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十六夜に落ちる  作者: 長文。
神殺しの軍
11/16

監獄の支配人


「だぁからっ! 俺はやってねぇっつってんだろ!!」


 ダンッと大きな音を出して叩きつけた拳は、そのうすい机をガタガタと揺らした。


部屋の中は薄暗く、光は唯一の鉄格子の窓から若干漏れるだけで、あとは全ての音や温度をコンクリートの壁が吸収してしまいそうなほど狭い空間、いわゆる取調室であった。


眼光の鋭いその屈強な体をした男は、目の前にすました顔で座る、黒髪の、息がつまるようなタートルネックに黒く長い軍服を着た男性に睨みをきかせる。


「……」


黒髪の男性は黙ったまま相手の目を見つめ続けているようだ。


「やってねぇって言ってんのに、こんなしみったれたとこに連れてきやがって。

どうすんだよ、冤罪なんて作っちまったら軍のお綺麗なお上様に泥を塗ることになるんじゃねぇか、あぁ?」


体格のいい男は体のいい言葉を作っては脅しつけるように机に手をつき、すました顔の男性に顔を近づけて、喋る度につばを吐き散らしながらがんを飛ばす。


しかしその態度を跳ね返すような低い声が響く。


「よく喋る輩だな」


その言葉はとても冷たく、冷淡で感情のひとつも入っていないような声だった。


「あ? 今なんつった?」


「まぁ、いい。 嘘をつき続けるなら、こちらで吐かせるまでだ」


そういうと、男性は軽く席から立つ。

左耳につけているピアスがチリチリと揺れた。


「はっ、馬鹿な事言ってんじゃ……」


 体格のいい男が話すと同時に、相変わらず顔色ひとつ変えない男性が、相手の頭を両手でガシッと掴んで、こちらに向くよう視線を固定した。


「俺の()を見ろ」


「全てを見通してやる」


 男性の左まぶたの上には3つの丸いピアスのようなものが大中小と並び、それらは男性の言葉に呼応したのか、心臓のようにドクンドクンと脈を打ち始めた。


「なにすっ.....」


頭を固定されて動けないでいる男は、なにかに強制的に吸い込まれるような異様な雰囲気に飲まれ、脈打つ3つのピアスを見つめさせられた。すると――



『ぎゃあああああああ!!!!』


 突然誰かの悲鳴が部屋中に響き渡る。


「……なんだ」


すまし顔の男性は固定していた男の頭を離し、背中側にある多くの囚人達が捕えられた、監獄に繋がる扉を開いた。


「お前達、どうした」


「か、角の牢屋で悲鳴が聞こえるんだよ!!」


牢屋に閉じ込められた1人の男が檻から腕を伸ばし、震える指先を監獄の奥に向けた。


『あああぁぁぁ!!!!!!』


「おい! こっちだ! 気がおかしくなる!!

助けてくれぇ~!!」


 男の指さした方向から確かに聞こえてくる。

ひとつは耳が痛くなるほどの濁音交じりの悲鳴に、もうひとつはその牢屋に収監さているのだろう男性の助けを求める声だった。すまし顔の男性はカツカツと踵を鳴らし監獄の奥へと進む。


「なんだ」


「壁から悲鳴が聞こえるんだ!!

しかも悲鳴が近くて、絶対なにかいやがる!!」


牢屋の中の男は耐えがたいという表情で牢屋の隅に座り込み、眉間にしわを寄せ歯を食いしばって震えている。そして片手で耳をふさぎ、もう片手はコンクリートでできた、頑丈そうな壁を指さしていた。


『キャアアアァァ!!!!』


依然、壁の向こうからは心をざわつかせる悲鳴が聞こえる。

その声は、壁にあるひび割れた穴の向こうから聞こえているようだ。


「離れてろ」


男性は牢屋のカギを開け中に入り込むと、腰に差していた杖を使い、その穴に向かって勢いよく突き刺した。


ひびは樹木の根のようにびしびしとひび割れ、穴の周りからコンクリートがガラガラと音を立てて土ぼこりと共に崩れ始めた。


「いでぇ!!」


しかし、壁が崩れたと同時に何かが声を出して、瓦礫と共に倒れ込んできた。


「ぎゃあ! し、死体か!?」


 牢屋の中の男がまたも悲鳴を上げ、青ざめた顔で倒れこんできたものを凝視する。


「誰が死体だ!!」


 そこに倒れ込んできたのは、栗毛色の髪を土ぼこりまみれにして、白かったであろう服をところどころ土色に汚した少年。もとい、司令官に本の墓場に閉じ込められた美月であった。



