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十六夜に落ちる  作者: 長文。
神殺しの軍
7/16

戦闘部隊

 

 神様・美月は、顔を青白くし肩を小刻みに震わせ、黒目をプルプルとさせながら戦々恐々としていた。


砂漠の町で巨大な植物型の言霊を鎮圧させたのは数時間前。

スラム街にいた少女家族を助け美談となり、かくして脅威は去ったのだ。


さぁ旅を続けようと後ろを振り向けば、13才程度の美月にとっては巨人よろしく、身長190弱の金髪刺青男と、周囲にマイナスイオンでもふりまきそうな柔和な顔をした、優しそうな銀髪の青年が、お互い反する顔つきで美月に詰め寄ってきたのだった。


 そして時は戻る。

あれよあれという間に至ってしまったこの窮地。

美月はぐるぐると頭の中で、この三人乗った窮屈そうな馬車から、どうフライアウェイすればいいか。

ただひたすらにその小さな頭で考えていた。


馬車の行き先は知らず、ただガタガタと揺れるだけである。


「あ、あの~……」


この沈黙にたまらず口を開いたのは、奇しくもこの世界の神様である美月だ。


「お二人は、あの、どう言った方々で……?」


「……きゅ、救護部隊の方かなぁ?

おれを保護してくれたとかそういう感じ……じゃないよね……」


とにもかくにも、この重っ苦しい空気から逃れたい美月は、矢継ぎ早に話しかけ続ける。

しかしどんなに言葉を紡ごうが、目の前に鎮座する金髪の青年の目つきは鋭く、そしてなにより銀髪の青年の腰の鞘に収まった刀が、こちらを威嚇するように美月には感じた。


(こうなりゃ、イチかバチか……、窓にダイレクトアタックだ!)


美月は馬車についている窓の方をちらりと横目に見る。

しかしその視線に気づいたのか、この固い空気を壊してくれたのは、柔らかな顔つきの銀髪の青年であった。


「えっと……ごめんね。色々と驚かして。

僕は伊勢(イセ)カイキ、こっちの怖いのは覇雷留也(ハライリュウヤ)。よろしくね」


こちらの安心を情緒させるその屈託のない笑顔と、差し出された右手は握手のつもりだろう。


「あ、ハイ…… えっと、よろしく?」


差し出された黒い軍手袋に包まれた手と、自分の右手を重ねて握る。

この銀髪の青年・カイキとは、友好関係が築けそうである。

そして美月は、カイキの隣に座っている、腕組みをした愛想のない青年・留也の方を見やるが、


「……そっちの人は、おれ嫌いだからな!」


と、そっけない態度をとる。

そのわけも、あの砂漠の広場で初対面にもかかわらず、この世界の信仰対象であり絶対的存在の神様に向かって「子猿」と呼び捨てたからだ。

右手はカイキと友好関係を築いているが、顔は眉を吊り上げ、ジト目になり、留也に対して反抗的な態度をとっている。


「そりゃどうも、子猿さん」


しかし、留也の方は涼しげな顔をして腕組みを解かぬまま、二度目の「小猿」呼びを続けた


「おれの名前はみ・つ・き・だ!!!!」


その対応は美月の癪に障ったらしい。

これでもかというくらいに、はっきりと自分の名前を発音した。


「え? 君たち、会ったことあるの?」


カイキは、美月と留也の距離感が近いことに対して、茶化すような聞き方をした。


「猿の知り合いはいないな」

「こんなおっかねぇ巨神兵は知らないかな!!」


同時に2人が悪態をついて喋り出した。


「なんだと?」


「んだとごらぁ!!」


「えぇ、君ら仲良いねぇ」


初対面にも関わらず、ここまで言い争いができるのは、もしかしたら2人の相性は良いのかもしれないし同族嫌悪とかいうやつなのかもしれない、とカイキは阿鼻叫喚になりつつある二人を見てそう考えていた。


「とにかく! 君、美月くんの現状についてお話したいんだけど…」


「ふぁい」


狭い馬車の中にも関わらず言い争いに対して終止符をうとうと、カイキは2人の間には入り、話を本題へと戻そうとした。


「君は今、僕たち()()()()に、拘束された身柄となっています」


「……へ?」


美月の体が石のように固まる。


「今、き、聞こえなかったなぁ? 救護部隊の間違いじゃ……」


()()()()、です」


ここで美月は、砂漠の街の食堂で言われた言葉を思い出した。それは、



「戦闘部隊には気をつけろよ」

「女子供にも容赦ないぞ」

「俺の仲間も帰ってこねぇ.....もしかしたら...」



と、いう刺激の強い言葉の嵐だ。


一瞬にして美月の脳に雷が落ちたような衝撃が走る。



「……い!いやああああああぁぁ!」



狭い馬車の中で、美月の悲鳴が轟き叫んだ。


「死にたくない、死にたくないぃ!

