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戦国異伝~悠久の将~  作者: 海土竜
天廻争乱
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松田元輝

 山陽街道を離れ、少し北側の山の中を通っていた。

 街道からはそこに道があるなど気が付きもしなかったが、木々の間を東西に走る山道は馬を並べて通れるほどの広さもあり快適に進む事が出来る。

 おかげで斥候を隊列の前後に移動させるのも楽にできたし、その中には隊列の先頭の様子を見る者だけでなく更に遠くの情報を持ち帰ってくる者も混ざっていた。

 伊賀久隆の話を全て信じていた訳ではなかったが、会話の最中にこっそり手のひらを後ろに向けて指示を出し、四方に放った斥候が持ち帰ってくる情報は、彼の話の正しさを裏付けていた。

 旭川に近づき安堵し始めた頃、先頭で隊列を率いていた伊賀久隆が急いで馬を走らせて来る。


「直家様、暫しお待ちください。玉柏の渡しで松田元輝の兵が現れ、小競り合いになっております。大した数ではございませんので、背後に兵を送って一人も逃さず殲滅いたします」


「松田元輝か……。龍ノ口の岡家利に連絡は取れるか?」


「はい、岡殿は、対岸に兵を用意して待機されております。警戒されぬように、身を隠しておりますが、直家様が到着すればすぐに合図を送れるように手筈は整えております」


「ならば、家利に今すぐ兵を岸に並べて、川を渡る用意をさせよ」


「はっ」


 疑問を差し挟みもせず、伊賀久隆は頭を下げる直ぐに馬を走らせた。

 対岸で目立つように旗を立てて整列した岡家利の大軍が川を渡ろうとし始めると、慌てた松田元輝の兵が我先に城へと逃げ帰る。


「なるほど、あれだけの大軍だと、渡り切るのに、かなりの時間がかかる。……そういう事ですね?」


 隣に馬を寄せてきた遠藤俊通が、含みのある笑みを浮かべた。


「ああ、そういう事だ。これから北に進路を変え、金川城へ向かうぞ」


「おっと、それはちょっと、お待ちください」


「何だと?」


 ここで異を唱える遠藤俊通の意図が分からず、睨みつけるように振り向いたが、それでも彼は、笑みを浮かべたような、相手を見透かしたような涼しい顔をしていた。


「直家様は、先に川を渡って、岡家利殿と合流した方が良いでしょう。金川城へは、俺たちと伊賀殿で向かえば済む事ですよ」


「ん?……。しかし……」


「大将が陣頭に立たねば、とか考えているんですかい? 直家様は、平気でしょうが、姫様を城攻めに付き合わせるのは、酷ってもんでしょ?」


 今初めて気づいたかのように融に目を向けた。黙って、じっと従ってはいるが、馬に乗せて連れまわし、かなり答えているはずである。それでも不平も言わずに堪えていたのだ。「その姫を安全な場所へ連れていけ」そう言われれば引き下がるしかなかった。



 直家が旭川を渡り、馬車を先導して亀山城へ向かっている頃、金川城攻めが開始されていた。

 岡家利の兵が川を渡るのをけん制するために兵を出した隙をついて、伊賀久隆と遠藤兄弟の部隊が城を取り囲んだが、金川城の兵は素早く城門を閉めて籠城の構えを見せていた。出陣した兵が戻るまで守れば良い、先が見えるからこそ、少数で城を守らねばならなくなった兵士たちにも余裕が窺えた。

 だが、城を急襲したのが配下の伊賀久隆であると知ると、怒りで頭に血が上り、冷静でいられなかったのは松田元輝である。


「この裏切り者が! 良くも顔を出せたものだな、恥を知れ! 長年面倒見てやった恩も忘れ、主君に歯向かうなど人にあるまじき行為。仏罰を恐れぬ悪鬼どもめ、地獄に落ちて、業火に焼かれるがよい!」


 櫓に上り、城門前に詰め寄った伊賀久隆に向かって罵声を投げかけると、仏の力で敵を倒そうとでもいうのか、経を上げ始める。


「何やら叫んでいるのがいるが、あれは誰だ?」


「松田元輝殿だ……」


 伊賀久隆は、数々の罵詈雑言も聞きなれていると言わんばかりの冷めた顔で、静かに松田元輝を眺めていた。かつての主君に向けられる眼差しは怒りよりも悲しみを感じさせるものだった。

 そして、松田元輝の念仏は、遠藤俊通の銃弾によって遮られた。


「……撃って、良かったんだよな?」


「……ああ…………」


 攻城戦と呼ぶには、余りにも呆気ない幕切れだった。

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