 美月は司令官に閉じ込められた後、壁にある穴を見つけ脱出する方法を考えた。

それがこの鬼気迫るような悲鳴の出る本を、穴に向かって押しつけるという荒療治だった。


それはもちろん、壁の向こうに空間があり、なおかつ人間がいないと成功しない成功率の低い方法であったが、美月は藁にもすがる思いで誰かに気づいてもらおうとその本を使った。


 結果はこの通り、瓦礫と共になんとか本の墓場からは脱出することができたようだ。


「いっ!!」


だが、安堵する暇もなく美月は男性から杖を首元に突き付けられる。


「お前、何者だ。」


「な、何者って……」


急に杖をつきつけられて混乱する美月をよそに、男性は話しを続ける。


「ここは完全鉄壁の収容所、そしてその中でも最も厳重な監獄部屋だ。

お前のような子供がやすやすと入ってこれる場所じゃない」


「監獄……?

え? おれ司令官に閉じ込められたのに、今度は自分で閉じ込められに来たってわけ?!」


 やっとあの薄暗い不気味な部屋から脱出できたと思ったが、脱出先はさらに難のある監獄部屋。

その名も十隊衆五番隊・刑務部隊の牢獄であった。

本の墓場から牢獄へと負のグレードアップしただけではないかと、美月は愕然とする。


 しかしなだれ込んできた美月を見下ろす男性は、今まで表情一つ変えなかったその顔を、険しく崩し睨みつけるような低い声で気になることを呟いた。


「司令官に……だと?」


 なぜこんな子供が司令官を知っているのか、この男性には深い疑問と大きな事件につながっているように感じたらしい。その視線はただただ冷酷に美月を見つめ、しかし手を差し出して助けようともせずに己の頭の中を整理している。

 

 美月はせっかく助かりそうになったはずの状況がなにか不穏に動き始め、そして自分の立場を釈明せねば危険であると本能的に感じた。


「と、とにかく! おれは助けを求めてて、閉じ込められた場所から何とか出ようとしてたところにちょうど壁に穴があって、そこにこの悲鳴を上げる本を突っ込んだんだよ!! そしたら急に壁が崩れて……」


五月蠅い(うるさ )


「ええぇ!!」


 美月の釈明もむなしく、首元に突き付けられた杖はさらに美月に近づいた。


「お前の諸事情などどうでもいい。要は死にぞこないが運良く助かったのだろう」


(ひでぇ言われよう……)


 最早涙目になっている美月は、やはりここにきても助からないのではないかとあきらめかけていた。

すると男性は杖をおろし、美月に顔をグイッと近づけた。


()を見せろ」


「へ」


「口は虚言を吐くが、目は真実を写す。

所在を吐かないなら、こちらからすべてを見てやる」


「ちょっ」


「黙れ」


なにを言っているのかわからないが、なにをしていいのかもわからない美月は男性の言うままに目を見つめた。男性はまぶたをそっとなでると、またも三つのピアスのような玉がドクンドクンと脈を打ち始める。

脈を打つ球がまぶたの上でぐりんと裏がえると、それは三つとも真っ黒な瞳をもった目に変わった。


(まぶたの上に……目が三つも?!)


 三つの目がぎょろっとおぞましく美月を見たと思うと、一番小さな目がバキッと音を出してひび割れた。


「ぐっ……!!」


「うわわわ! 大丈夫あんた!」


 目を抑えうずくまる男性を美月はすかさず倒れないように支えようとした。

だが、片手ではねかえされてしまい美月は倒れた拍子に尻もちをついた。


「近寄るな…… あと少しだ……あと少しで()()が見える……!!」


「面白い、面白い記憶を持っているじゃないか、少年!!!! ふははははは!!!!」


 砕けてしまった目を抑えながら高笑いする男性に、美月は先程までと違う男性の雰囲気に気おされていた。


「あ、あんた……頭おかしいよ!」


「おかしいのはお前だ!!」


 男性は倒れこんでいる美月の首元を乱暴にグイッと引き寄せた。


「もう一度! お前の()()を見せろ!!」


 血の滴る音と、鉄の匂いが正常な判断を鈍くさせているのか。

男性のまぶたにある目がもう一度脈打ち始める。すると……


「そこまでだ!」


入ってきた人物は、今から美月にとって最大の助けとなるであろう人間であった。



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