まだ美味しい物も食べ足りないし、本当の恋も知らないのにいいいいぃ!!」


「何言ってんだこいつは。窓から引っぺがせ」


「わー! 待って! なんでそんな怖がるの?!」


ばたばたわたわたと破茶滅茶になる馬車の中で、美月は馬車の窓から体を乗り出し逃げようとするが、向かいに座っていたカイキが美月の腰を捕まえて、小さな体が窓から飛び出さないよう必死に足を踏んじばって掴んでいる。


「だって! 捕まえたら拷問して! あんなことやこんなことする気なんでしょ?!」


窓からすぽんと体を抜かれた美月は、情けなく目を潤ませ鼻水を垂らし、軽く腰を抜かしながらカイキにキャンキャンと吠えている。


「そんなことしないよ!」


「前の隊長ならやりかねないな」


「留也!」


「ひょぎぇえぇ!!」


留也の余計な一言により、さらに場は混沌と化していく。これをカオスと言わずなんと言うのだろうか。


「あのね! 僕たちはその本を持つ君自身に用があるの!

だから! 君の身は保証する! 必ず!!」


カイキは美月の肩を力強く掴み、一度落ち着かせるために椅子に座らせる。


「でもでも……! マエノタイチョ―って人はいないの?」


まだ混乱の続く美月は、前隊長をマエノタイチョーという、なにやら拷問に特化した改造人間を想像し始めた。


「前の隊長はもういないよ。

今の隊長は僕だからね」


「へっ?!」


美月は隊長という言葉に驚き、腰を落ち着かせた椅子の上でさらにぴょこんと小さくはねた。


「あ、あんたが隊長? !

ってか隣の……、巨神兵の方がよっぽど隊長っぽいけど!」


まだ留也にたいして喉のつっかかりが取れないのか、素直に名前は言わないが、見た目の威圧感で戦闘部隊隊長という肩書きを背負っているものと勘違いしていたらしい。


「巨神兵は不本意だが、隊長はよく言われる。

俺は副隊長で、カイキの補佐役だ」


留也がそう言うと、胸についた副隊長の軍章がきらりと光った気がした。


「……僕、そんなに隊長に見えないかなぁ……?」


片や落ち込んでいるカイキは、これまたよく言われることなのだろう。青い瞳に色白の肌、どこか中性的で整った顔つきのカイキは、見た目では血生臭い戦闘部隊などではなく、ナイチンゲールよろしく救護部隊を先導をしているようにしか見えなかった。


「正直フェンス守ってるだけの人かと思ってた」


「失礼すぎるでしょ」


美月は意外な事実により、先程までの大慌てぶりはどこかへ飛んでいったらしい。肩の力を抜き、足を広げ全身の固く結んだ力を解放したかのように一気にだらりとした体勢になる。


「まぁなんだ……へへっ

おどかすなよぉ、んふふ~ びっくりして損した!」


鼻の下を指でこすり、緊張感がどっと抜けたからか、美月の顔にはまだ少し冷や汗が残っていた。


「なめられてるぞ、おまえ」


「……はぁ、怖がられるよりはいいよ」


留也はドンマイと慰めているのか、カイキの背中をぽんっと叩く。そしてどっと力の抜けたのは美月だけでなくカイキも同じだったようだ。

肩を一瞬だらんとさせるが、すぐに深呼吸し、自分と場の空気を整え始めた。


「とりあえず落ち着いて。

僕たちは、君に危害を加えることはしない」


「しない」


美月がカイキの言葉を反芻する。


「君を軍本部に連れていく」


「連れていく」


「そこで、一番偉い人に会ってもらう」


「会ってもらう」


「そして殺す」


「ぴぎゃあああああぁ!!」


またも馬車内に美月の悲鳴が充満し始める。

阿鼻叫喚の図とはこのことだろう。


「留也!!」


「おもしろいな、この子猿」


「君はもう黙ってて!」


留也は完全に美月をおもちゃとして楽しんでいるらしい。しかし、生死のかかったこの場でそのジョークは笑えないと、カイキは留也に怖い顔をして怒る。


すると、ガタガタと揺れていた馬車が急停止した。

急停止の勢いにより、美月はだらんと力を抜いていた体勢のせいで椅子からずり落ちそうになる。


「着きました。降りてください」


御者が馬から降りて馬車の扉を開いた。どうやら一悶着やっているあいだに目的地についたらしい。


美月は(ついに来てしまった……)と震えながら恐る恐る降りる。



眼前に広がるのは、青い空に白い雲。

そして、まるで中世の城のような、白を基調にした建物。しかし、その前にはそりたった堅牢としたレンガの壁が立ちはだかり、さながら要塞という名が相応しい。



「ここがこの国の軍、通称【神殺しの軍】だ」



留也は美月の隣に立ち、改めて自分たちの所属する軍--極悪非道と噂の戦闘部隊が所属する軍を見つめる。


「……おれ、どうなっちゃうんだろう……」


美月は長細い軍部を見ては、もう逃げられないことを察し、どうか生きて帰れますようにと手を合わせて願いつつ、神殺しの門をくぐった。


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