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ドラゴンさんとダークエルフのお嫁さん

作者: 笹 塔五郎
掲載日:2018/03/16

 この世に生を受けてから早二千年――ドラゴンであるゴウルは上空を舞っていた。

 青色の鱗に大きな身体。

 特徴的なのは一本の蒼く鋭い角だ。

 《ブルーホーン・ドラゴン》という種類であるゴウルは、この地上にて最強種であるドラゴンの一体である。

 そんなゴウルがここ数年で考え始めた事は――嫁探しだった。


「最近海竜のロンホーも結婚したらしいしな……」


 海竜のロンホーとは、文字通り海辺に暮らすドラゴンだった。

 《シー・ドラゴン》という種族のドラゴンであり、海を統べる者とも呼ばれる。

 その結婚相手は、なんと人間だった。

 以前から関係のあった村の――《竜の巫女》と呼ばれていた少女と関係を持ったらしい。

 寿命の違いなども考えると人間と結婚するのはどうかとも思うが、二人が愛し合っているのならばそれでいいのかもしれない。

 ゴウルにはまだ分からない感覚であったが。


「俺も二千歳……そろそろいい歳だからな」


 ドラゴンの平均寿命は五千年から七千年と言われる。

 その長さで考えれば、すでに半分か三分の一度しかには迫る事になってしまう。


「でもなぁ……どうやって探せばいいのか……」


 上空から見ていても、分かるのは獲物くらいなものだ。

 同じドラゴンだと、どうしても縄張り意識や闘争心の方が上回ってしまう。


「うぅむ……」


 ゴウルは悩む。

 上空で旋回しながら、ふと再び下を見下ろした。

 そこで一つの小さな村が見える。


(そういえば、ロンホーのやつが言ってたな……)

『最初は勝手に住まわせてもらったんだけど、気付いたら守り神扱いでさぁ、困ってたんだけど、慣れると悪くないもんよ』


 そう、ロンホーも初めからその村と仲がよかったわけではない。

 時間をかけて、今の関係性に至っているわけだ。


「俺にもできるか……いや、しかし、ドラゴンっていうだけでも結構怖がられるしな……」


 ゴウルは考える。

 そして、一つの結論を導きだした。


(そうだ。どうせビビられるなら、嫁を寄越せって要求してみるか)


 誠意ある態度を示せばきっと何とかなる。

 ゴウルはそう考えた。

 くるりくるりと、上空を舞っていたゴウルは、思い立ったと同時に滑空していく。

 目に入った村で試しに進言してみる事にした。

 ドォン、という大きな音と突風を巻き起こしながら、ゴウルがその場で声を上げる。


「――若い娘を出せ! この俺のモノとなる若い娘だ!」


 せっかくなら若い方がいいという欲と、嫁と表現する恥ずかしさから、そんなちょっと言い回しを変えてしまったゴウル。

 そんなゴウルを怯えるように見上げていたのは、森の中で暮らしていたエルフ達だった。


   ***


「……」

「……」


 スッとゴウルが手を動かすと、ビクリと目の前の少女は震えた。


(どうしてこうなった)


 肩にかかるくらいの銀髪に褐色の肌。

 先ほど見たエルフ達とは特徴の異なる少女は、《ダークエルフ》と呼ばれる種族だった。

 布切れ一枚しか着ていない姿で、怯えたままにゴウルを見上げている。

 広義的には見ればどちらもエルフではあるが、生活体型など色々な面で異なるらしい。

 それくらいの事しかゴウルは知らない。

 ただ、要求に応じて出されたのはダークエルフの少女だったのだ。


(人間――ではなくエルフか。しかし、雌の年齢は分かりにくいな)


 そうは思いながらも、目の前の少女は確実に子供であると言えた。

 おそらく十歳を過ぎたあたりだろうか、まだ親元を離れるには早すぎるくらいだ。

 そんな風にゴウルが見ていると、少女がようやく口を開く。


「わ、わたし、はネア、と言います」

「ネアか」

「は、はい。ド、ドラゴン様の生け贄として、ここに来ました。だから、村の方にはどうか、手を出さないでください」


 そう言い終えると、ネアは震えながら地面に手を付き、頭を下げた。

 ゴウルは首をかしげる。


「ん、生け贄?」

「は、はい――え、違うんですか?」

「いや俺は生け贄など――」


 言いかけたところで、自身の言葉を思い出す。

 若い娘を出せ、などとドラゴンが言えば、間違いなく生け贄と勘違いされてしまうだろう。


(やべえ、緊張してて気付かなかった……)

