六夜にいた人々は、神を憎み、侮蔑し、天界へ閉じ込めてしまった。


 それでも半壊した塔から落ちてくる神がいる。


 神々を憎み、十六夜の発展を遂げようとする人間は、神の持つ本を奪い、その神を殺しはじめた。


 これが神殺しの、最悪な所以である。



――――――――――――――――――――



神殺しの門をくぐると、意外にもするすると建物の中に入ることができた美月とその一行。


途中で冷やかな視線を浴びることはあったが、後ろに控える戦闘部隊隊長・副隊長の顔を見て、通りゆく者は皆、美月が何者なのかを察していった。


建物の中を歩き数分、秘書の方なのだろうか、タイトなスカートに緑色の軍服、黒いネクタイを付けている。

そしていたって無機質な木の枠組みのラインだけが入った大きな扉の前で、こちらに向かって礼をして待機していた。


「――ようこそ、美月様」


「ようこそもなにも……無理やり連れてこられたんだけどね」


美月は苦笑いしながら、後ろにいる凶悪と噂の二人を親指でくいっと指さす。


「それは失礼いたしました。

こちらで最高司令官がお待ちです」


「さいこーしれいかん?」


美月は初めて聞いた言葉に、頭の上にはてなを浮かべては、秘書が言った言葉を繰り返した。

その様子に、留也が屈んで美月に耳打ちする。


「この国で一番偉い人物だ」


「 へっ?! この国で?!」


美月にとって最高司令官に会うということは、ゲームで言えば初期装備で挑んだ始まりのダンジョンでラスボスに出会うようなものだ。しかし美月は、


「ん? いや、おれの方が偉くないか?」


と、それどころかラスボスに悪態をつくほど落ち着いて、まじめな冗談を言うレベルである。

普通ならここではだしで逃げ出してもおかしくないが、最早さんざん騒いだ美月にとって、ここまで来たら行くしかないという気持ちの方が強かったらしい。


「君は肝が据わってるねぇ」


カイキに感心される美月は「いやぁ」と頭をかいて少し照れたが、留也がすかさず


「ほめてないからな」


とため息混じりに、照れる美月に苦言をさした。


そんなやり取りをしていると、門番のように左右で待機していた二人の軍人が、目の前の大きな扉を開け始めた。


「それでは、失礼のないようにお願いいたします」


秘書がそういうと、ギイイイという、重苦しい音があたりに鳴り響く。


 開いた先は天国か地獄か。美月にとって生死を分ける世界が、これから眼前に広がるのだ。




―――――――――――――――――――――




 「おや、これはこれは。可愛いお客人だ」



 扉を開けると、そこには緑の軍服にネクタイを凛々しくつけ、黒いコートをしゃんと羽織った、スレンダーで金髪サイドバックの男前……ではなく、クールな雰囲気をだたよわせた美形の女性であった。


「美月様をお連れいたしました。司令官」


「う、うおぉ……イケメン美女ぉ」


美月は司令官の、美しく気品のあるたたずまいに目がちかちかするほど輝いて見え、反射的に目をぱちぱちとさせる。


「伊勢隊長たちが連れてきたのか」


「はっ、サワロにて虚言の警備にあたっていたところ、【神の本】を使い、虚言を討伐した彼を発見いたしました!」


カイキは背筋を正し右手で敬礼をしつつ、美月と出会った経緯を司令官に報告した。


「そうか、あの信仰の厚いサワロでか……

大変だっただろう、ご苦労だった」


「お労り、感謝いたします」


カイキと留也が敬礼する。最高司令官に褒めて頂くということは、軍人にとって神に褒められることと同じなのだろう。自分の仕事に達成感を覚えると同時に、隊長のカイキにはなにか心の中でもやもやしたものが突っかかっていた。


「それでは我々はここで」


「あぁ、外で待っていてくれ」


秘書官が外に出ようと扉に手をかける。しかし、それを制止する声が、天井の高い部屋の中に響いた。


「待って下さい!」


去ろうとした秘書官と、それを促す司令官をカイキが言葉で止める。

意を決して言葉を発したのだろう。冷や汗をかき、拳は固く握られている。


「……私たちは彼を()()しました」


じっと司令官を見つめる、そのどこまでも深く青い瞳は、なにか含みを持たせた言い方を増長させた。


「あぁ、それで?」


「逮捕したわけではありません。なので、どうか彼を……」


カイキは美月の方を見やる。神様と言えど、13才くらいの幼い少年だ。

神殺しと言われる所以を知っているカイキは、この幼く無垢な少年が今、生死の境にいることに我慢ならなかった。

保護と言ったが、本当は嘘だ。カイキ達は美月を()()したのであり、身柄は半分軍にうつっている。つまり、司令官の意向によっては、美月は軍の好きにさせられてしまうのだ。

