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戦国異伝~悠久の将~  作者: 海土竜
天廻争乱
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児島の戦い 毛利家の動向

 海と山からの攻撃で、本太城は簡単に落ちた。

 街道で正面から当たった戦いは言うに及ばず、山道や茂みで足場の悪い場所での切り合いにおいても、村上の兵は、宇喜多家の兵の敵ではなかった。

 終始優勢に城門を突破し、軍港を抑えた小早川隆景と合流すると、村上の兵は統率を失って散り散りに逃げ去った。


「おかしいな……」


「どうしたんだ? 悩む必要がないほど圧勝じゃないか」


 小早川隆景は首を傾げた。


「それだよ。……陸戦では、圧倒的に不利なのは分かっていたはずだ。それなのに、なぜ、毛利家の城を奪うような真似をした?」


「島に渡る前に防げると思ったのでは?」


「なら、上陸された時点で、撤退もあり得た。結果の分かりきった籠城を続ける必要もなかっただろう」


「一度手に入れた城は捨てがたいものだが……。何かを待っていた、とも考えられるか」


「戦場で待つものは、味方の援軍か、敵の撤退だろう。大友家や三好家の後押しがあったとしても、直ぐに兵を送れるとは思うまい」


 小早川隆景が、答えるまで僅かに、沈黙した。


「元就様が、……危うい」


「何だって?」


 驚かされたのは直家の方だった。

 高齢のため健康状態は様々な憶測が噂されていたが、同じ相手を敵として戦ったとはいえ、他家の者にこうも明け透けに答えるとは、これがどれほど重要な話であるのか分かっていないのか。


「長く臥せっていてな、夏までは持つまい」


「村上武吉もそれを知って、毛利水軍が撤退すると見越していたのか? しかし、そんな話、毛利家の家臣ではない私の前でしても良いのか?」


「別に隠さねばならない理由もないさ。毛利家は、輝元様を支える両川体制で盤石だからな。……だが、だからこそ、歯止めが利かなくなるかもしれぬ」


 これまでの物言いからして、小早川隆景が言い淀むとは、らしくない。


「……天下を望まぬと言われた元就様がいなくなれば、若い輝元様を止める者がいなくなる。領地の内の支配体制に問題がなければ、外に目が向く、支配の及ぶところを広げようとする。そうでなくては上に立つ器ではない。だが、領地を広げれば、両川では埋めきれぬ隙間ができるかもしれん」


 歯止めが利かなくなるのは、若い主君を担いだ家臣たちの事でもあるのか。


「その葛藤は、乱世に生まれた戦人の業かもしれんな」



 戸川通安は安宅船と離れるのを名残惜しそうにしていたが、直家は本太城を小早川隆景の毛利水軍に任せると、転進して佐井田城の救援に向かった。激しい合戦の最中に到着しても、海戦と違って、勝手知った野戦であれば兵たちも自在に動ける。


「無事か、家利!」


「直家様、三村兵は一人として城壁に取りつかせはしておりません! あと一歩、前線を押し上げれば、総崩れになる事でしょう」


「ならば、このまま松山城まで押し込むぞ!」


 備中の中心にある松山城は三村家の本拠地でいくつもの峰に連なる城郭を持っている。逃げ込まれれば被害なくして落とせはしないが、防備を固める前に城門を抑えれば勝機がある。


「三村元親を逃がすんじゃないぞ!」


 直家も先頭に立って追撃を始めたが、松山城を目前にして、三村兵の足が止まった。


「奴ら、どうしたんだ?」


「ここまで来て、城に逃げ込まないのは、もしや……」


 遠目から見ても松山城のあちこちで煙が上がっている。思いもよらぬ誤算だった。


「庄高資が松山城を占領したのか? それほど兵を動員できたのか!」


「直家様、あの旗は……毛利家の物、毛利元清の旗です!」


 誤算は誤算で塗り替えられていた。


「なぜ? いつの間に? 毛利元清が城に攻め込んでいるのだ」


 直家にとっては、ただの計算違いであっても、三村元親にとっては、取り返しのつかない過ちであった。宇喜多兵から逃げ城に戻ろうとすれば、城は既に落ちていたのだ。敵の手に落ちた難攻不落の山城は、退路を塞ぐ障害物でしかない。敵に囲まれて逃げ場もない、選べる道は兵を捨て落ち延びる他になかった。


「毛利元清は味方なのですか? 敵なのですか?」


「三村家の敵であっても我らの味方とは限らんが、しかし、今、毛利家に攻撃するわけにもいかない……」


「……ですが、松山城を抑えれば、備中を支配したも同じです。それを、むざむざ毛利家に明け渡して良いのですか?」


「毛利家には……、確かめてからだ。毛利元清の行動が毛利宗家の意思なのか、毛利元就と話し合わなければならんな」


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