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十六夜に落ちる  作者: 長文。
神様の本
6/16

家族と向日葵


 虚言(シミ)から発せられる光は、真っ赤な太陽の光を一瞬だけ越えた。

その光景を見ていた群衆と少女は空を見上げ、あんなにも暴れ回っていた巨大な植物の妖怪が、跡形もなく消えたことに、ただただ口を開けて見ているしかなかった。


するとどこからやってきたのか、空からはあざやかな山吹色の花吹雪が舞い始める。


そして虚言が暴れていた広場には、花びらが舞い落ち、その地面から太陽に負けないほどの大輪のひまわり達が、砂漠の暑い日差しを見つめるように花咲きはじめた。


「すごい……」


「ひまわり畑……?」


「そういえばここ……ひまわり畑だったよな」


「デモ活動ですっかり忘れてたよ……」


群衆は先程の喧騒を忘れ、ひまわりの明るい花びらの色と優し気な香りの花吹雪に包みこまれている。


「あの力は……」


その様子を広場近くの建物の窓から身を乗り出して見ていたのは、金髪に緑色の軍服を着た青年だ。

すぐに耳に装着している通信機に手を当て、相手に何か話しかけ始めた。





 一方変わって、スラムの少女のもとにも太陽の欠片のような花びらが、手のひらにひらりと吸い込まれるように落ちてきた。


「綺麗だな.....」


これが虚言を倒したことの成果なのだろう。やはりあの栗毛色の髪の少年を神様と信じてよかった、と心から思いつつ、弟はあのスラムで今頃目を覚ましているだろうかと思い馳せた。

そうだとしたら、昔二人で遊んだこのひまわり畑の花びらだけでも持って帰って見せてやろう。きっと喜ぶに違いないと思い、少女は後ろを振り向いて歩き出した。


すると目の前から見覚えのある人物が、こちらに向かって手を振って走ってくる。


「姉ちゃん!!」


「ヒロ!!」


その人物は色白の肌を日光に照らし、息を切らしながら走ってきた。それはまさしく、あのスラムの地面に今にも死にかけていた少女の弟であった。


「お前! 体は大丈夫なのか?! 具合は?」


「平気だよ! ほら!」


あんなにも青白く息も絶え絶えで、今にも死んでしまいそうだった時とはうって違い、元気そうにぴょんぴょんと体を跳ねさせる弟は快活そのものであった。


「そうか、よかった.....! よかった.....!

死んじゃうかもしれないと思ったんだ.....!」


少女はたまらず、自分より一回り小さい弟の背中に腕を回し、しっかりと抱きしめた。弟の鼓動がどくどくとはっきりと感じたことに、さらに少女は安心し、思わず目から涙をこぼした。


「あんたら、無事だったか!」


抱き合う少女とその弟に駆け寄ってきたのは、先程の虚言(シミ)との戦いで見事に打ち勝った美月だった。


「ありがとう……!

あんたは、私たちの恩人だ……!」


少女は目に涙をいっぱいに溜め、ひまわりのは何も負けないほどの満面の笑みとともに、美月に感謝の意を示した。


「そんな、照れくさい!

いや、やっぱもっと言ってくれ!」


美月は初めて見た少女の笑顔に、顔を真っ赤にしながら、照れ隠しに手をブンブンと降る。


空からはまだ山吹色の花吹雪が舞い、目の前で肩を抱き合いながら、お互いの再会に心から喜ぶ少女と弟を祝うようにオレンジの光がはらはらと舞っている。



「.....家族って、いいな.....」



美月はその光景になんだかとても心温まり、そして美しく思った。この砂漠での出来事は一生忘れまいと、固く心の中で誓う。


「さぁて、それじゃあ

そろそろお暇しようかな」


「もう出るのか?」


「ああ。長居するには騒ぎすぎたからな」


美月はひまわりが咲く広場の方で、何人かがこちらをチラチラと見ては噂話のように「神様」という言葉を口にしていることに気づいていた。

もしもこのまま捕まって、この地の神様として見世物にされてはたまらない。美月はそうそうに退散することに決めた。


「それじゃあな!」



「待ってくれ! 

どうして神様が、この街なんかに来てくれたんだ?」


少女は去ろうとする美月の後ろ姿に声をかける。

確かにこの街はデモ行進をするほどに神への信仰が厚いが、だからと言ってその願いを聞きつけてきたわけではなさそうだ。少女はその疑問を美月にぶつけると、一瞬空気がピリリと変わった。


美月はふっと振り向くと、いつものおちゃらけた目を真剣に据えて答えた。



「――探してるんだ、人を」



その目はどこか寂しげなような若干の憤りがこもったような目にも見えた。


「そうなのか。

そいつがあんたの家族かなんか知らないが、見つかるといいな。神様!」


神様、と呼ばれて美月は足を止めて振り返った。


「神様じゃない。

おれの名前は、美月だよ!」


この家族には自分の名前を覚えていてほしいという名残惜しさがあったのか、神様という呼び名を否定し、自ら名前を告げた。


「あぁ、そうか。

あんたも私の家族だよ、美月!!」


少女と美月は嬉しそうに、にかっと歯を見せて笑い合うと、ひまわりの咲く広場を後にした。


「さぁーて!!

旅の続きをしようかなーっと!!」


ぐーっと背を伸ばし、体の調子を整えると、急に自分の体が陰った。


「そこの小猿。ちょっと話がある」


「はぁ?! 誰が小猿.....!


.....へっ?!」


失礼な言葉で呼び止められて振り向くと、そこには金髪に雷の刺青を頬に入れた、背が高くガタイのいい青年と、フェンスの扉を守っていた、あの優しそうな銀髪の青年が太陽を影にして、美月を見下ろしていた。


「ご同行願えますか、()()


砂漠のひまわりの花吹雪は、名残惜しそうに止みつつある。きっと、美月の髪についたひまわりの花びらが、最後の花びらになるのだろう。


最後の花びらは風に飛ばされひらひらと、美月よりも先に大空へと旅立ってしまった。





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