冬+エピローグ
死刑執行の日。最後に見る彼の姿を目に焼き付けようと私は必死に目を見開いた。今日の彼はいつもと違い、少し緊張しているようであった。彼は大きく息を吸い込んで勢いよくそれを告げた。
「一度だけでいい。俺に姿を見せてよ!!キノが…」
私は息を飲んでその言葉を待った。
「好きなんだ。」
本当は何よりも嬉しい言葉。しかし、今の私にとってそれは死刑宣告のようだった。言いたい言葉が次々と胸に溢れ、まるで大洪水だ。なんで?私は貴方の目の前にいるのに、気づいてよ。私も好きだよ、ずっと一緒にいて。私が消えてしまっても、私を貴方の瞳に焼き付けておいて。しかし、残された言の葉はあと二枚。そして、先程考えたどれも君に贈る最後の言の葉には相応しくない。相応しい言葉、それはとうの昔に分かっていた。後はそれを口から吐き出すだけなんだ。ゆっくりとそれを告げる。
「あなたなんて嫌い」
「2度と会いに来ないで」
もっと相応しい言葉がたくさんあると他の人は言うだろうか。でも、もし好きだなんて言ったら、彼は私が消えたら悲しむだろう。きっと毎日ここにきて私の影を追いかけ続ける。なんだかそれも悪くない気はしたがそれ以上に彼には幸せになってほしい。彼の瞳が悲しみ、絶望を映すのが見えた。これでいいんだ、私は自分を納得させようとしたが、目からは留めなく涙が零れた。最後くらい笑ってほしい、彼をそのようにした私がこんなことを思うのはやはりわがままであろうか。
「私も好きだよ」
私は彼に聞こえることのない言葉を紡ぎ、光の中へと溶け込んだ。
僕は知っていた。彼女が自分の幼なじみの幽霊だということに。でも、分かっていたことを彼女には告げなかった。彼女もそれを望んでいるような気がしたからだ。彼女は自分が何処から来たのか、何者なのかさっぱり分からない、そう言っていた。しかし、本当にそうだろうか。薄々自分の記憶を手繰り寄せていて、気づかないふりをしていたのではないか。そのような考えがぐるぐると廻る。だが、彼女はもう戻らない。あの日彼女にあの言葉を告げられてはっきりとわかった。
「あなたなんて嫌い」
「2度と会いに来ないで」
その拒絶は俺を想って紡いだ言葉。最後くらい人のことなんて考えず、自分の思ったこと話せばいいのに。それが出来ない彼女は何処までも美しく、そして何処までも遠い存在だった。それを考えていると同時にはらはらと2枚の葉がその小ぶりな枝から落ちてきた。それは俺にその残酷な事実を突きつけていた。
あれから何年も経って俺が二十歳になった頃、高校を出てすぐに働くようになった俺は貯めていたなけなしの金で小さな庭付きの家を買った。その庭には植えたての小さな木が控えめに枝を出している。その枝には小さな蕾が温かく注ぐ日差しに応えようと綻び始めていた。
俺が植えた木はあの日の想い出と同じ、いやさらに鮮やかだ。その木の名はサネカズラ。
また君と出会った夏が近付く。今度は俺が君に言の葉を贈る番だ。
サネカズラの花言葉
また会いたい