保護と言った方が、なにかあった時に外部から迎えにきたものを偽装すれば助けることができる。


カイキは美月と握手を交わした時に、すでに身を案じていたのだ。


「なるほど。君は優しい男だな、伊勢隊長」


全ての意図が分かっているのか、司令官は口元をふやかすように笑う。


「しかし、連れてきたのは君たちだ

そして、その命令に背かなかったのも、君たちの意思だ」


ふやけた口元から一転。目の奥に黒く渦巻くようなものは見えるほど、司令官の目つきは鋭く、そして残酷な言葉だった。

これ以上は話しても無意味だと判断したカイキは、


「……失礼いたしました」


と、いい残し留也と共に敬礼し、美月の方をちらりと一瞥してから秘書官と同じく退出した。



「さぁ、こちらに来てお話をしようか


美月殿」


「……」


一連のやり取りを見ていた美月は、(このイケメン美女、なかなか食えないな)と油断も命取りになることをしっかりと心に刻んでいた。


 部屋は広く、天井にはシャンデリアも付き、床には赤いカーペットがソファと客机の下に真四角に敷いてある。そして大きな文机の後ろにある一つの窓からは、この軍の中庭が一望できるようになっている。


美月は近くのソファに腰をおろし、すでに用意されていたグラスの水面を見つめる。


「さて、改めて自己紹介をしよう。

私がこの軍、【十隊衆(ジッタイシュウ)】の零番隊隊長、最高司令官

睦月だ。よろしく」


軍の最高司令官・睦月は黒い軍手袋を外し、美月に握手を求める。


「十六夜の神様、美月です。よろしく―― ……はしたくないかな」


だが、美月は一度上げたその右手をすっと下ろし拳を作ると、その握手を拒否した。

相手は神殺しの異名を持つ軍隊のボスだ。神である美月にとって、仲良くしてメリットなんてものがあるとは思えない。


「ははは、今の話を聞いてしまった後だからな」


睦月は拒否された握手は想定内だったのだろう。さほど気にせず話をする。


「あんたら、おれに何する気?

言っとくけど、こんなガキにたかっても何もないよ」


美月はソファに座ったまま、睦月の方を見やる。

睦月は対面に座り、硬いソファの上で足組をしながら悠々とした口調で話し始めた。


「そう警戒しなくていい。

それに、本当は子供という年齢でもないのだろう?」


「十六夜じゃ子供みたいなもんだよ。おれ、人間のことも世界のことも、なんも知らないし」


睦月と美月には生物として違うところがある。

人間か神か、有限の命か無限の命か。

神である美月にとっては、睦月のような成熟した女性も、年数を自分と比較してしまえば、生まれてすぐの赤子のようなものだ。


しかし、美月が十六夜に来たのはつい最近のことらしい。家族について知ったのも、あの砂漠の街の少女に出会わなければ、ずっと知らないままであっただろう。


睦月は美月の体を上から下まで、視線を気取られないよう素早く監視してみたが、神というにはほかの人間と大差ない。それどころか、自分より幼く、力もきっと軍にいるものに誰一人としてかなわないであろう。


「ふむ……、十六夜に相応の体で落ちてきたというわけか」


睦月は口元に指を滑らすように持っていく。

その仕草は色気とともに、どこか憂いげのある表情を醸し出す。


(……落ちてきた……ねぇ)


ふいと見た十字の格子が付いた窓から見える景色は、一面青空のように見えて、遠くの方は雲行きが怪しい。

まさに今の、この会談の空気模様を表しているようだ。


「美月殿、単刀直入に申し上げたい」


睦月は組んでいた足を外し、今度は膝の上に肘を置いて手を組み、口元の近くに持っていくと、その黄金色に光る目を美月から一寸とも外さず、まるで狙い抜くかのように見つめた。




「貴殿の持つ、【神の本】をいただきたい」




グラスに注がれた水は、ゆらりともせず、そのまま涼しげに佇んだままだ。



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