喉に痞えた痛み
残されていた希望が唐突に潰える。
石山本願寺を支援していた雑賀衆が、武器も捨て、傷を手当てする余裕もなく、備前へと逃げ延びてきた。八方を塞がれた三木城を救い出す道を探していた直家たちを、奈落へと突き落とす知らせを運んで来たのだ。
「馬鹿な! 石山本願寺が落とされただと? 食料や武器も十分、水路には六百艘からなる村上水軍が守っていたのだぞ」
「織田家の九鬼義孝が鉄板を張り巡らせた巨大な船で木津川の河口に城壁を築いたのです。船同士を渡し板で繋いで橋とし、そこから兵を送り込んだのです。橋を落とそうにも、銃眼から一斉に撃ちかけられ、近づく事も出来ず、村上水軍は成す術もなく」
「船で、……橋を?……」
石山本願寺に居るのは、訓練もされてない家を焼かれた民の集まりだ。数は居ても、小競り合いでなら持ち堪えられるが大軍で押し寄せられては、いや、数がいるからこそ、武装した兵に詰め寄られた時の混乱は、収めようがなく広がってしまう。だからこそ、橋を落とし安全圏を作ったのだ。兵が渡れぬ場所に、戦えぬ子供や怪我人を集め、無理をして渡ってくる可能性がある方に若い男たちを集めていた。
それが仇となった。
船で橋を作るなら、最も弱い部分に上陸できる。突然、襲い掛かって来た重装備の騎馬隊に、逃げ惑うしか無い者たちの悲鳴が恐怖を運ぶ。目を背けたくなる惨状であったであろう。
「石山本願寺が落ちたとなれば、織田家は西に兵を進めてきます」
荒木村重も城を守れんだろう。三木城を助け出すのも間に合わん。
抗いがたい流れを遡ろうとする木の葉は感傷にも値しない。
「小早川隆景殿と連絡を取ってくれ」
「それでは、毛利水軍と協力して?……」
既に考えたはずの策であると、長船貞親だけでなく他の家臣たちも小首をかしげたが、それに答えた宇喜多直家の言葉に、思考が停止した。
「……宇喜多家は、織田信長に、降伏する」
見開かれた眼だけが直家に向けられて、沈黙が流れた。
誰一人、身じろぎ一つ出来ぬ沈黙が流れた。
「何故だ!」
時が止まったかのような沈黙を、忠家の咆哮が破った。
「浦上家を裏切ってまで! 水軍を率いて将軍を助け出してまで! 織田家と戦うと決めたんじゃなかったのか!」
忠家の握りしめた拳が、壁に跳ね返った言葉が建物を揺らしているかのように震えていた。
「何のために……、浦上家を討ち、三浦家や後藤家と戦ったのは、何のため、……何のためだったのだ!」
黙っていた直家が静かに口を開く。
「全ては、この国の民を救うためだ」
言葉は、重く、積み重なるように。




