夜に耽ける
小窓から覗く風景は、夜空の月明かりを浴びながら天に突き刺さり、黄土色にポッカリと穴が空いた、神々の塔であった。
「あれが、神々の塔.....!
やっと見つけた.....!!」
窓に手を貼り付け食い入るようにその塔を見る美月は、口角を上げ冷や汗にも似たしずくを頬に伝わせた。
「美月殿の探し物とは、あそこにあるのかな?」
「そうかもしれない。
なぁ、おれをあそこまで連れてってくれよ!!
今すぐにでも行って、確かめたいことがあるんだ!!」
美月が隣に立つ睦月を見上げて懇願する。
しかし睦月は冷静なようで、美月の前にしゃがみこむと、そのすらりと伸びた人差し指を美月の唇にすっと当てた。
「慌てるな」
「あそこは塔の欠片である虚言が、昼夜問わず落ちてきている危険な場所だ」
「それに今は行かずとも、明日必ず行くことになる」
「はぁ? 危険な場所に行くなって言っておいて、明日行くってどういう事だよ」
塔の欠片は虚言へとその姿を変貌させるため、こうして話しているあいだも窓から見える塔は少しずつ欠片を散らして、虚言を生み出している。
睦月の矛盾した話に指摘した美月は、目を睨ませていたが、その間に睦月が口を開いた。
「明日、あの塔の地下で審問を行う」
「!」
「地表には虚言がうぞうぞいるからな。
地下通路を設置して、講堂を建てた」
「神への審問はそこで行われ、儀を開いた後に刑は執行される」
睦月はそびえ立つ塔を見ながら、手を後ろに組み、無情なる明日の予定を告げた。
「あそこで、おれの生死が決まるってのかよ.....!」
握りしめた拳をさらに強く握る。
神に一番近い場所で、神の生死が決まる。
自分の爪が手のひらに刺さるほど、その思いは悔しさと苦々しさで混沌としていた。
「美月くん.....」
その様子を見たカイキが、美月の肩に手を伸ばしかけるが、自分は軍の人間側だ。手を差し伸べるだけ、彼を辛くさせてしまうと思いとどまった。
「くそっ! やっと掴めた手がかりなのに!!」
この軍に易々と捕まってしまったのが仇となった。
正直、捕まった瞬間は恐怖と共に、軍とはどんなものかという興味があった美月は、その時の自分を殴りたい気持ちでいっぱいになった。
まさか明日、自分の生死が決まることになろうとは思いもしなかったのだから。
「.....今日はもう夜も遅い
皆帰って、明日に備えなさい」
――――――――――――
「あぁ、美月殿」
薄暗い表情で会食場の扉を背に向けると、睦月は手をこいこいとさせ、美月を呼び止めた。
「美月殿は私と来てくれ」
「.....また監禁でもすんのか」
「もうあんな無礼は働かない、安心してくれ。
今回は寝床を用意してある。それに風呂もな」
「.........」
美月は今回のことで体のそこらじゅうを汗であったり埃であったりとそれもう汚れに汚れている。
そこに柔らかい布団と暖かい風呂という言葉を出されては、魅了されても仕方ないだろう。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
明日は結局、有無を言わさず審問されるのだ。
これ以上の被害を浴びることはないだろうと美月は判断して言葉を返した。
「あぁ、存分に甘えてくれ」
にこりと目と口に弧を描いた睦月は、その小さな美月の手をはっしと捕まえ、長い廊下を歩き始めた。
「な、なんだよ! 引っ張るなよ―!」
「まずは風呂からだな。ゆっくり疲れを癒してくれたまえ」
はっはっはと笑いながらずんずんと進んでいく睦月に、引きずられるように連れて行かれる美月を見たカイキと留也は、
「美月くん、またねー!」
「小猿、逃げるなよ」
と、片や手を振り、片やさっさと踵を返して美月を見送った。
「逃げねぇよバーカ!!」
広い廊下に美月の声が反響する。
そう、どう足掻いても明日は審問の日。
その上、この国の最高司令官に腕を引かれる美月に、逃げ場なぞどこにもなかったのだった。
――――――――――――
暖かく白い湯気が立ち込める。
少年一人には広すぎるほどの大浴場に、ゆっくりと肩までつかるのは、美月にとって初めての経験だった。
「はぁ~、極楽極楽~
風呂ってこんなに気持ちいいもんとは知らなかったなぁ~」
「にしても、ここに連れてこられてから散々な目にあったな。
本は奪われて監禁されるし、脱出したと思ったら頭の中まさぐられるし……」
口元まで湯につかりながら、軍に連れてこられてからの出来事を順に思い返す。
その出来事のせいか、体にはいくつか擦り傷ができており、清らかな湯がその傷口にしみ込んでは痛覚をツンと刺激させた。
「神の審問か……」
美月はふやけた眼もとをキリリと鋭く変えた。
(おれはまだ、死ぬわけにはいかない。
そもそもいくつかまだ疑問が残ってる)
(神の審問を神々の塔で行うのはなぜなんだ?
あの監禁された部屋にあった本たちと【原生の言霊】ってやつの開放……
有言者たちがおれたち神様を恨む本当の理由……)
口でぶくぶくと気泡を作りながらゆっくりと湯に沈んでいく。
美月は混雑した情報を整理させようと頭の中をぐるぐるとかき回すが、どれもこれも明確にさせるための情報が少ない。
「あー!! 頭こんがらがってきた!!
結局こっちにはなんの情報も与えてくれてねぇじゃんあのイケメン司令官ー!!」
がばぁっと急に湯から立ち上がると美月は吠えだした。
その声は大浴場に響き渡り外に漏れ出したようだ。
「ちょっと、誰か先に入ってるの?」
「へ?」
「一番風呂だと思ったのに。先に入ってるなら返事くらいしなさ……」
美月の声に反応したその人物は、入浴準備をすませた、あられもない姿のまま大浴場の扉を開け、美月の前に姿を現した。
長い黒髪に白い花飾りをつけた美少女だ。その黒くぱっちりとした目は驚きでさらに大きく見開き、美月と数秒目線を交差させる。
「……」
「……」
ぽよんとした豊満な二つの果実が美月の目に留まる。
「わお」
「きゃああああああ!!!!!!」
「ぎゃああああああ?!!!!!」
どこから取り出したのか、少女は後ろ手から二丁拳銃をガキンと音をだして両手に装備し、美月に銃口を向け数発勢いよく撃ち込んだ。
「なんだ、何事だ」
銃声が聞こえたのか、軍服姿のままの睦月が大浴場に顔をのぞかせた。
「む、睦月司令官!! 一体なに?! このくそがきは!!」
「あんたこそ一体誰だよ!
つーか武器! 銃おろして!! そんで裸ぁ!!」
「おや、桃間か。
美月殿、いいものを見れたな」
「いやぁ、たいそうなものをお持ちでぇ……じゃなくて!!」
「このガキぶっ殺す!!」
「いやあー!!」
桃間という裸の少女はまたも怒りに銃口を美月に向けるが、その構える腕を睦月がやんわりと制した。
「落ち着け桃間。お客様に向けて銃を乱射するな。
そしてここは、男湯だ」
「へ?!」
「うっ嘘!!」