「あ、あの……?」

「あー、あれだ。お前はまだ若いし、村の親御さんのところに戻ってだな――っていうか何歳だ」

「じゅ、十一歳です」

(マジか……)

「とりあえず、村に戻った方がいい。親も心配しているだろうし」


 歳の差何と1989歳――エルフ族は長寿ではあるが、目の前の少女が本気で幼かった。

 何とか軌道修正を計ろうとするゴウル。

 だが、ネアはふるふると首を横にふった。


「……ここには親はいません」

「なに?」

「ダークエルフは、この村だとわたしだけです」


 拾われた子だから――そう、ネアは続けた。

 だから、ドラゴンが来たときの生け贄に真っ先に選ばれたのだと。

 ゴウルは目を細める。

 自分で言っといてなんだが、こんな小さな子を差し出すなどどうしたものなのか、と。


「お前はそれでよかったのか?」

「は、い。わたしみたいなのでも、一緒に暮らさせてくれました」


 そう言って俯くネアの表情は暗い。

 本心ではそう思っていない事がよくわかった。


(まさかこんな事になるとは……)


 目の前の少女、ネアをそのまま村に返すのも気が引けてしまった。

 なぜなら、ネアはすでに生け贄として選ばれてここにいる。

 仮に助かったとして戻っても、エルフ達に受け入れられるか分からない。

 ゴウルはネアに問いかける。


「ネア、よく聞け。俺はここに花嫁を探しに来た」

「え、花嫁って、お嫁さん……?」


 きょとんとした表情で問い返すネアに、ゴウルは頷く、

 そっとネアの前に、大きな腕を置いた。


「つまり、お前は俺の嫁として差し出された事になる。だが、お前にも選ぶ権利はある。この俺の嫁になるか、村に戻るか」


 その選択は、ネアに委ねる事にした。

 ネアはだんだんと状況を理解してきたのか、なぜだか頬を紅くして目を泳がせる。


「そ、そんな、お嫁さんなんて……わ、わたしまだ……」

「ならば、村に戻ればいい」


 ゴウルがそう促すと、ネアはバッとゴウルの腕に抱きついた。

 今度のネアの表情は、なぜか嬉しそうだった。


「ち、違うんです。わたし、誰かに必要とされたの、今日で二回目なんです」

「二回目?」

「一回目は、生け贄として。二回目は――お、お嫁さんとして……」


 恥ずかしそうに俯くネアに、ゴウルの方が恥ずかしくなってくる。


(うわぁ、出会ってすぐにプロポーズしてるって事かこれ……)


 そう考えている間に、ネアが決意を固めた表情でゴウルを見た。


「わ、わたしをお嫁さんにして、くださいっ」


 ネアがそう言って、ゴウルの大きな手を強く掴む。

 こうして、ゴウルはダークエルフの幼妻を手に入れる事になった。


   ***


 《竜の魔導師》と呼ばれる男がいた。

 大きな角のような飾りを頭につけ、細長い体型をしている男だ。

 ドラゴンと互角の実力を持っているとして、男はそう呼ばれていた。

 男の名はゴウル――今は人に近い姿で、辺境の地に住まう。

 ゴウル自身ローブや包帯などで身を隠さなければ、その異様な身体が目に入ってしまう。

 人型近い姿になれるとはいえ、その姿は人から見れば異形のものだ。

 幸い魔導師というのは奇抜な格好の者も多く、ゴウルもその一人だと思われていた。

 今では、近くの村で頼られる存在となっている。

 そんなゴウルの傍にはいつも、ダークエルフのネアがいた。


「ゴウル様、そろそろお昼にしませんか?」

「ああ、そうしようか」

「あ、あと……家に帰ったら昨日の続きも……」

「ああ、それはまた今度だな……」

(夜の営みとか俺も詳しくないし……)


 お互いに知識のない事をするのは難しい。

 ゴウルは最近になってその事を学んだ。

 そんなドラゴンとダークエルフは、今日も静かに穏やかな日々を過ごす。

こういうのが最近すごく書きたくなります。

連載候補の一つですね。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 脱字報告 寿命の違いなども考えると人間と結婚するのはどうかとも思うが、二人が愛し合っているの『』らばそれでいいのかもしれない。 ↓ 寿命の違いなども考えると人間と結婚するのはどうかとも…
[一言] 初めまして、拝見させていただきました(^^) 特筆すべきはこの報われた感ですかね。ハッピーエンドへと向かっていくこの感じは是非とも見習いたいです! 連載もアリなのでは?
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